第4話 鉄塊の男
病人と呼ばれていたのは嘘ばかり――というわけでもなかったのだ。死人だけかと思われていた中に、まだ命のある者が居た。アルルーナの力は死体だけに力を及ぼすわけではない。人の形をしていれば鎧でも
「
死に瀕しているとは言え、まだ生きているこの者にこれ以上の苦痛を与えるわけにはいかなかった。幸い、ユリアの鎖は外せたようだ。彼女がキミニたちの傍に駆け寄るのが視界の端に見えた。
「――ユリアたちは逃げて! セナト=ロクウィムの修道会へ助けを求めなさい!」
私はルーク卿に向き直る。
「――私は降参します。だから彼女たちを見逃して、この鎧の人を治療させてください」
「いい心がけだ!…………だがな。これだけの騒ぎを起こしておいて、見逃せだと? 虫が良すぎるのではないか!?」
そう言いながら足早に歩み寄り、固く握りしめた鉄の拳を振り上げるルーク卿。
私は覚悟を決め、直立して歯を食いしばり、目を瞑った。
……しかし、痛みを覚悟したはずが、いつまで経っても衝撃が襲って来ない。
恐る恐る片目を開けると、目の前には震える鉄の拳があった。
「き、貴様…………」
目の前の拳は、別の鉄の拳によって手首を掴まれ、止められていた。
「なんで!? 動かしてないのに」
確かに私はこの鎧の
ルーク卿も驚きを隠せず、目を見張って睨みつけ、腕を動かそうとしていたが、腕は水平に捕らえられたままぴくりとも動かなかった。さらには構わず、鉄塊の男はそのままの体勢でルーク卿を投げ飛ばした!
「ギャアアアッ!」
見ただけで分かる、余りある
ギャン!――と、1匹の
残った2匹の
ボッ!――と青白い炎に包まれる鉄塊の男!
「無茶をしないで! 死んでしまいますよ!」
――が、言葉とは裏腹に、私は鉄塊の男がその程度でくたばる
鉄塊の男は炎などものともせず、ゆっくりと歩みを進める。しかし頑丈な
「ユリア、逃げなさい!」
「ですが
「貴女が留まってもできることはない! 子らのことを考えるのです!」
「お姉ちゃん!」
「キミニ、パパは必ず連れ帰ってあげます。今はママの言うことを聞いてください」
「お姉ちゃっ……」
キミニはユリアに抱え上げられ、ようやく三人は広場を後にする。念のために
鉄塊の男はというと……
――何があった!? ほんの僅かの間、目を逸らしていただけなのに……。
鉄塊の男の前には首を刎ねられた
◇◇◇◇◇
「あなた……。体は大丈夫なのですか?
鉄塊の男は呼吸を荒げた様子も無く、ただただ静かに
近寄るとゆっくりとこちらに振り向く鉄塊の男。
先ほどまで泥に
「待っデいた……」
「え?」
ゆっくりと右腕をこちらへ伸ばす男。
動いているところをよく見ると、その
私は伸ばされた彼の手に触れようと、右手を伸ばした。が――
ガッ――と伸ばした右腕を恐ろしい力で乱暴に引っ張られ、ふわりと身体が浮いた。
私はとにかくあの男のように腕を折られないようにと、左手も使ってしっかりと鉄塊の男の右腕に組み付いた。振り回され、男の周りを半周以上して、ようやく地面に足がついたと思うと、勢いでたたらを踏む。
何事かと文句のひとつも言ってやろうかと思ったが、私は息を飲んだ……。
「なに……あれは…………」
突然、鼻を衝く異臭がたちこめ、ルーク卿…………いや、そのルーク卿であったであろうモノは、人ならざる姿へと変貌していた。
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