魔女学園の問題児
みーこ
第1話 入学後即退学の危機なんですが⁉
「一学期の期末試験で不合格だったら、お前ら全員退学な」
どう見積もっても小学五、六年生程度の少女にしか見えない担任教師がそう宣言したのは、入学式後のホームルームでのことだった。しかも第一声に、だ。私が初めてこの教室に入った時に生徒用の机が四人分しかないのを見て「限界集落の小学校か?」と驚いたのが遥か昔のことのように感じられる程、衝撃的な内容だった。もっと人数が多いであろう他のクラスでも、今頃同じように退学を宣告されているのだろうか。
「退学ってどういうことだよ⁉」
クラス代表のように立ちあがって抗議したのは、燃えるように赤い髪が特徴的な少女だった。こちらは高校一年生の女子にしては背が高く、スカートの裾からは引き締まった脚が伸びている。
自然と生徒を見上げる形になった先生は、うんざりしたように息を吐いた。
「学校を辞めてもらう、ということだ。中学までは義務教育だから、どれだけテストの点数が悪かろうが、不登校でいようが、その学校に在籍して三年生の三月になれば卒業できる。だが、ここは高校だ。もっと言えば名門校だ。出来損ないはいらない。それが学校の方針だ」
(で、出来損ない……)
その言葉のナイフが私の心にぐさりと突き刺さり、ついでとばかりにぐりぐりと抉ってきた。明らかに私に向けられた言葉だ。出来損ない。だって私は、本来であればこの学校に入学するどころか、存在を知ることすらなかったはずだ。事の発端は昨年の夏休み。何の因果か、私はいつの間にかこの学校の敷地内に足を踏み入れていた。すると突然目の前に現れた少女から「合格だ」と言われ、あれよあれよと言う間に入学式を迎えていた。そして今、退学の危機に瀕している。
私のせいで、きっと他の三人も退学になるのだ。
「入試ん時にあんだけのことやらせておいて、あたしが出来損ないだって言うのかよ!」
またしても赤髪の生徒が声を荒げた。それはそうだ。私以外の生徒は全員、ちゃんと試験を受けた上で入学している。試験の内容こそ知らないが、名門校と言うからには難易度が桁違いに高いに違いない。それをクリアした上で来ているのに出来損ない扱いされれば、誰だってプライドを傷つけられるだろう。
吠える生徒に対し、小さな先生も負けじと大きな声を出した。
「ああもう、うるさい! 言っただろう、期末試験で不合格だったら、と。出来損ないだと言われたくないのであれば、退学したくないのであれば、合格すればいいだけの話だ。違うか?」
「……違わねぇけど」
「わかったなら大人しく座れ」
赤髪の生徒は暫くの間先生を睨み付けていたが、小さい割には妙な迫力のある先生の眼光に負けたらしい。煮え切らない気持ちを抱きつつも席に着いた。
それを見届けた先生が、うむと頷いた。やっと本題に入れる、といった顔だ。
「っつーわけで、お前らは試験に合格さえすれば、三カ月どころか三年間共に同じ教室で過ごすことになる。一蓮托生ってやつだな。とりあえず、初日らしく自己紹介でもするか」
「はい! は~い! じゃああたしから!」
「お前は一秒でも大人しくしていると死ぬのか⁉」
元気よく返事をして立ち上がったのは、やはりと言うかなんと言うか、先程の赤髪の少女だった。先生もすかさずツッコミを入れる。こういう、うるさ……有り余るほどの元気さを持ち合わせているのは男子ばかりかと思っていたが、どうやらこの類いの認識は改めたほうがよさそうだ。
「あたしは
ざっくばらんな自己紹介及び脅しを終えた
「みなさまごきげんよう。わたくしは
(今、調教って言わなかった……?)
椅子に座る彗を恐る恐る見ると、こちらに気づいた彗が唇の両端を吊り上げた。しかし目が笑っていない。怖い。お前のせいで退学になったら地獄の果てまで追いかけ回してやるからな、という圧を感じる。私が駄目な方向に考えすぎているだけな気もしなくはないが、でもやっぱり目は笑っていない。私は曖昧な笑みを浮かべてゆっくりと目を逸らした。
先生が「んじゃあ、次お前な」と私の前に座る少女を指定する。既に二人も濃い人間がいる中で、一番平々凡々な私が最後になるのか。せめてこの人だけでもまともであってくれと祈りを捧げるが、立ち上がりもせずに手元のタブレット端末をいじり始めたのが見えた時点でもう終わったと確信した。
『
喋ることができないのか、それとも口を開くのが面倒なのか、起伏の少ない合成音声で自己紹介を終えた未琉。駄目だ。濃すぎる。この場にいる私以外の人間のキャラが濃すぎる。
「はっ。実験台にできるもんならしてみろってんだ。その前に消し炭にしてやるよ」
(でも、みんなからしたら私が一番の問題児だよなぁ……)
この教室に足を踏み入れた時点で何となくおかしな気配は感じていた。入学式が行われたホールには、普通の学校に比べれば少ないが二百人弱の全校生徒が集まっていた。それなのにこの教室にはたった四人しかいないのだ。
このクラスの生徒が四人しかいない理由。それは彼女達の言動を見れば一目瞭然。
問題ばかり起こす人物を集めたからだ。
そこに私が混ざっているのは不服でしかないが……学校側の基準で言えば、私の存在こそ問題でしかないのだろうし、それについては私も重々承知しているので致し方ない。
「んじゃ、最後」
先生が顎で私を示す。私は処刑台に赴く罪人のように重々しく立ち上がった。
「は、初めまして。
「あ? 何だ? 聴こえねーぞ?」
この先が告白しづらく言葉を尻すぼみにさせると、すかさず
「あなたの声が大きすぎるから聴こえないんでしょう? 虫の声は静かに耳をそばだてて聴くものですよ」
助け舟ではなかったかもしれない。
「どうぞ、舞理さん。続きを仰ってください」
「あ、は、はい……。どうも……」
それでも一応礼は述べて、深呼吸をした後に非常に告白しづらいことを述べた。
「わ、私……魔法が使えないので、もし、みなさんを退学させてしまったら……ごめんなさい」
「「『はあ?』」」
異口同音に素っ頓狂な声を上げながら三人の生徒が私を見上げた。三人ともそれはそれは驚いたように口をぽかんと開けている。
「お前、ここがどこだかわかってんのか?」
「……はい」
ここは
日本で唯一の、優秀な魔女を育成するための高等学校だ。
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