私の彼は下着フェチ

@nakamayu7

*1

 4月である。お昼休み、私とミナは休憩室で持参したお弁当を食べている。

「昨日、男の客がな、」

「『男性のお客様が』でしょ」

「もう!あんたは教育係のおばさんか。そんなんどうでもええねん」

「普段から注意しとかないとポロっと出ちゃうんだよ」

 高橋三奈(ミナ)と私、佐々木望未(のぞみ)は大手服飾販売会社ウニクロに入社したての新入社員である。ウニクロでは入社後4カ月間は日本各地の店舗での実習を行うことになっている。その後、本社に集まって2か月間の集合研修が行われるから、入社後半年してようやく正式な配属が言い渡されることになる。ちなみに私は服飾デザイナーの専門学校を卒業し、当然デザイン部門への配属を希望しているのだけれど、どうなるかなあ……

 日本各地の店舗での実習と言っても採用地区の店舗への配属だから、そんなに遠方になることはなく、基本的には居住地のある都道府県のどこかの店舗へ割り振られることになっている。ウニクロが店舗展開していない都道府県はない。とは言え自宅から通えない場合は多々あるので、そんな場合は店舗の近くにワンルームの賃貸アパートが貸し与えられる。私もミナも実習店舗から電車で1駅離れたところの賃貸アパートにそれぞれ1部屋を与えられ、現在はそこで暮らしている。

 私もミナも自分で料理することが苦にならないタイプであることが分かってからは、それぞれの部屋を行ったり来たりしながらいっしょに晩ご飯を作って食べることがしょっちゅうで、今日も私たちは自前のお弁当を持参している。夕べの晩ご飯の残りを詰め込んだりしているので、なんとなく2人のお弁当のおかずは似通ったものになることが多い。夕べはお好み焼きを作ったから、今日の2人のお弁当にはその残りのお好み焼きが入っていたりする。

 

「うー、もう!昨日、男性のお客様がな、」

「うん、どうしたん?」

 そこでミナはちょっと意味深に間を開けてから声のトーンを落とした。

「女物の下着を買って行きよってん」

 『女性用の下着を買って行かれました』でしょ、と言う訂正は入れられなかった。

「下着って、上? 下?」

「下」

 ショーツってことか。

「それって買ってどうするんやと思う?」

「さあ…… やっぱり穿くんと違う?」

「それが私でもお尻が半分しか隠れへんようなすごく小さいやつやってん」

 ローライズ、いや、お尻が半分しか隠れないならスーパーローライズ、日本ではスキャンティって言い方もする。そんなに小さなショーツなら男性が穿けるとは思えない。なんと言っても男性には女性にないものが付いている。絶対入らないだろう。

「うーむ、それは面妖ですな」

「そやろ」

「それ買って行った男性ってどんな人やったん?」

「そこやがな!」 ミナがお弁当を広げたテーブルに身を乗り出す。

「30歳前後くらいの男の人で、身長は175cmくらい、足が長くて、スラっとしてて、ちょっと長髪で、黒縁の眼鏡をかけてたんやけど、それが結構似合うイケメンやってん」

「ほな、奥さんとか彼女さんの物じゃないの?」

「いやいや、男の人に自分のショーツ買いに行かせる女なんておらんやろ。しかもスキャンティ」

「それはまあ、確かにそうだね……」

 普通に考えたら私だってそんなことを彼に頼んだりしない。頼まれた男の方だって困るに決まってるし。

「でも他の人に迷惑かけてるわけじゃないし、いいんじゃない? それも個性って言うやつだよ」

「まあねー、万引きするよりはいいよねー」

「そう考えると、男性が女性用下着を買うのって勇気いるよね」

 うん、うんと2人で頷く。

「今度また来たら教えたるわ」

「うん、是非! でもまた来るかな?」

「絶対来る。『犯人は現場に戻る』って言うやろ?」

「それ、関係ある?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る