スクープ画像消失事件

倉谷みこと

第1話 事件発覚

「これは事件なんだよ!」


 佐久山さくやま陽人はると福島ふくしま和貴かずきが教室に入ろうとした時、隣の教室からそんな大声が聞こえてきた。二人は顔を見合わせると、隣室の扉を開ける。


 そこは生徒会室で、机の前に立つ一人の男子生徒が奥にいるだろう人物に何やら迫っているところだった。


「よう。どうしたんだ?」


 和貴が声をかけると、机の前にいる男子生徒が勢いよく振り向いた。そのおかげで、奥に座っている人物が見えた。


「ああ、和貴……と、佐久山もいるのか」


 陽人の姿を認めると、奥にいる男子生徒があからさまに不快感をあらわにする。


「そんなに嫌そうな顔しないでくださいよ、松木まつきとおる生徒会長。ミス研の部室が隣なんだから、しかたないじゃないっすか」


 陽人が苦笑しながらわざとらしくそう言うと、松木徹と呼ばれた生徒はため息をついて二人に室内に入るようにうながした。


 陽人と和貴はミステリー研究同好会に所属していて、その部室として使っている教室が、偶然にも生徒会室の真横なのである。陽人と和貴は、それを好意的にとらえているが、徹はそうではないらしい。とは言え、他に適切な空き教室もないことからどうすることもできないようだった。


 陽人と和貴が教室内に入ると、先ほどまで徹に迫っていた男子生徒の隣に並ぶ。


「で? 何があったんだ?」


 和貴が説明を求めると、


「事件だよ! 僕が昨日撮った写真が、デジカメのメモリの中から消えてるんだ!」


 誰かが消したに違いないと騒ぎ立てる男子生徒。彼は、中谷なかたに駿也しゅんやといい、徹や和貴と同じ三年生だ。


「詳しく聞かせてください!」


 好奇心旺盛な陽人は、喜々ききとして駿也にたずねる。


 陽人の勢いに和貴は苦笑し、徹は呆れた表情を浮かべる。だが、二人も詳細は知りたかったので、特に反対はしなかった。


 駿也は陽人にうなずくと、心を落ち着かせるように一つ息をついてから口を開いた。


「昨日、校内で写真を撮ったんだ」


 ――新聞部の部長をしている駿也は、校内新聞に載せるネタを探していた。新聞部では、定期的に校内新聞を発行している。部員は五人で、それぞれが持ち回りで記事を書いていた。今回は駿也の担当で、どんな記事にしようかと考えていたところだった。


 デジタルカメラを持って敷地内を歩いていると、人目を避けるように校舎裏にいる二人の女子生徒を見つけた。何をしているのかと様子を見ていると、しゃがんでいる彼女たちの肩越しに猫の姿が見えた。


 これはスクープだと直感した駿也は、数枚の写真を連写で撮影し帰宅する。翌日の放課後――つまり、先ほどである――記事を書こうと部室に行き、デジタルカメラのメモリを確認した。すると、保存されているはずの最新の画像数枚がすっかり消えていたのである。


「けどさ、それって、単にその女子が猫とたわむれてたってだけじゃねえの?」


 と、和貴が疑問を投げかける。


 話を聞いている分には、校舎裏に二人の女子生徒と猫がいたというだけのもの。陽人も徹もそれがスクープなのかどうか、最新の画像が消えたこととどう関係しているのかわからなかった。


「とにかく! 犯人を見つけて、写真を取り返してほしいんだ!」


 三人とは対照的に、駿也は一人、熱くなっている。


「中谷先輩は、誰かに盗まれたと思ってるんですね?」


 陽人が冷静にたずねると、駿也はもちろんだと大きくうなずく。


「デジカメは、新聞部員だったら誰でも使えるけど、管理はしっかりしてるんだ。学校外には持ち出し禁止にしてるし。それに、『どんなことがあっても画像は消さないこと』という部の方針があるんだよ」


「そうですか……。中谷先輩、これから新聞部の部室に行ってもいいですか?」


「ああ、もちろん! むしろ来てくれ」


 大歓迎だとばかりに言って、駿也が生徒会室を出る。陽人、和貴、徹の順で彼の後に続いた。


「なあ、陽人。新聞部の部室に行ってどうすんだよ?」


 そう小声でたずねる和貴に陽人は、


「もちろん、調べるんすよ。あの話だけじゃ、実際のところなんてわかんないし、探したら見つかるかもしれないし」


 と、声をひそめて告げた。


「調べるのはいいけど、他の部の部室なんだから荒らすなよ」


 徹が陽人に釘をさす。


「わかってますよ、そんなことしませんって」


 と、陽人が苦笑する。


「てか、何で徹も一緒に?」


「一応、生徒会に舞い込んだ依頼だからな。解決までは見届けるさ」


 不思議そうな顔をする和貴に、徹はそう告げた。


 駿也を先頭に、新聞部の部室へと向かう一行。放課後だからだろうか、すれ違う生徒はほとんどいない。静かな廊下には四人の足音だけが響いている。


 特別教室棟二階の図書室の隣にある一室。ここが新聞部の部室だ。駿也が鍵を開けて、陽人たちに入るようにうながす。


 部屋の広さは、一般的な教室の半分くらいだろうか。部屋の中央には、机と椅子が六セットある。部員の作業スペースなのだろう。正面には窓があり、グラウンドが見下ろせる。左右の壁には棚が設置されていて、多くのファイルが所狭しと収納されていた。

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