伝説になってる自覚がない? 初めてのフルダイブプレイで燥ぐ元廃人ゲーマーの可愛いお父さんの噺

よこ幅

第1話:無敗のプレイヤー

『ミリア・ルクスフロー』

 これは17年前に引退した或るゲームプレイヤーが、現役時代に使用していたキャラクターネームだ。

 このプレイヤーの素性については知られていないが、当時同じゲームをプレイしていた人々に問えば、ミリア・ルクスフローは唯一無二の伝説的な存在だ、と、口を揃えて答えるだろう。


 ◇



 ――今から三十年前。


『世界最高のグラフィック! 世界最高のアクション! 世界最高のキャラクリエイト! 世界最高のサウンド! 世界最高の操作性! さぁ、世界最高のストーリーへ旅立とう!』

 長さに加えて大胆すぎるキャッチフレーズを掲げ、正式サービスを開始オープンしたオンラインゲームがあった。


『MMORPG・SPARKS・ONLINE』

 一般的に「スパークス」と呼ばれていたネットゲームである。


 ゲームタイトルにもある通り、基本的な作りはロールプレイングだが、ゲーム内には『バトルアリーナ』というコンテンツが有り、プレイヤー同士1対1或いは団体バトルが行える格闘要素に加え、

『フィールドバトル』というコンテンツも用意されていて、専用フィールドを使い、チーム同士に分かれて対戦するeスポーツ要素まで兼ね備わっていた。


 ここだけ聞けば、ありがちなネトゲのようだが、スパークスには他のネトゲと一線を画す機能が備えられていた。


 このゲームの制作及び運営会社である『エイツプレイス』は、他社には到底真似出来ないと思える、画期的な『不正ツール完全検知、即BANプログラム』を、スパークスの制作に先駆け開発していたのだ。


 ――スパークスでは、如何なるチートツールであろうと使えない。

 そう。世界最高の謳い文句は伊達ではなかった。不正行為は最初から行えないのである。


 手を変え品を変え、或いはアカウントを変え、あらゆる手段で不正を行うチーター達に、長年悩まされ続けてきたプロゲーマ―達が、真っ先に飛びついたのも当然と言える。


 多くのプロゲーマー参入により、人気に拍車がかかったスパークス。

 正式オープンから僅か半年で、ネットゲーム分野に於ける、同時接続数世界一の座に輝いた。


 運営会社であるエイツプレイスの経営陣も、スパークスに費やした莫大な開発費と制作費は、銀行からの融資利息も含め、三年以内に回収できると踏んでいた。


 ところが……三年目も好調なスタートを切ってはいたが、五ヶ月を過ぎた頃から、或る問い合わせが殺到した。

 問い合わせによれば、特に人気の高いコンテンツ、『バトルアリーナ』の、1対1バトルに於いて、極めて重大な問題が発生しているという……。


 プロゲーマー及び、プロに匹敵する実力のある一般プレイヤーに留まらず、勝率トップのプロゲーマーや、ランキング上位のプロゲーマ―までをも引っ括め、誰一人として勝つことの出来ない、無敵無敗のプレイヤーが現れたというのだ。


『この無敗のプレイヤーは、チートツールを使用しているのではないか?』

『トッププロがあんな素人に負けるなんておかしい。チート検知プログラム、ちゃんと機能してるの?』

『今までのランキング1位でも、最高勝率93パーだったのに、115戦無敗っておかしくないか?』

『なんでBANしないの? バカなの?』

 等々、こういった問い合わせが殺到したのである。


 エイツプレイスのゲームシステム開発に携わるスタッフ一同は、未知の不正ツールの存在を疑った。

 三年目で、自社開発の『不正ツール完全検知、即BANプログラム』が、新たな不正ツールに破られた可能性が高い、と。


 実況ライヴ配信などで人気があり、経験豊富でプレイヤースキルに自信のあるゲーマーほど、ライヴ配信を荒らす行為とも取れる、不正行為を行うチーターに、過剰に反応してしまうものだ。


 早急に対処しなければ、インフルエンサーでもある配信メインなゲーマーを筆頭に、一般プレイヤーさえスパークスから離れていってしまう。


 スパークスの製作チームは、急遽、問題となっている『無敵プレイヤー』の、キャラクター操作のモニタリングを開始した。

 無敵プレイヤーが使っていると思しき不正ツールの攻撃パターン、或いは信号パターンを読み取り、そのパターンに対して新たな規制を掛けた後、速やかにそのプレイヤーのアカウントをBANするつもりで……。


 ……ところが。

 サーバー側から出来る、送られてくる信号のモニタリングだけでは、問題を見付ける事は出来なかった。


 益々焦る、エイツプレイスの技術開発部のチーフは、アカウント情報を調べると共に、法律に触れない範囲で、インターネット回線の通信データを監視するよう、スタッフに指示を出した。


 まず、アカウント情報により下記の事柄が分かった。


キャラクターネーム:ミリア

アカウントIDネーム:ルクスフロー

キャラクターフルネーム:ミリア・ルクスフロー

アカウント登録年月日:2068/12/24


 ここまでは、スタッフであれば誰でも確認できる。

 どうやら問題のプレイヤーは、スパークスの正式オープンから三日後に、アカウント登録をしているようだ。


 次は、決して部外者に漏らしてはならない、個人のアカウント情報。これは、プレイヤーが問題を起こした場合に限り、チーフ以外は対処をするスタッフのみ。という制限付きで、閲覧が許されている個人情報だ。


