第17話『准也の機転』


 再び雷撃が放たれた瞬間、俺は手にした『土』のカードを発動。


 自身と玲奈れいなを守るように、ドーム状の障壁を形成する。


 俺たちの頭上から放たれた雷は、その外壁を伝うように地面に流れていった。俺は胸を撫でおろす。


じゅんくん、これ何?」


「『土』のカードを使った盾だよ。相手は雷だし、地属性で無効化できたみたいだ」


 ファンタジー世界ではよくある設定だけど、雷に対してアースのような働きをしてくれたらしい。


 ……その後も、マグナカードに操られたシカは雷撃を繰り出してくるが、俺と玲奈の魔力で強化した土の壁は破られず。一方、奴は着実に疲弊していった。


 その時、奴は攻撃をやめ、踵を返す。


 どうやら自分の攻撃が通用しないと判断し、逃亡を図るようだ。


「逃がすかっ!」


 俺は再び『土』のカードを使って土を操り、その四足を抑え込む。


 シカは逃げ出そうと暴れ続けるものの、土の力が雷の力を吸収しているのか、ますます弱っていく。


「これで……どうだっ!」


 十分に弱らせたところで、俺は再び炎の槍を生み出すと……渾身の力で投げ放つ。


 もはや奴にそれを避ける力は残っておらず、槍が命中すると同時に光の粒子となって霧散した。


 その姿が消えると同時に、あれだけ鳴っていた雷はピタリと止んだ。


 思わず空を見上げていると、一枚のカードが降ってきた。


「……予想通り、『雷』のカードだったか」


 拾い上げてみると、『雷』という文字と、巨大なシカの絵が描かれていた。


「やったね。二人で捕まえられたよっ」


 喜びのあまり、玲奈がハイタッチしてきた。それを受け返したあと、俺は周囲を見渡す。


「操られていたシカ、どうなったんだろうな」


「あ、大丈夫みたいだよ。ほら」


 玲奈の指差す先を見ると、一頭のシカが一目散に逃げていくところだった。


 先日戦ったモグラもそうだけど、マグナカードから開放された動物たちは無傷らしい。


 無駄な殺生をしなくていいことがわかり、俺は安堵する。


「『雷』のカードかぁ。スマホの充電とかできたらいいよね」


 その時、玲奈が俺の手から『雷』のカードを奪い取り、そう口にする。


 ……直後にカードが光を放ち、学園の屋上に設置された避雷針に雷が落ちた。


「あわわわ」


「玲奈は魔力が多いし、調整するのは至難の業かもしれないな」


 バチバチと火花を散らす避雷針を見ながら、俺は苦笑する。


「うぅ……魔力の少ない准くんなら、スマホの充電できるかな?」


「それって、俺は微弱な電気しか出せないって言われてるようなもんなんだけど。これでもカード使用時の負荷はかなり減ってるんだぞ。魔力量だって増えてる……と思う」


「自信あるんだ? じゃあやってみてよ」


 玲奈はそう言って、俺に『雷』のカードを手渡してくる。


 それを受け取って、先程の避雷針を見やる。ようし。見てろよ。


 その直後、『雷』のカードを発動させてみるも……それこそ静電気レベルの電気が発生しただけだった。


 自分の髪の毛が逆立っただけで、それ以上のことは何も起こらない。


「ぷっ」


「笑うなっ! 戦いで散々魔力使ったあとだから、ガス欠なんだよっ」


「うんうん。そういうことにしておくよ。もうすぐバスの時間だし、帰ろっか」


 悪戯っぽい笑みを浮かべたあと、玲奈は校門に向けて歩き出す。


 俺は肩を落としながら、その後ろに続く。


「……でも、さっきの准くん、カッコよかったよ。守ってくれて、ありがとね」


 その時、玲奈のそんな呟き声が聞こえた気がした。


 ◇


 その翌日、魔力痛と筋肉痛の両方に苦しみながら登校すると、中庭に人が集まっていた。


 何事かと思い覗いてみると、そこに美乃里みのり先輩がいた。


敷戸しきどくんに玲奈ちゃん、おはよう~。なんだか大変なことになってるわよ~」


「おはようございます。大変なことってなんですか?」


「昨日、雷がすごかったでしょ~。中庭に落ちたみたいなのよ~」


 困り顔のまま、身体を左右に揺らす。ウェーブがかった栗色の髪も、同じように揺れていた。


 続いて先輩から指し示された場所を見ると、昨日『雷』のカードによって破壊されたベンチが、そのままの姿で残っていた。


 ……そしてそのベンチの傍らに、一頭の雄鹿が倒れていた。


 それはどう見ても、あの時マグナカードに操られていたシカだった。無傷で逃げていったはずなのに、どうして。


「こらこら。授業が始まるぞ。生徒は早く教室に戻るように」


 その時、数人の先生たちがやってきて、横たわるシカにブルーシートを被せた。


「あのシカも雷に巻き込まれたのかしら~。可哀想よね~」


 美乃里先輩は今にも泣き出しそうな声で言うも、俺は別のことが気になっていた。


 シカの胴体に、どう見ても鋭利な刃物で切られたような傷があったのだ。


 雷の直撃では、ああはならない。


 気になったが、それを玲奈に伝えたところで不安にさせるだけだ。


 この件は、学園長が戻るまで黙っておくことにした。

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