夜明けとマンドリン
@Tsuki0kaMusubu
第1話 「奇跡」の序章
「ねぇ、そこの君。ちょっといい?」
桜の花も舞い散り、木々の緑が青々と映える季節。忘れ物を取りに中庭を走っていた、当時中学一年生の俺は、鈴の鳴ったような声に呼び止められた。振り向くと、そこにはどうやら先輩らしい、黒髪の女の人が立っていた。クラスの女子と同じ制服を着ているのに、なぜだかその人は大人っぽくて、さらさらと風になびく黒髪は、今まで見たこともないくらいに光を含んで艶めいていた。ぼっと見惚れて、固まったまま何の返答もしない自分を不思議そうに見つめながら彼女が近づいてくる。
「今から時間ある?ちょっと来て欲しいんだけど……」
今まで話したことのないような大人な人との会話に緊張して、とりあえず大きく頭だけ振ると、その人の顔にぱっと明るい笑顔が浮かんだ。
「本当に!じゃあ、行こっか!」
言うや否や、右手の手首をがしッと掴まれ、腕を引っ張られる。困惑する間もなく、ただ引かれる手に付いて行った。
今思えば、俺の人生の「奇跡」は全てここからが始まりだった。
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