第31話『真夜中の遭遇者 前編』


「おや、そこにいるのは誰ですか」


『音』のマグナカードを手に入れた俺たちの前に現れたのは、生徒会副会長の狩生かりうだった。


 こんな時間に生徒会役員が学園にいることに驚きつつも、俺は必死に言い訳を考える。


 学園長に呼ばれてきた……なんて話したところで、当の本人がここにはいない。信じてもらえる可能性は限りなく低かった。


「ひょっとして、お二人もマグナカードを探していたのですか」


「えっ?」


 その時、彼の口から出た予想外の言葉に、俺は面食らう。


 ……まさかこの人、アルスマグナなのか?


 俺と玲奈れいなは顔を見合わせたあと、おずおずと頷いた。


「やはりそうでしたか。マグナカード集めは順調ですか?」


「え、ええまぁ」


 目の前の彼は朗らかな笑みを浮かべ、そう尋ねてくる。困惑しつつも、俺は言葉を返す。


「それはなによりです。現在何枚ほどお集めになられましたか?」


「えっと、7枚、かな……」


「ほう……」


 その瞬間、彼の表情が変わった気がした。


「……それでは、それらを全て渡していただきましょう」


 続いてそう言い、狩生はまるで獲物を見るような目で俺たちを見てくる。


「もし断るというのなら、力ずくで奪わせてもらいますが」


 言うが早いか、狩生は一枚のカードを発動させる。それは一本の刀となって、彼の手の中に収まった。


「ま、待ってください」


 直後に玲奈が前に出る。熱がぶり返しているのか、少しふらついていた。


「副会長さんもマグナカードを集めているんですね。それだったら、協力しませんか?」


 玲奈がそんな話を持ちかけるも、彼は鼻で笑った。


「カードは集めていますが、お二人のように一枚ずつ集めるという行為は非効率だとも思っていまして。所持者を見つけ、まとめて奪い取るほうが効率的ですよね?」


 そう言ってすぐ、副会長がじわりと距離を詰めてくる。


「もう一度言います。マグナカードを渡してもらえませんか」


「悪いが、お断りだ」


 玲奈の前に出ながら、俺はきっぱりとそう口にする。


 直感だけど、こいつにマグナカードを渡しちゃいけない気がした。


「……そうですか。残念です」


 一瞬肩をすくめたあと、副会長が床を蹴った。


 その動きを察した俺は、即座に『土』のカードで壁を作るも……それは刀の一撃でいとも容易く打ち砕かれた。


 土壁の破片を全身に浴びたあと、俺は隣で青い顔をしている玲奈に声をかける。


「玲奈、ここは俺に任せて、お前は逃げろ」


「でも……!」


「お前、まだ熱あるだろ。こいつは俺が足止めするから、さっさと逃げろって」


「わ、わかった。じゅんくんも、危ないって思ったらすぐに逃げてね」


 玲奈は一瞬戸惑いの表情を浮かべたあと、背後の廊下へと消えていった。


「……すでに十分危ないって思ってるよ」


 その足音が消えたのを確認し、そんな言葉が口をついて出る。


「体を張って幼馴染を逃がしましたか。懸命な判断ですね」


 狩生は余裕たっぷりに言う。


 すぐに玲奈を追いかけないところからして、俺を倒したあとでも追いつく自信があるんだろう。


 ……それなら少しでも粘って、玲奈が逃げる時間を稼がないとな。


 俺は狩生との間合いを広げつつ、戦略を考える。


『水』と『樹』のカードは玲奈が持ってるし、今の手持ちでどこまで戦えるかな。


『音』のカードとの戦いで、だいぶ魔力を使ってしまったし、ここにきて連戦とは思わなかった。


 俺は大きく息を吐いてから、『風』と『雷』のカードを発動する。


 二つの属性を持つ巨大な槍を生み出すと、それを手に狩生を睨みつける。


「風と雷の槍ですか。なかなかに面白いものを使いますね」


 対する狩生は動じることなく、ひょうひょうとしていた。


「私の刀とも相性が良さそうですし、これはますます手に入れたくなりました」


「言ってろ!」


 一気に間合いに飛び込み、狩生に向けて攻撃を放つも……彼は最低限の動きでそれを回避。俺はカウンター気味の一撃を右肩にもらってしまう。


「ぐっ……」


 肩に走った激痛に、反射的にうずくまる。


 思わず意識が飛びかけ、手の中にあった槍も消えてしまった。


「峰打ちなので、安心してください。少しは期待していたのですが、動きは素人のそれですね」


 メガネの位置を整えながら、狩生は余裕綽々だった。


 そういえば、この人はかつて剣道部に所属していたとまことが言っていた気がする。


 つまり、剣術の基礎があるのかよ。


「さて、大人しくマグナカードを渡す気になりましたか?」


「……いや、渡さない」


「なぜですか? 一戦交えたことで、実力差がわかりませんでした?」


「痛感したよ。でも、お前に渡したらカードが可哀想だと思ってさ」


「妙なことを言いますね。マグナカードは単なる道具ですよ」


「そういうとこだよ。俺の仲間には、カードの気持ちまで考えちまうやつがいるんだよな」


「……理解しかねます。これ以上は話しても無駄ですね」


 狩生はかぶりを振ったあと、俺に刀を向ける。


「さすがに殺しはしません。しばらくは病院で過ごすことになるとは思いますが」


 そう言ってほくそ笑む狩生の背後に、『水』のカードを構えた玲奈が立っていた。

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