第3話 曽呂門町の神様 その3
真っ赤な熔鉱炉に重量20キロのアルミのインゴットを投入する。
休憩まであと20分。
あと20分したらリリスのSNSが見れる。
ハロウィンの夜に曽呂門町で彼女と出会ってから、僕の日々の楽しみは彼女のSNS更新をチェックする事だった。
休憩を告げるチャイムが鳴る。
アルミの製品を金型で鋳造する機械を作動させたままで、急いで休憩室に走った。
休憩時間はたったの10分しかない。
同僚たちの輪から離れ、スマホの画面を開く。
曽呂門町最強メイド💜リリスちゃんLilith@…2時間
おい、リリスのファンの人たち❗
生きてたら、らぶりつちょうだい❗️
曽呂門町最強メイド💜リリスちゃんLilith@…3時間
昨日も『シルヴァニア』は大盛り上がりでした🎵
たくさんの乾杯、差し入れありがとう💓
更新されるのは、彼女の可愛さをアピールする自撮りの画像と、彼女の個人的な事情や心情ばかりだ。
承認欲求丸出しで、たまにほとんど意味のわからないたった一言だけの書き込みもあるのに、リリスのSNSはなぜか見ていて楽しかった。
リリスの曽呂門町での人気がどれほどかはわからないけど、更新された内容には常に20から30くらいの好意的な反応があり、コメントの数も多い。
リリスのSNSは自信に満ち溢れ、若くて可愛い容姿に恵まれた女性の価値を最大限に発揮していた。
時折高飛車な言葉使いでファンを挑発したり、愚痴っぽい書き込みをする時もあるけど、その猫のような気まぐれな態度がどこか微笑ましく、嫌な気は全然しなかった。
曽呂門町最強メイド💜リリスちゃんLilith@…40分前
今日は20時から『オズ』でお給仕するよ! みんなリリスに会いに来て!
作業再開のチャイムが鳴った。一時の愉しみが早くも終わる。
吸っていた煙草を揉み消して、同僚たちが続々と作業場へ戻って行く。
スマホを作業着にしまって休憩室を出ると、鉄や油が焼け焦げた臭いとその熱に加え、絶えず響く機械や計器の音がガンガンと頭に飛び込んで来る。
このどうしようもない現実。
以前は毎日気が滅入るほど堪えたがいものだったのに、リリスに出会ってからそれが少し和らいだ気がする。
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