7章 対破壊活動

第40話『就職!GM助手のお仕事』

 そういえばの金策だが、当面はテーブルGMの助手として働くこととなった。

(面接もちゃんと受けました、時間契約社員!)


「おや。うちの制服も似合いますね」


 ベーシックなカジノディーラーっぽいスーツだ。

 レヴィはにやにや顔で覗いて行き、ご機嫌な様子でフロアに降りる。


「因みにこれってレヴィのデザイン?」


 と聞くと、コグニテックに衣装課があり、そこがセッティングしているらしい。

 NPCだけじゃなく実在人物も多数働いているが、余り表には見えないようになっているとか。


「俺はいいの?」


「まあまずはドリンク要員です。──というか僕のエリアの売り上げを上げてください」


「身も蓋もないなぁ」


「だってメモリさん、スキルも使えますし戦えますし、準GMとして動けますから」


「や。まあ、今はロクにスキル使えないんだけどね」


「──リンゼイの茶で、封じられているんでしょう?」


「多分これ、対処療法的なやつ。薬と一緒で徐々に効かなくなるんじゃないかって気がする」


「……なんだ。状況は変わってないんですか」


 したん、と尻尾が鳴る。

 左側の首筋とトントンと叩き、レヴィが表情を曇らせた。


「……ふむ。それじゃあ……、僕の『強制執行』と一緒ですねえ」


 どちらも、リンゼイ絡み。いや、俺の場合はリンゼイのおかげで助かっていて、レヴィは──逆だ。

 レヴィの言葉に思わずドリンクサーバーを試していた手を止めてしまう。


「自分の行動をスケジューリングしていると言ったでしょう? 今のところ問題はなくても、自分でも不可解な状況というのがいくつかあって」


 曰く。マルチアラウンドイベントのデータ更新を『不可解にも』忘れていたこと。

 そして、先日のリンゼイとのゲーム一切を忘れてしまっていたこと。


 ──やっぱり、とメモリは俯いた。

 インスタンスで、強制執行スキルが効いてしまった。そのことをレヴィに話す。


「多分。外縁に行く直前までは『強制執行』スキル、俺が使えたんだと思う。どこのタイミングかは分からないけど、多分──今は、リンゼイがそれを握ってるんだ」


「? どういうことです?」


「ごめん。ごめんな。あの、前に買って来たケーキ。テストだったんだ。食べるな、って命令が効くのかどうか」


 ぽかん、とレヴィの口が開く。

「ああ、あれ……そういう」


 なんて酷いイタズラするんだろうと思いましたよ! とレヴィが憤慨する。

「食べる直前にだなんて。ええ、でもあれは、全然スキルとしては効いて居ませんね。メモリさんの言葉だから、一旦考えた訳で」


「う。それはすげえありがとうなんだけど、裏切るようなことしてホントごめん……」


 心苦しそうなメモリにレヴィがふ、と表情をやわらげた。

「そんなだから、信頼に足る方だと思うんですがね、メモリさんは。言わなくても良いのに僕にバラしてしまったし。これで脅迫するネタが増えたというものです」


「脅迫すんの?! てか増えたって既に握ってるのか?!」

 にやあり、とレヴィが悪い笑みを浮かべた。当然でしょう、と。


「まあしかし。だとしたら僕に掛かっているのは、本当にリンゼイの──スキル」


 ゆらり、とレヴィが尻尾を揺らした。

「そうですか。やはり、リンゼイ。敵ですね。僕の」


 データ解析しなくても分かる、敵意と殺意が上がっている顔をしている。


(けど。なんでインスタンスの更新を忘れさせる必要があったんだ? まるで俺に、気付かせる為みたいな──)

 ぞわ、と背筋に寒気が伝う。

 違う……。


 深夜に会ったリンゼイの目を、ふと思い出した。

 以前と同じようで違う。

(あれも、テストだったんだ……)


 ひとつ。それまでに『強制執行』スキルを悪用しなかったこと。

 ふたつ。インスタンス戦、あれは俺が気付くかを試すテストだった。

 不可抗力だったけど、本当は『使うかどうか』を確認するもの。つまり、ズルして簡単にクリアするかを見てたんだ。

 みっつ。それに加えて、スキルの利用権とも言える『命令』権が移ったかを確認したこと。


 ──このテストの仕方、知ってるよ、俺は。


(公認会計士ってより……信頼に足るかどうかのテストだ)

 特に、言うなれば欲望に簡単に負けるかどうか。

 例えばそれは、手軽に取れる場所に遊ぶ金を『隠して』おく。バレないように盗ったと思っても、それは捨て金。つまり──不合格。

 考え過ぎかもしれない。けれど、リンゼイが会いに来たのは、おそらく俺が全て合格していたから。

 誠実さ、そしてからくりを見抜ける程度の判断力。


(あの報酬。組み戻さなきゃ、リンゼイとは手が切れるんだろうな……きっと)

 それもいいかもしれない。


 そこへ、レヴィの端末に警報が鳴り響いた。


「──外部で害獣被害発生。これは、……すみません、メモリさん。早速ですが──同行をお願いしても?」


「外? アンテナとしてだよな。おっけ! 何処へでも!」


 GMのもう一つの顔、害獣駆除。話には聞いていたものの、実際業務中に直面するのは初めてだ。

 外部への要請がレヴィに入ったらしい。

 

 その場合には外縁部の時と同様、メモリも同行するという契約になっている。


「それじゃ、今回は上空からなので──スイープに」


「待ってスイープってなに?! 初心者でも安全なやつ?!」


 何処でもと言いながら即前言撤回してるみたいな言動になってしまった。

 でも知らないじゃん! スイープってなんだよ! 今日になって初めて聞いた単語だよ!!

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