第32話『真夜中の遭遇者 後編』
俺に向けて刀を振り上げる
「……えい!」
「ぐはっ!?」
次の瞬間、玲奈の生み出した巨大な水弾が狩生の後頭部を直撃。それによって彼は体勢を崩し、その刀は俺のすぐ横の床を叩いた。
続けて玲奈は『樹』のカードを発動し、ツタ状の植物を生み出して狩生を縛り上げる。
「か、彼女、逃げたのではなかったのですか」
「あいつが本当に俺を置いて逃げるわけがないだろ」
狩生が驚嘆の表情を浮かべる一方、俺は誇らしげな顔をした。
校舎の構造上、二階に続く階段は複数ある。玲奈は一度一階に降りたあと、別の階段を使って二階に上がり、狩生の背後を取ったのだろう。
「
「玲奈のことだし、戻って来るって思ってた」
「准くんのことだし、負けそうになってるって思ってたよ」
「うっせ」
一気に形勢逆転し、つい軽口が出る。
玲奈も狩生の脇を抜けて俺と合流し、安堵の表情を浮かべていた。
「副会長さん、もう勝負はつきました。争うのはやめましょう」
続いてそう訴えるも、狩生は薄ら笑いを浮かべていた。
「……まさか、この程度で私を取り押さえたつもりですか?」
そう言うやいなや、彼を拘束していたツルがみるみる凍りつき、やがて砕け散った。
「……氷?」
「ええ、私の所持するマグナカードは『剣』のカードだけではありませんよ」
拘束を解いた彼は得意げに言い、手元の刀を見せてくる。
それは強烈な冷気をまとっていて、夏だというのに周辺の空気を凍りつかせていた。
「それでは、二人まとめて大人しくなってもらいましょうか」
言ってすぐ、狩生が飛び込んでくる。玲奈がとっさに水の盾を作り出すも、一瞬で凍結させられ、破壊されてしまった。
「うあっ……!」
直後、玲奈が小さく悲鳴を上げて右手を押さえる。見ると、その手のひらは赤く腫れ上がっていた。
「冷気にやられたのか。玲奈、大丈夫か?」
「う、うん。冷やしてもらったら、わたしの熱も下がるかもねっ」
右手をさすりながらそう口にするも、膝が震えていた。俺は玲奈を
彼女の持つカードは『氷』のカードとは相性が悪いものばかりだ。俺がなんとかしないと。
そんなことを考えた矢先、無数の氷の矢が飛んでくる。
「くそっ!」
俺は即座に『炎』のカードを発動。炎の壁を生み出して氷の矢を溶かす。
続いてその炎を収束させて槍を生み出すも、肩をやられているのもあって、うまく扱えなかった。
「どうしました? 防戦一方ではないですか」
その後も『土』や『炎』のカードを使い、度重なる狩生の攻撃を防ぎ続けるも……じわじわと追い詰められていた。
「……えい!」
わずかな隙を見つけた玲奈が、『雷』のカードで攻撃を仕掛けるも……なぜか奴には通じない。
「無駄ですよ。純氷はほぼ絶縁体です。授業で習いませんでしたか」
よく見ると、狩生は全身に薄い氷の鎧をまとっていた。くそ、雷も通じないのか。
「……これなら、どうだっ!」
続いて、俺は新たに生み出した球体を狩生に向けて投げ放つ。
「そんな土くれで何をするつもりですか。当たりませんよ」
狩生はその球体を一瞥したあと、刀で叩き割る。
……その直後、球体は激しい熱とともに爆発した。
これは『土』と『炎』のカードを使って生み出したもので、密閉した薄い陶器の中に炎の魔力が封じ込めてある。
衝撃を受けて陶器が割れると、空気に触れた炎が爆発的に燃え広がる仕組みで、いわば爆弾のようなものだ。
「ちっ……小賢しい真似をしてきますね」
不意をつけたと思いきや、持ち前の身体能力で避けたのか、思ったほどのダメージはない。
俺の魔力も残り少ないし、玲奈もあの状況だ。うまく隙を作って逃げ出したいところなんだけど。
そう考えながら爆弾を生み出し、玲奈と一緒になって投げ放つも……お互いに利き腕をやられていることもあって、うまく当たらない。
「同じ手は食らいませんよ。いい加減、観念しなさい」
狩生がますます近づいてきたところで、俺は手元の爆弾をまとめて投じた。
「馬鹿の一つ覚えですね。数を増やしたところで……」
狩生が回避行動に移ろうとした瞬間、俺は『音』のカードを発動。耳をつんざくような爆音を発生させる。
「なあっ……!?」
その音波攻撃は狩生をひるませると同時に、特定の周波数を出し続けることで陶器の爆弾の表面に亀裂を生じさせる。
それによって、爆弾たちは狩生の予期せぬタイミングで炸裂。完全に奴の虚を突いた。
「……今だ!」
生まれた隙を見逃さず、俺は玲奈を抱きかかえる。
そのまま窓ガラスを割ると、外へと飛び出した。
「准くん、ここ二階だよ!?」
「わかってる!」
俺はすかさず『土』のカードを発動させると、真下の植え込みに柔らかい砂地を作り出す。
それをクッションにして地面に降り立つと、俺たちは全力で学園から逃げおおせたのだった。
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