VIP? 10万円の紹介!

崔 梨遙(再)

1話完結:1300字

 僕が二十代の終わりだった頃、40代の先輩の石原さんが、僕に“女を紹介したるわ”と話しかけてきた。僕は、最初は断った。丁重に辞退しようとした。だが、先輩の押しに負けて土曜日に飲みに行くことになった。


 女の娘(こ)は、石原さんの奥さんのパート先の女の娘だった。よって、石原さん夫妻、女の娘(泰子)、僕が紹介イベントのメンバーだった。小料亭に入った。その小料亭に行くのは初めてでは無かったが、既に石原さんによって大体のメニューは決められていた。店の高額なメニューのオンパレードだった。勿論、4人分。確かに美味い。だが、支払いのことを考えると気が重い。


 だが、僕と泰子は世間話はするが、あまり盛り上がらなかった。泰子は全然僕の好みではなかったのだ。そもそもぽっちゃりだ。これは好みによってかなり変わると思うが、僕はどちらかというと細い方が良い。僕の好みは石原さんがよく知ってるはずなのに、どうしてこうなる? 今日を楽しく過ごしたら、その後は泰子には連絡しないだろう。


 僕としては、早く帰って寝たかった。泰子に興味が湧かないのに、興味があるフリをして会話を進めるのはしんどい。苦痛だ。僕はHがしたいわけじゃない。彼女が欲しかったのだ。彼女にしたくない女性と話すのは嫌だった。そもそも、自分で探そうと思っていたから、今回の紹介は気が進まなかったのだ。あ、誤解の無いように記すと、泰子は決して悪人ではなかった。普通だ。もしかしたら普通よりも人が良いかもしれない。だが、内面も大事だが外見も大事だ。


 お会計! 約8万! まあ、高額料理を4人分なのだから、当然だろう。石原さん夫妻はよく飲んでいたし。だが、この時点で予算オーバーだ。僕は5万までにおさめたかった。


「ほな、今日はこれで」


 僕は逃げようとしたら、石原さんに捕まった。


「待てや! カラオケ行こうぜ!」


 当時、今よりもカラオケは高かった。その上、部屋と雰囲気は良いが値段は高い店を選ばれた。僕はほとんど歌わなかった。泰子もあまり歌ってなかった。カラオケの間、僕はほとんど泰子と喋っていない。もう、無理してコミュニケーションをとるのをやめたのだ。


 朝方のお会計! カラオケ代は2万!


 支払いをしようとしたら、泰子が寄ってきた。


「どれだけお金を使うのよ」


泰子は財布から1万円を取りだした。


「払わなくてもええよ、1万円もらっても焼け石に水やし。今日は奢るわ。心配せんでもええで」



 僕は、翌日、石原さんに“すみませんが、泰子さんとは付き合いません”と告げた。



 1回、女性を紹介してもらうのに10万円も使ったという話。好きになれないとわかっている女性に10万円。石原さんは、僕の好みを知っていたはずなのに。これって、どう思いますか? 僕は、いい迷惑だったんですけど。ほとんど、石原さん夫妻をもてなしただけになってしまったと思うのですが……。授業料ですね。普段、信用していない人から持ち込まれた提案には乗らない方がいいということですね。石原さん、会社でも何かと評判が悪かったんです。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

VIP? 10万円の紹介! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画