アカウント登録者、

氏名:七浜 奈和

フリガナ:ナナハマ ナオ

性別:男性

生年月日:2060/09/10

クレジット登録:1件

クレジット会社:SIVA CREDIT

クレジット契約者:七浜 旭

フリガナ:ナナハマ アサヒ

生年月日:2024/05/15

カード決済歴:無し

累計課金額:0円

備考:クレジット契約者のSIVA CREDITは、現在解約されています。


 ここからは、世間にバレても言い逃れが出来るギリギリのラインで、スタッフが獲得した情報だ。


OS:Wonders16 Home Edition

CPU:Intol core SuperUltimate mobile

GPU:Mvadia ZZFORSE WTX 12070ti mobile

RAM:256.0 GB

システムの種類:256ビット オペレーティングシステム、

×256 ベース プロセッサ


回線種別:docokoko光 1TB

接続エリア:日本国、東京西部


回線契約者、

氏名:七浜 しおり

フリガナ:ナナハマ シオリ

性別:女性

生年月日:2036/07/02

契約者の住所:東京都、中野区……


 流石にこれ以上は完全に法律に触れるので、個人情報の収集はこれまでとなったが……。


 アカウント登録者イコール問題のプレイヤーな訳だが、生年月日から換算すると、問題のプレイヤーである七浜ななはま奈和なおは、現在未成年どころか小学六年生。

 更に、ハイエンドモデルのノートパソコンを使用しているという事になる。


 クレジット登録とネット回線契約者の氏名が、アカウント登録者と異なるのは、このプレイヤーが未成年である為、恐らく保護者が契約をしているのだと思われる。


 使用している機器ハードは、かなり高額だと思われるハイエンドモデルのノートパソコンではあるが、OSオペレーティングシステムに関しても、特に問題は見当たらない。

 ネット回線も、現在一般的に使われている、ドコココ光の1テラバイトプランで契約をしている。

 プレイ中に、外部の何かと接続している痕跡も無い。


 それでも、プレイヤーのゲーム内カメラを共有した映像を観察する限り、人間が操作をしているとは到底思えなかった。


 最善な構えポーズ、最善な攻撃アタック、最善な防御ガード、最善な受け流しパリィ。そして、そこから繰り出される最善なタイミングでのカウンターアタック。

 そう、まるで全ての最善手を学習したAIが動かしているかのようだ。


 ミリア・ルクスフローというキャラクターは、どこからどう見ても制服を着た女子高生……というところも、モニタリングしているスタッフには気になる要素ではあるが……


 更に行動のログ歴を辿ると、アカウント登録をした当日にキャラクリエイトをしているが、それ以降は約二年と三ヶ月に渡り、ログインをしていない期間が有ると判明した。


 ここから、技術開発部のチーフは、約二年三ヶ月という空白期間も視野に入れて考え始める。


 七浜奈和が、アカウント登録時は小学三年生だった事を考えると、制服を着た女子高生キャラを作ったのは、クレジットカード登録をしている七浜旭の可能性が高い。

 七浜奈和とは36歳の開きがあり、男性であることから、七浜奈和の父親だと推測できる。

 ネット回線契約者の七浜しおりは、七浜奈和と24歳の開きがあるので恐らく母親。だが、母親が息子の為に女子高生キャラを作るとは考え難い。


 そして、キャラ作成から二年以上の休止……。


 七浜旭は、キャラクリエイトで女子高生を作った事に満足して休止していた。

 それを小学六年になった七浜奈和が再開した……のか?


 ……いや、それだとアカウント登録者が七浜奈和になっている事への説明がつかないな。そうなると……


 小学三年の奈和が、父親である旭に、「このゲームやってみたい」とか言ってせがんだら、旭が七浜奈和名義のアカウントを作ってくれた。

 ところが、スパークスの推奨年齢は15歳以上だし、キャラクリエイトはお子様には難しいから、その時点で、小学三年の奈和は投げてしまった。

 旭は、せっかくアカウントを作ったのだからと、奈和が投げてしまったキャラクリを試みた……


 そんで、そのまま二年以上放置してたけど、奈和がそれを……


 いやいや、他人の家に土足で上がるような憶測はもう止めよう。AIによるデータ解析で、先ほど回答が出たのだから。


 不正ツール使用ではなく、このプレイヤー自身が、ゲームパッドも使わず、ノートパソコン付属のキーボードのみで動かしている――という回答が。


 多種多様なゲーミングパッドが使われている世の中で、小学生がキーボード操作のみでゲームプレイしている事にも驚かされたのだが……。


「なんだ……只の天才少年か……」

 チーフは、そう呟くしかなかった。



 ――だが、営業本部長は抜け目がなかった。


 AIからの回答を『不正ツールを使っていない証拠』として、ネット上で一般公開した挙げ句、そのプレイヤーに挑戦しようなどと、本人や保護者の同意なく、とんでもない企画をおっ始めてしまったのだ。


『無敗の王者、ミリア・ルクスフローに挑戦しよう!』

 という企画名で。



 ◇ ◇



 この、無敗の小学生がその後どうなったのか。

 それは、現在の本人から聞くのが一番だと思う。

 という事で……


 現在は一児の父となっていて、伝説になってる自覚さえ無い七浜奈和に、

 存分に語って頂こう。







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