愚かな、妹は私に抱かせたいようだ兄弟姉妹たちの禁忌の愛。

夜久司和

兄妹間の深夜の騒動

目覚まし時計の「ピピッ、ピピッ」という金属的な警告音が、深夜の静寂を鋭い刃で切り裂いた。

その音に脳髄を貫かれるような衝撃を受け、ベッドに横たわっていた大島舎人おしま とねりは、まるで深い水底から引きずり上げられるように意識を取り戻した。濃密な闇が寝室を支配し、遮光カーテンの隙間からこぼれるのは、都市の光害に霞んだ月明かりだけだった。

眼球が暗さに順応するにつれ、壁際にそびえる巨大な本棚の輪郭が浮かび上がる──積み上げられた漫画の背表紙は色褪せた虹のように並び、ガレージキットの精巧なフィギュアたちが、暗がりの中で無言の鑑賞会を開いている。


「…まだ夜中?」

喉の奥から絞り出すような呟き。苛立ちが頭をよぎった。

こんな時間に目覚ましが鳴るはずがない。設定ミスか、あるいは──その思考が完結する前に、アラーム音は唐突に沈黙した。

耳鳴りと化した静寂の中、自らの鼓動が耳朶の奥で不気味に響く。太鼓の乱打のように激しい。


「午前3時か…」

スマホを手に取ろうとしたが、四肢が鉛のように重い。深い疲労が骨髄に染み渡り、再びまどろみへと引きずり込まれそうになったその瞬間──

「…っ!?」 

全身の筋肉が凍りついた。見えない縄でぐるぐると巻かれ、ベッドのマットレスに押し付けられるような感覚。心臓が肋骨を打ち壊さんばかりに暴れ跳ねる。

(金縛り…? 連日の徹夜のせいか…)

理性で恐怖を押し殺そうとした。その時、胸郭の上に、明らかな「重み」を感じた。柔らかく、温かく、しかも…微かに上下する呼吸のリズムを帯びている。


(…!? 生き物…?)

思考が高速回転する。飼っている猫か? いや、この質量感と接触面積は──

目を閉じ、全身の神経を皮膚感覚に集中させる。

伝わってくるのは紛れもない人間の体温。薄いパジャマ生地の向こうにある、柔らかくも確かな膨らみ。腰骨にかかる、しなやかな重量分布…そして、漂ってくる甘く濃厚な桃の芳香。まるで熟した果実が肌の上で割れたような匂いだ。


「はあ…」

肺の底から漏れる深いため息。舎人は天井のシミを見つめ、諦観を込めて呟いた。

羽衣はごろも。文句は山ほどあるが、とりあえず俺の上から降りてくれないか? 君の頭蓋骨が俺の剣状突起を粉砕しそうだ」


[お兄ちゃん~♪ お兄ちゃんの心臓の音、すごく落ち着くんだよね~]

くすぐったい吐息が首筋に這う。羽衣の長い紫髪が舎人の頬を撫でる感触は、蜘蛛の糸のように微かで執拗だった。彼女の甘ったるい声は、温かい蜜が直接鼓膜に流し込まれるようだ。


「寝言か? まだ夢の中なら──」

「ちがうよ~」

即座に返ってくる声の明瞭さに、舎人は完全に現実であることを悟った。瞳孔が暗闇に慣れ、ようやく彼女の姿を捉える。

月明かりが、羽衣の彫刻のような横顔を青白く浮かび上がらせる。

彼女は舎人の胸の上にうつ伏せになり、紫色の髪が汗で濡れた彼の鎖骨に絡みついている。薄いシフォンのパジャマ越しに、柔らかく張りのある膨らみが舎人の肋骨を押しつぶすように沈み込み、その頂点に小さな突起が硬く感じられる。


