影武者魔王は最恐より最高で名を馳せたい 〜魔王に憑依された転生者、最強支配者と異世界を網羅する〜

此岸 ニッチ

§プロローグ 【魔界転生】


 都内某所――

 

 繁華街やショッピングモールでにぎわう街。ビルに設置された大型ビジョンに速報が流れた。

 

 ――"特殊部隊の捜査官が帰宅途中、暴漢に刺され病院へ搬送、間もなく死亡が確認された"――

 

 人々は他人事と足早に通り過ぎる。そんな有望果敢な若者がひとり、この世から消えた。

 

 ――――――

 


「……射竦いすくさん……神矢射竦かみやいすくさん」


 優しい声に、俺は重いまぶたを開けた。足元には白い床、投げ出された脚はたぶん俺のものだろう、履き慣れたスーツの色褪せ具合で分かる。

 ――ここはどこだ?

 

 壁というへだたりのない星がきらめく空間が広がる。ああ、きっとコンビニの無駄に広い駐車場だ……にしては静かすぎる。


「やあ、お目覚めかな? ここは天空管理塔、私は天王の側近で神のロッカと言います」


 忽然こつぜんと現れたひとりの男、マネキンの様なシルバーの艶やかな長い髪に、丈の長い白い服と同色のマントを羽織っている。凄いイケメンだ、もう別物だな、さすがは神!


「神矢射竦さん、あなたは悔しくも暴漢に刺され先程お亡くなりになりました。さっそくで申し訳ないのですが、射竦さんには魔界の復興をお願いしたいのです。本当なら女神の出番なのですが、いたずらが過ぎて謹慎中なので私が。聞いてますか?」


 偉そうにペラペラとよく喋る神だ。女神が何やらかしたのか知らないが、死んだ人間に……そうか、俺は死んだのか……この俺が不意打で刺されて死ぬとか、同僚のいい笑い者だ。

 まあ、人生の最後なんてこんなもんなんだろう。


 それはそうと、いま意味不明な爆弾発言を聞かされたように思うんだが、確か魔界とかって――

 どうしよう、全く全然、話の意図が分からない。どうやら俺の常識で考えてはいけないようだ。

 

 神様が存在するなら悪魔の存在も考えられるが、魔界だよね、悪のトップがいる世界だよね?

 しかもこの世の最高峰である天王まで登場だ。これは何かのお祭り事なのか、イベント的な?

 落ち着こう俺、再度確認だ。


「……魔界って、魔の巣窟とかモンスターが徘徊して飛び交ってるみたいな、あの悪の象徴の魔界?」

 

「そうですね、現世ではそんなふうに思われてますね……やっぱり、引いちゃう?」


 なんだろうこの意識の違い。引くも何も、魔の巣窟に行けとか言われたら誰でも引くわ。

 どうしよう、只事でないことが只事のように起こっている。

 

 もしだよ、仮に言われたことが本当だとして、俺にはピンとこない。だってそうだろ、ついさっきまで警官を生業なりわいにしてきた俺がだよ、今度はダークサイドに転じろと言われても、はいそうですね、と簡単にはいえない。


「――それで俺にどうしろって?」


「う〜ん、良いねえ、その強気な態度、待った甲斐があったってもんだよ」


 ニッコリと微笑むが目が笑っていない。ここは逆らわないほうが良さそうだ。


「疑問なんだが、なんで神が魔界の心配を?」


「まあ、君には突然のことだし、知らない事のほうが多いですかね。事実は小説よりも奇なりです」


 いやいや、俺からしたら"藪から棒"なんだけど。あ、"飛んで火に入る夏の虫"か?


「確か親玉がいるよね、なのになぜ魔界の復活?」


「行ってみれば分かりますよ」


 なんだよ、もう行く前提なのかよ――


「あの、選択肢とかは?」


「ハァァ、やっぱりちゃんと説明しないとダメですかね。よく聞いて理解してくださいよ」


 こいつ、面倒くさそうに溜め息なんか吐きやがって、神だからってなんでも許されると思うなよ。

 なら犬でも分かるレベルでよろしくどうぞ!


「おう」


「……コホン。魔王は逝去されました、なので魔界も今や壊滅間近の危機なのです。それでですね、運命の女神から予め死亡者リストを頂きまして、その中から天王があなたを選んだというわけです。ざっとこんなところですか」


 ざっとって、ちゃんと説明するんじゃなかったのかよ、もういいや。

 そもそも、魔王って死ぬのか? 人類共通の疑問だと思う。それに壊滅間近とか、切羽詰まり過ぎでまさかの人間頼りとか有り得なくね?

 ということは、魔界破滅フラグを俺に回避しろってことか、こんな理不尽な理由ってある?

 

 ここはもう頭をバーチャルモードに切り替えよう。リストってことは俺の死に待ちだったんだろうから、当然と素性も性格も分かっているんだろう。それはさておき、問題は魔界の復活とやらだ――


「魔界に行ったとして、


「ほんと! ああ良かった! 天王は君の物怖じしない態度や意志、強靭な肉体に身体能力、陽キャラポジティブ思考にメンタル強めと、天王はご満悦でしたからねー!」


 人の話を聞けよ!


「ハァ、それで、魔界の復活とは何をするんだ?」


「とりあえず配下の勧誘ですかね。早い話し、配下無くしては魔物や魔獣を率いるのは大変ですので。魔王のいない魔界は今やスッカスカ、そのうえ魔物も減少傾向にあります。これを危機と言わずして何というのか!」


 神が声を荒げていうことか?


「以前の配下はおそらくまだ近くにいるはず、ただですね、その配下の首領が一癖も二癖もあるのでちょっと難解です。一応ご報告まで」


「はっ?」


 参った、最後の最後に地雷を踏んでしまったぞ。どんな強面こわもてがいるのやら恐怖しかない。

 ああ、最悪……。


「まあまあ、そう気を落とさずに、悪いようにはしませんから安心してください」


 悪いようにされたら困るんだよ!

 何をどうすれば安心感なんぞ生まれるのか!


「――何が安心なんだよ」


「はい、私が射竦さんのお供をいたします。これ以上の安心はないと思いますが?」


 不安しかないんだけど……。


「ハァ、で、お供ってどこへ?」


「先ずは魔界で準備をして、それから異世界で配下探しと魔物救済に出掛けます。異世界は実に面白いですよ、フフ」


 ガーン……もうこれって拷問ごうもんなのでは?


「いっそのこともう一回くらい死んでもいい……


「それではイスク・レベンディスよ、貴方の活躍を期待しています」


 だがら人の話を聞く耳を持てよ!

 

 そして俺は光に包まれ飛ばされた……!

 

 

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