曽呂門町の神様
祐喜代(スケキヨ)
第1話 曽呂門町の神様 その1
ワタクシらは、廃墟になった商業ビルにひっそりと鎮座する名もなき神様。
元はアメリカのアーティストが創作した金髪のこましゃくれた子供のようなオブジェで、
この廃墟になった商業ビルは曽呂門町のランドマークとして、街で一番華やかだった場所。
ネオンと装飾で彩られた6階建てのビルには、和洋折衷何でも揃ったレストランBARと、ステージ付きのキャバレー、ポーカーとジャックスポットが楽しめるカジノ、夜景が見えるジャグジーで殿方が性的な接待を受けるスペースなどもありました。
食欲、色欲、金銭欲…。
この世のありとあらゆる欲とお客さんを何人でも抱え込めるキャパシティがあった賑やかなビルでしたけれど、バブルが弾けてビルが廃業した今は、1階と2階がバスプールに変わり、そこから上の階は鉄筋コンクリートが剥き出しのまま残っているだけの、ひどく寂しい場所になってしまいました。
ワタクシらだけが最上階の展望スペースに残り、この街の栄枯盛衰と、かつてのワタクシら同様にここから奈落の底に落ちていく者たちを見守っています。
ワタクシらに手を合わせ、願いが叶う者もいれば、叶わない者もいます。
願いには必ず代償があり、叶えた欲望と等価交換の不幸があります。
ワタクシらも、かつてはこの街で夢を追い、幸福を手に入れようと躍起になっていました。
誰よりも美しく、裕福で、華やかでありたい。
この街はそんな欲望を糧に動く生き物のようです。
だから天国と地獄が地続きでループしているような場所でもあるんです。
この街で夢を追って儚く散っていった者たちのために、ワタクシらの元には手向けの花なども添えられるようになりました。
そして商売繁盛の神様だったワタクシらは、いつしか無念に死んでいった者たちの魂が寄り集まる不吉な神様として囁かれるようになりました。
そんな負のイメージに引き寄せられた人たちの魂もまたこの地に縛られ、ワタクシらと一緒に神様になります。
ワタクシらは時間を超えて、様々な思念と記憶をこの地に物語として刻まなければいけません。
それが決して成仏する事が叶わないワタクシらのせめてもの弔いになります。
ワタクシらはこの地の神様として延々とワタクシらの物語を繰り返していくのです。
さて、また一人可憐な少女が、ワタクシらの元にやって来ました。
ワタクシらは彼女の願いを聞き届け、その願いに見合った代償の結末を見届けなくてはなりません。
「この街で最強のメイドになる!」
それが彼女がワタクシらに願った夢でした。
ワタクシらはその夢を叶えてあげる事にしました。
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