男前な柊さんが俺の前でだけ乙女

おとら

第1話 出逢い

……ん? 何かザラザラするなぁ。


ふと目を開けると……そこには我が家の愛猫、サクラがいた。


ぺろぺろと、俺の顔を舐めているようだ。


ツンデレさんなので、これは中々に珍しい。


「おっと、春の陽気に釣られてついにデレ期ですかね?」


「フシャー!」


「イタイ!?」


軽く猫パンチを食らわせ、俺のベッドから降りる。

そして『ふんっ』という顔をして去っていった。


「まったく、朝から酷い目にあった……朝?」


そこでふと気づく。

外が明るいこと、その外から人の声がすることに。

恐る恐る時計を見ると……時計の針は七時五十分を指していた。


「……寝坊だァァァァァ!?」


俺はベッドから飛び降り、パジャマを脱ぎ捨てる。

そのままワイシャツとブレザーを羽織り、ズボンを履いたら階段を降りていく。

手早く顔を洗い、気持ち短めに歯ブラシを済ませる。


「時間は……よし、八時ジャスト」


八時半までに校門に入れば、ギリギリ遅刻扱いにはならない。

ここから高校までは自転車で行けば、二十分くらいで着く。

目立ちたくない俺は、間違っても遅刻するわけにはいかない。


「遅刻して、教室に入った途端に注目を浴びるなんてごめんだ。まだ二年生になったばかりだし」


そのことを想像して身震いがした。

我ながら、何と情けないことか。

頭を振り、出かけることに集中する。


「お腹すいたけど、朝ごはんを食べてる暇はないと……髪はこのままでいいか」


鏡の前で野暮ったい前髪を触りつつ、少しげんなりする。

重たく長い髪、暗い印象……まあ、根暗にしか見えない。

そんなことを考えていると、いつの間にかサクラが足元にいた。


「ニャー」


「悪いけど、サクラに構ってる暇はないんだよ……あっ」


そこで、ようやく気づいた。

うちのサクラが腹ペコな事に。

父子家庭な上に父さんは朝早いので、ご飯をあげるのは俺の仕事だ。


「ご、ごめん! そっか、お腹すかせて起こしにきたのか」


「ニャー!」


やっと気付いたとでもいうように、俺のふくらはぎをホリホリしてくる。

どうやら、デレたわけではなくお腹が空いてだだけみたいです。

やはり、俺のヒエラルキーは一番下のようですね……すん。


「す、すぐに用意します!」


「ニャー」


そのまま台所に向かい、急いでサクラの朝ご飯の支度をした。

食べている間に水も交換して、まだ食べているサクラに声をかける。


「んじゃ、行ってくる」


「ニャー」


もう用はないとでもいうように、俺の方には見向きもしない。

少し切なくなりつつも、俺は家を飛び出すのだった。




信号待ちにてスマホを確認しつつ、学校へと急ぐ。

どうにか、目立たないで教室に入れるいう感じだ。


「よし、青に変わった」


信仰を渡り住宅街を抜け、川辺の道を漕いで行く。

ここまでくれば見晴らしもいいので、スピードを上げる。

既に登校してる生徒もいないのである程度は平気だ。


「よしよし、これなら余裕で間に合うぞ」


「ちょっと待ったァァァ!」


「うわっ!?」


いきなり、目の前に人が飛び出してきた!

思わずブレーキを踏んで、どうにか轢かずに済む。

そもそも、どっから出てきたんだ?


「飛び出してごめんなさい! あのさ、同じクラスの橘君だよね?」


「へっ? ……柊さん?」


よく見ると、それは知っている人物だった。

腰まで届きそうなサラサラで綺麗な金髪に、まるでモデルさんのようなスタイル。

ギャルのような雰囲気で、いかにも遊んでますという感じ。

気の強さを感じる顔つきだが、学校一の美少女と呼ばれる柊彩花さんだった。

同時に、少しおっかないという噂も。


「そうそう。あのさ、後ろに乗せてくれない? ちょっと、遅刻しそうなの」


「いや、そもそもどっから……」


「うん? あぁー……あの金網を乗り越えてきたの」


そう言い、川の反対側にある金網を指差す。

確かにあるけど、それは二メートルくらいある。

そこから飛び降りたってことか……なるほど、活発な女の子らしい。


「はぁ、危ないから気をつけた方がいいよ」


「……それって、私が女だから?」


そう言い、少し睨みつけてくる。

なるほど、これは迫力あるなぁ。

確か、何人もの男子の告白を粉砕してきたとか。


「へっ? いや、別に男とか女は関係ないよ。ただ、普通に危ないし。強いていうなら、スカートだから足に怪我しやすいかな」


「関係ない……」


「というか、少し先に川辺に降りれる通路あるのに」


「えへっ、めんどくさくて」


そう言い舌を出して笑う。

先程とのギャップに、思わず可愛いなと思ってしまった。

そして、雰囲気が柔らかくなる。


「そ、そう……」


「それより、とりあえず早くしないと遅刻しちゃう」


「二人乗りは危ないから乗せないよ。そもそも、違反だからダメだし」


「へっ? ……じゃあ、遅刻するしかないじゃん」


「というわけで、どうぞ」


俺が自転車のハンドルを柊さんに渡すと、彼女がポカンとする。

ぶっちゃけ、押し問答をしている時間の方が勿体ない。

なので、こうするのが一番マシだろう。


「ど、どういうこと?」


「それ、使っていいからさ。その代わり、俺が貸したとかは黙ってて」


「ちょっ!?」


それだけ言い、すぐに走り出す。

そのまま道中にある階段を上がり、最短距離で走り抜ける。

そして、さっきまでのことを思い出す。


「……なんか、イメージと違ったなぁ」


話したことはないけど、結構きつい性格だとは聞いていた。


だけど、全然そんなことはなさそう。


やっぱり、決めつけは良くないね……反省反省っと。










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