ヒーローはヒーローを殺すヒーローだ

@sink2525

第1話 ヒーローを殺すヒーロー

「あ、あ、マイクテス、あ、あ」

 深い呼吸をする。どれほどこの機会を待ったか、やっと、やっと叶う。

 笑いながら泣き始める。

 汚い空を眺める。どれもこれも空を飛び回っている。小さい飛行機、小さい車。

 現代は発展し過ぎた。

 もちろん、人類も発展している。

 人は人じゃ無くなった、人は力を手に入れた。絶対に人間が手に入れちゃダメな力を。

 あの日から誓った約束を守れるよ。

 汚い空に手を伸ばす。

 そしてマイクの電源を入れる。

 俺はビルの屋上に立ち、下に立っているゴミども見つめる。

 あれが世界の誇るヒーローか、くだらない。俺の彼女を殺しやがって。

 光を殺し闇を宿す。

 そしてマイクを握る。

「ゴミどもの皆さんようこそ」

 笑いながら俺は言う。だって笑ってしまうだろ、ゴミどもは俺を見て驚いてる、何故って?

 〇〇だからだよ。

 あ、まだ言えないな。

 俺の計画の邪魔になるからな。

「もう、辞めるんだ」

 ゴミが言い始める。ゴミは何を言ってもゴミなんだよ。

 声がでかくなる能力でもあるのかよ。

 ここから結構距離があるぞ、凄いな。でも、ゴミだけどな。

「塔崎風だっけ?」

 俺は挑発するような言い方をする。

「そうだ、もう辞めるんだ」

 も、もう辞める? おい、馬鹿が下に居るぞ。ここまで来てやめる馬鹿がどこにいるんだよ。

「や、辞めるって、笑わすなよ」

 俺は落ちるギリギリのところに立つ。

「ふざけるな」

 真剣な表情で俺に向かって言う。

 おい、おい、下に居る馬鹿を誰か殺してくれよ。

 手で額を抑える。

「お前こそ、ふざけるな塔崎」

「何もふざけていない、もう辞めるんだ」

「それ以上喋るな、仲間を殺すぞ」

 俺の一言で黙る塔崎。

 お前は俺の全てを壊した、ヒーローの存在を憎む存在に変えた。

 ヒーローを憧れから殺したい存在に変えた。

 ヒーロはヒーロを殺すヒーロなんだよ。

「さて、ゴミどもの皆さんには自白してもらいます」

 多くの人が下に集まっていた。

 ヒーローはざっと30人程度か。

 全員殺せるか怪しいな。

「これ以上ふざけた真似をしたらお前を殺すことになるぞ」

 塔崎は遠くから俺の顔を睨む。

 いやー、ヒーロって視力も良くなるとは思いもしなかったな、まあ、見たくないものまで見えるがな。

「あのさ、こんなのはやめなよ」

 大きいメガホンを持ち、俺に問いかけてくる。

 女性ヒーロで人気がある、塔崎楓、が俺を見つめて言う。

「黙れよ、落ちぶれが」

「は?」

 怒っている、それもそのはずだよな、俺に言われるなんて嫌だよな。散々俺のことを馬鹿にしていたくせに。

「兄と比べらるのは相当苦痛だよな」

「殺すよ」

「そんな言葉は使うなよ、ヒーローの株が落ちるぞ。天才の兄に学ばなかったのか?」

「それ以上妹を侮辱するのはやめろ」

 兄の、塔崎加神、が俺を睨みつける。あー怖い怖い。

「そろそろ、この事件を起こした理由を教えてくれ」

 まるで、誰にでも優しいヒーローみたいな振る舞いはやめて欲しいいんだけどな。虫唾が走るんだよな。

「真治結城、別名ヒーロ殺し」

 下に居るゴミどもは驚く。だって〇〇〇〇してるもんな。

「なんだと」

 加神は驚く。そして思いもよらないことを言い始める。

「殺す」

 光を宿し始める。

 天は雲を退かし太陽を光らす。

「光を神に、闇を悪魔に、天を光に、地を悪に。我に力を」

「なげーよ馬鹿」

 俺はビルから飛び降りる。

 風が俺を味方する。

