助けてくれてありがとう、パパ。でもね……
Hugo Kirara3500
第1話
あたしは今日もひなたちゃんと隣のデスクと隣り合って仕事をしている。私達の見た目はおとなしめのオフィスカジュアルを着たOLなのですが、彼女には実は秘密があるのです。
彼女は中学校に入るか入らないかの頃に突然消えた幼馴染だった。そしてあたしが大きくなって彼女についてのことを伝え聞いたとき、肝心なところはぼかされてマイルドに言われたのですが、それでも数日間涙を泣きはらして母を心配させました。それから時間が経って彼女の父親から手紙が来てうちの会社の面接を受けて入社したのです。そのときは涙を流して抱き合いました。
彼女は、昼休みになると個室にこもることが多かった。口では「ちょっと休んできます」なんて言っていたけど、出ていくときは弁当やお菓子、ペットボトルなどを持っていたことはただの一度もなくて、その代わり必ず仕事で使うプログラミング言語の独習本とかを持ち込んだりしていたりしていた。
あたしは彼女とずっと一緒に仕事をしたり家で話したりしていて、重大な秘密を持っているらしいことを感じてはいたんだけどそのへんのことについて話したがらないのは無理もないし、とても直接聞く気にもなれないんだけど、あたしは心配だったし、ずっと無理やり押さえつけていた、あたしの頭の中でぐるぐる回っていた、再開できたことへの複雑な感情とか戸惑いとかがもう爆発寸前だった。
そんな時、あたしはひなたちゃんがうなじの防水キャップをずらしてポケットから出したケーブルを壁のUSBコンセントにつないだところを横目で見てしまった。その時彼女はそのケーブルを繋いだまま仕事をしていた彼女の物悲しそうな、そして何かを吐き出しそうな表情をしていた。いつもはあるときは笑顔であるときは表情も変えずに「食事」をしているところをちらっと見ては記憶から消していたけど、今回ばかりは様子が違っていた。なんで彼女に話しかけることも出来なくてさっとあたしの脳から記憶を消すのかと言うと、あたしにはなんでかわからないけど本人は「食事」中の様子を他人に隠しているつもりみたいで私と目が合ったらバタバタしてあわてるのがいつものことだったのです。でも今回ばかりは勇気を振り絞って声をかけました。
「ひなたちゃん、どうしたのよ。あたしが話を聞いてあげる」
「あんたも薄々感じていたみたいだから話してあげる。本当のこと。パパと一緒にいたときは本当に幸せだった。でもパパとママと別れてからはそれはそれは悲惨だったの。鬼とか悪魔としか言いようがない、いやそれだけではまだ足りない継父に毎日のように毎日のように腹を殴られた。何度でも言うけど子供をサンドバッグにした極悪人。それでママは止めずに見てるだけ」
「そして内臓破裂。あっさり箱詰めされて埋められた。それからどのくらい経ったかわからないけど、そのパパが『助けに来た』の。そのときはまるで暗闇の中で横になっていた私の前に神様がやってきて一筋の光が差し込んだように思えたの」
「『パパに助けてもらった』ってどういう意味?」
「ある日突然意識が地中から呼び寄せられてこの機械の体に収められたの。最初から大人の姿だから初めは結構戸惑ったのよ。そしてパパに見せてもらった裁判記事。親権を無理やりままに渡すことにした簡裁の判事の後頭部をクソ継父と同時にビール瓶で叩いてやりたいぐらい。それでも彼らにとっては蚊に刺されたぐらいかもしれないけどね。それから数年の学生時代は一緒にいてあんたの紹介でここに勤め初めて、二、三年経った頃に会社の近くのマンションに移ったの。パパは涙を流して寂しがった」
つらい思いをしたから仕方がないけど、可愛い顔して言うことがえげつなくてそこが痛々しくて涙が出そうだった。ひなたちゃんとそんな話をしていたら彼女は、同僚がビル一階のコンビニで買ってきたカツカレー弁当を、向かいのデスクで作業をしながら食べていたのを見てしまった。
「ねえ、はるなぁ、またあのカレーの味を口で感じたいの。何の味もしない電気じゃなくて。」
と、あたしに覆いかぶさりながら言ったんです。
「そんな事あたしに言われても困る……」
と独り言をつぶやきながらあたしは悩んだ。あたしはエンジニアと名乗っているけどただのソフト開発メインの技術者でハードの知識は全く無いので荷が重すぎました。こうしてあたしは厄介な「宿題」をまた一つ背負ってしまったのです。そうだ、この間社員食堂で会ったメカトロ部門の瀬尾さんに相談してみよう。出来るまで何年かかるかわからないけどあたしも頑張る。
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