愛せない
@answer124
愛せない
熱にうなされ目が覚めた。
ミキからLINEが来ている。
「今日そっち行く」
頭を抱えてミキに返信した。
「いいよ、うつるだろ」
こんな風邪に体が弱った日は、誰かの腕がほしいもんだ。でも、それはミキじゃないし、誰でもない。
それに、ミキが事故にでもあったら、と考えると、、、
普通普通とよく言う。ミキも言うんだ。
普通彼女なら心配だよって。
その心配は嬉しいが、ミキが来たところでどうやって甘えればいいのか知らないし、次の日になれば体は楽になっていくことを知っている。
ミキと出会ったのは音楽サークルの中でだが、サークル内ではお互い目が合う程度だった。
これが運命か、と思ったのは、サークル解散の3年後、サークルと関係のない友人の友人がミキだったのだ。
「久しぶり」
挨拶を交わした僕らは出掛けるようになり、いつのまにか付き合っていた。
その夜、少しの寂しさを感じながら、ミキの夢を見て寝た。
過去の恋愛を辿ればトラウマだらけな僕は、ミキがいてくれる、それだけで幸せだ。
「ねぇユウ」
ある日ミキが僕に少し不安そうに尋ねてきた。
「ユウは結婚願望とかあるの?」
「僕は、ミキが相手なら、いつだって結婚したいさ。」
「ありがと、それが聞けて安心した」
ミキはそう言って僕に抱きついてきた。
僕が、ミキを裏切るとは思いもしなかったんだ。
ミキと付き合って3年が経った頃だった。
ミキはその頃泣いていた。
僕は口下手な性格か、あまり伝えることが苦手だったのか、それとも安心していたのか、、、ミキのさみしさについて考えることなんてできなかった。
ミキが浮気した、と僕に告げた5年目の冬。
「どうしてだよ」
「・・・」
ミキは黙っていた。
ごめんねと謝るのは僕の方だったんだ。
何も、ミキにちゃんと伝えていかなかった。
結婚の話も、これからの話も、好きと言う言葉も。
何をして生きてきたのだろうか、僕は。
ただミキがそこにいるそれだけで幸せだった。僕だけ。
ミキの結婚を友人から聞いたのは、別れてから一年後の春だった。
おかしいね、ミキといた頃の僕と、今の僕では、僕が僕でないような気がするんだ。
リセット、まるで自分のリセットのように身体中から生まれ変わる。恋愛とは、なんて残酷なんだ、と僕は思った。
リセット
生きる意味を探す。できれば簡潔に。
僕は転職をしようと思った。
リセット。何もかもが生まれ変わり、そしてその何もかもを脱いで、僕は生きるそう決めた。
「ユウ〜今日は残業だ」
会社の上司が、話しかけてきた。
「はい」
残業が終わったのは夜8時で、帰りに大型スーパーで、買い物をした。
「あっ、」
ミキが、旦那と歩いていたのを遠目で発見した。
あの時の、感覚が蘇る。
僕は逃げるようにその場から離れた。
遠くに歩いていたミキは、僕といた時より、幸せそうに見えた。
「ユウ、今日も残業だ」
今日も同じ時刻、上司の声が聞こえた。
「はい」
僕は、冷徹に、なんの湧き上がる感情もなく、答えた。
「いやー君は立派だ。よく働いてくれる」
「ありがとうございます」
リセットするたび、機械化されていった僕の発言は、もはや、周りからロボットと称されるようになった。
羅生門
帰りに、残業を手伝ってくれた女がいた。
「ユウちゃんってさ、何歳?」
僕は、羅生門にひとりできた。
僕の心を生かすものが、少しの思い出と、たくさんの詰め込まれたタスクなら、、
僕はこれだけは手放せない。
僕が愛された記憶と、未来。
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