 ポケットからナイフを取り出し、手にセットする。

 風を遮り、音を遮り、俺は落ちていく。

 これ結構楽しいぞ。

 自分の腕を切り、血を空中に広げる。

 血はやがて固まり、光がない剣ができる。

 そして、落ちるのをやめて、俺は空中に立つ。

「あ、あ、マイクテス、マイクテス」

 地面との距離はやく五メートルほど。

 ヒーロは俺に警戒する。

「まあ、そんなに警戒するなって、俺を何回も殺して来ただろ」

 10人ほど固まる。

「まさか、覚えてないとか言わないよな?」

「殺す」

 塔崎の妹、楓は走ってくる。こいつって脳ついてるか?

 俺はさっと上に飛ぶ。楓も飛び始める。

「殺す」

「落ち着けってそんなに武器を振りまわしても意味ないから」

「殺す」

「落ち着けって」

 俺はゆっくりと楓の剣を掴む。

「落ち着けって、お前は落ちこぼれなんだからさ」

「殺す、殺す」

「光は私に天を与える。闇は私に地を与える」

 こいつ魔法も使えるのかよ。

 まあ、ゴミだけど。

「長いよ」

 俺は楓を蹴り飛ばす。

「うわああああ」

 俺の蹴りの勢いに地面に吹っ飛ぶ。

 だせー。

「真治――――――」

 俺の名前を呼ぶなよ、気持ち悪いな。

「聞こえてるよ、そんなでかい声出さなくても」

「お前はもう終わりだ」

「俺はとっくに終わってるよ、それに俺のこと覚えてるならさ、しっかりと殺せよ――――――」

 耳が張り裂けそうになるくらいでかい声で俺は言う。

 塔崎は空を飛び、俺の目の前に来る。

「死ね」

 手を剣のようにして素早く振る塔崎。それを見て思わず笑いそうになる。だってダサいもん。

 口を手で押さえ、俺は避ける。

「あのさ、そもそも、こうなった原因覚えてるか?」

「知るか、私は民を傷つけるのは許さない」

「おい、お前はそんなこと言える資格ないだろ」

 俺は近づき炎魔法を唱え放つ。

「く」

「お前この程度の魔法で痛むのかよ」

 俺の挑発は見事に効く塔崎。

「黙れ、黙れ、お前は俺が殺すんだ」

「そうだよな、だって殺さないといけないもんな」

 だってこいつ、俺の大切な彼女を殺してるもんな、世界が誇るヒーロが民を殺してるとか広まったら、問題になるもんな。

「うるさい、殺す」

「もう、飽きた」

 俺はさっと剣を出し、塔崎の心臓を突き刺す。

 剣を抜き、剣を力いっぱいに振る。

 剣についた血はぽたぽたと流れていく。

 下で絶望している楓に目が行く。

 俺はビルの屋上に立ちマイクを握る。

「俺はヒーロを殺すヒーロだ」

「あ、ちなみに塔崎は生きてるから早く助けた方がいいぞ? 落ちこぼれ」

 酷く震えている楓を見て思わず笑う。

 こいつ、人に散々やって自分がされたら泣き始めるのかよ。

 腹を抑えて笑う。

 雨が降り始まる。

「あ、マイクテスト、あ、あ、あ」

「えーと、ここに宣言します。東山結城、私はヒーロを殺します」

 ヒーロたちは絶望する。

 そして数分しか経っていないのにもう、塔崎加神は生き返っていた。

 ほんとヒーローって便利だよな。

 実際、加神を殺すのは無理そうだな現状。

「では、俺はここで帰ります」

 深いお辞儀をする。

「あ、最後に、この中継を見ているそこの君、ヒーロはヒーロを殺すヒーロだよ」

 満面な笑顔をカメラに贈る。

 空を高く飛び俺は去る。

 結局はこうなってしまったよ、失った彼女を思い出す。

 俺がこんな男になってしまったあの日を思い出す。

 思い出すな、俺はヒーロを殺すヒーロだ。

 

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