第14話 ヒーローショー 〈前編〉

王都の外れ、その一角。


なだらかな山麓と混じり合う緑の中に、王都病院療養所は居を構えている。


今日はホクト弁当の定休日。

ギースとアラストは、セインとの戦いで傷を負ったランタンの見舞いをしにこの場所を訪れている。


「201号室のランタンの見舞いに来ました、友人のギースとアラストです」


療養所に入ってすぐの受け付けで面会を申請する。応対したのは、熟練と言った趣の優しそうな看護師だった。


「あらランタンさんの。でも今の時間だと病室にはいないんじゃないかしら」

「病室にいない?リハビリ中とかですか?」

「いえ、そうじゃないのよ。ちょっと待ってて、今案内するわね」


看護師の先導で院内を歩くこと5分。

到着したのは、カラフルな壁紙やかわいいぬいぐるみで彩られた離れの病棟だった。


「ここは…小児病棟?」


管をつけた子供や車椅子が通過する中。椅子と机がたくさん並べられた、広い休憩所のような場所が目に入る。


その中心、子供の集団が作る輪の中心にランタンはいた。

褐色の肌と揃いの黒髪を、患者衣の上から涼やかになびかせて、


「次はホワイトダガーが魔王幹部を倒した時のお話」

「わぁ〜」

「きかせてきかせて!」


子供たちに、冒険者時代のギースたちの話を聞かせていた。

その様子を、看護師は笑顔で見守りながら語る。


「ランタンさん、リハビリがてらに子供たちの相手をしてくれているのよ。もうみんな大喜びでね」


今度は懐からホワイトダガーの彫像を取り出し、周囲に見せびらかすランタン。


「これが、勝利を記念して3日かけて彫ったホワイトダガー像。特別に触らせてあげる」

「いやけっこうです…」

「ふかい"念"をかんじるから…」

「つねに持ち歩いてるんですか…?」


若干引かれながらも、子供たちはみんなランタンの話に夢中。一躍病院1の人気者となっていた。


「まさか…あやつに幼子と戯れる心得があったとはのう」

「根が素直だから何か通じるところがあるのかもしれないね」


「ここで問題。幹部の最後の一人を葬ったホワイトダガーの技はなんでしょう」

「えー…バーチカルのこぎりかなぁ?」

「ぶっぶー、正解はホリゾンタルのこぎりでした。私のほうが詳しい」


「いやあれ精神レベルが同じだけかもしれんの」


しみじみと見守るギースとアラスト。…に向けて、グリンとランタンの目線が向く。


「ホワイトダガーの気配がした…。2人とも来てたの?こないだは薬草もちごちそうさま」

「なんでこの距離で分かるんだ…」


ギースの方へ歩み寄るランタン。若干足取りはおぼつかないものの、かなりの回復を見せている。


「もう身体は大丈夫なの?」

「いや、痛すぎる。ホワイトダガーに運んでもらわないと泣いちゃいそう」

「ホワイトダガーが見たいだけじゃろ…」


アラストの言葉も意に介さず、ランタンは2人の手首を引っ張って子供たちの方へ歩き出す。


「ね。せっかくだから、みんなにもギースたちを紹介したい。ダメ?」

「ええー、オレたちは…ねえ?」

「のう?」


時すでに遅し。気付いた時には、子供たちの前に引っ張り出されて紹介が始まっていた。


「みんな見て。この人がギース。魔王を倒した英雄で、ホワイトダガーの装着者。そしてこれがアラスト。外身」

「我の紹介雑すぎじゃろ!」


だが、子供たちは不満顔。ザ・普通なギースの顔つきを見て納得の行かない表情を浮かべている。


「…なんかしょっぱーい」

「ぜんぜん仮面じゃないじゃん!」

「もぶ顔」

「もッ…!?」


膝をつき、落ち込むギース。アラストが肩に手を置き慰めの姿勢に入る。


「気にしてるのに…!」

「わっ、我は嫌うてないぞ!目もそれこそ…白米みたいじゃし」

「ウボァァッ」


トドメだった。


「ほんとうにホワイトダガーなの〜?」

「しょうこはー!」

「うそじゃないなら変身見せてよ!」


尚も止まらないブーイング。ギースは拳を握り締めてワナワナと応える。


「そこまで言うなら変身を見せてあげるよ…!でも何の対策も無しは危ないし病院の許可を得て安全な場を整えてからね…!」

「良識があるのう…」


こうして。ギースは小児病棟の子どもたちに変身を披露することになった。


ちなみに、一番喜んでいたのはランタンである。


「本当!?!?!?!?!?!!?」







翌日。

ホクト弁当、厨房。


「というワケなんですけど…ホクトさんの知り合いに、悪役を演じられる人とかいませんかね」

「? 変身ショーに悪役も要るのかい?」

「はい。変身だけっていうのもなんですし、子どもたちに大立ち回りも見せてあげたいなと思いまして。でも、時間に空きのある人が思い浮かばなくてですね…」


アンネベリーは呼ばなくても来るのだろうが、執政以上の負担をかけたくなくて選択肢から除外していた。


「なるほどね…孫の学校でのお友達に…。……いや!僕が怪人役で出るよ!」

「えっ、そんな大丈夫ですよ!腰痛に悪いですし!」

「いや…ちょうど良かったんだ。あの療養所で何か出来るとしたらそれしかないから」


バンダナの下の眉を、悲しげに下げるホクト。


「うちはあの小児病棟に薬の支援と、年に一回コロッケの差し入れをしてるんだけどね。

ほら、あそこには食道が弱い子もいるだろう?他の子が食べてるのを見ることしか出来ない子がねぇ…本当に寂しそうでねぇ…」


ホクトは、目頭をグッと指で抑えている。


「そうだったんですね…」

「だから…ギースくんのアイデア、すごくいいと思うんだよ。みんなに等しく楽しさを渡すことができるはずだから。僕にも手伝わせて欲しいんだ」

「そこまで仰るなら…当日はぜひお願いします」

「任せてよ!病院の許可取りも、僕が話を通しておくからさ」


だが、怪人役はホクトの腰的に無理。担当は裏方になるだろう。

どうにかして怪人役を探さなければならない。


しかし、肉体年齢が若く。

ちゃんとした動きができて。

普段から鍛えているような都合のいい存在がいるはずがない。


ギースが悩んでいたその時、元気な声が響く。


「アラストちゃんもち一つ!キモなのじゃもお願いね!」

「はいはいキモなのじゃー」


声は、アラストが担当している店頭から届いたもの。

その主は6人の王領騎士、内1人だった。


「いやー参ったよ。みんな出張とかで忙しくてさぁ。俺1人だけ暇なんだよね」


肉体年齢は若く。

鎧を背負って動けるほどの身体能力。

そして、普段から鍛えている。


「いたーーーーー!!!!!」

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