「…寝たふりはやめろよ、その体位で」

身体を揺すると、羽衣はゆっくりと顔を上げた。長い睫毛の下、紫色の瞳が月光を受けて妖しく輝く。

「お兄ちゃんの鼓動、すごく速いよ?」

 唇が舎人の耳たぶに触れんばかりに近づき、甘い吐息が耳の穴に吹き込まれる。「昨日みたいに…また獣になっちゃうの?」


舎人が仰向けに逃れようとするたび、羽衣の腰が無意識に前後に揺れる。

太ももの内側で、彼の股間の変化を感じ取ったのか、彼女の目が危険なほど細まった。

「離せって言ってるんだろうが!」

舎人が喉を詰まらせて抗議しても、羽衣の背中を撫でる自分の手が止まらないことに気づく。彼女のパジャマの下には何もない。

絹のような肌が直接掌に触れ、腰のくぼみが吸い付くように密着している。背骨の溝を指がなぞると、微かに震える反応が返ってくる。


「嘘つき」

羽衣が突然、舎人の手首を掴んだ。その手は驚くほど力強い。彼女はその手を自分のパジャマの裾へと導き、腿の付け根へと滑り込ませようとする。

「こっちが欲しいんでしょ? 正直になりなよ、お兄ちゃん」

月光が汗ばんだ腿の内側の曲線をくっきりと浮かび上がらせ、薄い布地の向こうに舎人の張り詰めた下半身の影が歪な形で映し出される。


「こんなこと…一体誰に教わった!?」

舎人が必死にシーツを掴む指の関節が白くなる。羽衣は妖艶に舌を這わせ、腰を沈めて布越しに熱を伝達する。

「お兄ちゃんの寝言よ。昨夜、『羽衣…もっと…』って、すごく熱っぽく喘いでたんだから」

「と…とにかく降りろ! 下着もつけずに夜中に兄貴のベッドに侵入するなんて、どういう神経してるんだ! 常識的に考えろ!」


羽衣が上半身を起こすと、長い紫色の髪が舎人の胸元を撫でるように流れた。しかし腰から下は相変わらず密着したままで、むしろ体重をかけて骨盤を押し付けるように沈み込む。

「ほら、上半身は離れたよ?」

悪戯っぽく顎をしゃくる羽衣の腰が、微かに円を描くように揺れた。

その動きで布地が擦れ、舎人は思わず息を呑んだ。

「でもお兄ちゃんのここが…」 

彼女の手が布団の上から、舎人の固く膨らんだ部分をじかに押さえる。

「熱くて硬いから、離れられないんだよね。こっちが離したくないの」

「バカ言うな! 離れられないのは君の意思の問題だ! さっさと──」

舎人が羽衣の肩を押そうとした瞬間、彼女のパジャマの前襟が大きく開いた。

月明かりが若々しい谷間をくっきりと照らし出し、薄い汗が肌を艶めかせている。舎人の指が無意識に触れた鎖骨のあたりは、驚くほど滑らかで熱かった。


「まずい…ブラをつけ忘れちゃった」

「どんだけ非常識だ、つけろ!!!」

舎人の慌てふためく様子を見て、羽衣は意図的に腰を浮かせ、布団の上に跪坐の姿勢を取った。

膝を開き、薄明かりが腿の内側の柔らかな隆起から神秘的な三角地帯へと続く曲線をくっきりと照らし出した。パジャマの薄い生地は、影の濃淡でそこが決して平坦ではないことを雄弁に物語っていた。


「どうしたの? 赤くなって」人差し指を舎人の乾いた唇に当てながら、羽衣の足首が舎人の太ももを挟み込む。

「私のプリっとした胸や、もちもちのお尻を見てドキドキしちゃった? 我慢できないの?」 

その声は蜂蜜のように濃厚だった。


確かに妹・羽衣は美しい。腰まで届く紫の長髪は絹の滝のようで、くびれたウエストと膨らんだヒップのバランスはモデルも羨む。

しかし今、舎人の脳裏を支配しているのは美的感覚ではない。

彼女が挑発的に囁く唇の柔らかさ、汗で透けるパジャマの奥にちらつく桜色の先端、そして彼の股間を包み込むような太ももの温もり──それらが混ざり合い、理性を溶かす甘い毒となって流れ込んでくる。

「大丈夫だよ~。お兄ちゃんの大事な童貞、私が責任持って卒業させてあげる。だって、世界中の兄って、みんな妹で練習するんでしょ?」

「………」

舎人の理性の糸がプツリと切れた。

「ふざけるな!」

右手が閃く。羽衣の頭頂部へ鋭い手刀が炸裂した──




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