第5話『スキルと装備の初心者セット』
(特殊スキル……俺に合ってるスキルか。状況的に複雑ではあるけど……)
やっぱり、そうは言っても何か楽しみにしてしまう気持ちはある。
大人げないかもしれないが、それはそれとして期待と不安で胸を膨らませながら、画面を開く。
そこに表示されていたのは──《データ観測》
(……)
(…………地味!!)
周囲の情報を数値化して見えるようになった。ただし、自分の知識の範囲内でしか表示されない。
──うーん、普通に地味だ!
とはいえ、正直合うか合わないかで言えば、これほど欲しいスキルも無い。自分にとっては、だが。
喉から手が出る程欲しいデータの実数が一挙に見える、などというものは。
(まあそもそも俺、それが生業だった訳だしな……)
数式は言語だ。数字は伝える為の形で、把握するための情報でもある。メモリは数字への忌避感が、一切無い。
図にした方が分かりやすい、なんて言われるが。
それこそ感覚的に、数値の方が分かりやすい。苦手意識さえ持たなければ、数の世界は端的で美しいのだ。
(はは、なんか。これはこれで嬉しいって、変な話だな。今まで俺がやってきたことが『合ってる』って言われたみたいだ)
ふう、と深いため息を吐く。
思ってたのとは違うが、──これなら、得意分野なんだ。
まずは知識を増やそう。
そう納得して立ち上がった背中を、レヴィがトン、と叩く。
「うわ! 気配消して急に背後に来ないでくれる?! レヴィ……」
「いえいえ僕は監視役ですから。それで? メモリさんのスキルは、どのようなものに?」
「……『データ解析』だって」
「え。じ……、すご、堅実な感じですね?」
言葉に詰まったのを誤魔化すように耳をぱたぱた弾いてレヴィが言う。
「地味って言おうとしただろ。正直、俺もそう思う」
「いえそんな。実用的とか重要とか……ですよ」
レヴィが目を逸らす。
(『とか』って。完全に地味って言いかけたな)
「スキルが分かったのなら、折角ですから、買い物にも行きませんか?」
にこにことレヴィに手を引かれ、中央広場の商店街へと連れられた。
「ご新規さんですね! タイセイ様時代からの名物、ファル商会へようこそ!」
商人の言葉にレヴィの耳がピクリと動く。
さっきも聞いた名だ。
「タイセイさんって?」とメモリが尋ねると、
「ああ、以前の総GMですよ!」商人が目を輝かせる。
「三年前までここ、コグニスフィアでは『無敗』として知られたタイセイ様の!」
少し困ったような顔をして、レヴィが説明を引き継いだ。
「タイセイさんは三年前に引退したんです」尻尾が静かに揺れている。「だから、今は僕たち6人のGMで運営しています」
空中商人が話に加わるように、降りてきた。「勿論レヴィ様もお強いですよ!」
「どうですかあ~レヴィ様! これなんか、新入りさんにぴったりでは?」
ちらちらとメモリを見る商人が取り上げたのは、青く輝く短剣。
「セラフブレード! 武器として使えるのはもちろん、中のサフィラ結晶で魔力を増幅できます。レヴィ様のお連れでしたら特別に、500ケイドルで!」
レヴィが小声で解説してくれる。
「10ケイドル、メモリさんのところの通貨換算で15倍ほどですね」
意外とするもんだな、と思ったが定価からすれば三割引だった。
魔術防御もついているらしく、かなり得といえた。そもそも必要かどうかを悩んだ末に購入を決める。
「支払い方法って──」
「プレミアムコースには商品購入特典が含まれてまして」レヴィが耳を揺らす。「一定額まで、追加料金なしでお求めいただけます」
(……まあ、あの金額だもんな……)思わずメモリも納得した。
次に出合った商人が見せてくれたのは、まるで生きているように薄っすらと光が表面を撫でていく、濃灰色の革ベルト。
「いらっしゃい! 今日の目玉はこれだよ!」
「セイバーベルト! 装着するだけで防御力が上がる上に、軽くて使いやすいよ! 武器を手持ちしなくていいロック付き!」
商人の言葉と共に、濃灰色の革ベルトが宙に浮かび、ゆるやかに光を纏いながら舞い踊る。
両側には武器や道具を下げられる留め具が並んでいた。
「それに、このベルトは装着する武器に合わせて形を変える。どんな武器でも、まるで無重量のように身につけられるんだ」
装着してみると、微かに武器の重みを感じる程度。
むしろ適度な重さで、携帯している実感があって丁度良かった。
最奥の店は、透明な棚に様々な装備品が浮かんでいる。
「まあ、ゲームマスターのレヴィ様がご案内とは。これは特別なお客様ですね」
店主は月白の長い髪を優雅に束ね、琥珀色の瞳が印象的な女性。狼の耳と尻尾を持ち、立ち居振る舞いに気品が漂っていた。
「ルカ・シルヴァーウルフと申します」
その名に相応しい銀色の光沢を帯びた狼耳が、愛想良く傾ぐ。
レヴィがこっそり耳打ちした「ここは何でも高級品です。でも、どれも価格にふさわしい性能ですよ?」
「へえ……」メモリが、ふと目に留まった棚の奥を指す。
「グラビティブーツ?」
「あら、目利きですこと!」ルカが手を翳すと、黒く重厚そうなブーツが浮かび上がる。
「亜人種のように自在な動きを可能にする、当店の目玉商品なんですよ」
「亜人種のように、って?」
「はい!」レヴィが嬉しそうに説明を引き継ぐ。「僕たち亜人種は生来の身体能力で壁を走ったり、高く跳べたりするのですが──」
「このブーツなら、人間種でも同じように。重力制御で、まるで猫のように軽やかに」
「ブーツの補助があれば、メモリさんでも壁を足場に動けますよ?」
レヴィの言葉にルカが頷く。狼耳がふわりと揺れる。
「そうです。ブーツ底部のサフィラ結晶が重力を調整してくれますよ──お試しに?」
ルカの琥珀色の瞳が微笑んだ。
メモリたちが中央市場を後にする頃には、日が傾きはじめている。
「本当にいい買い物ばかりでしたね! メモリさんは運が良い」
レヴィがふわふわと尻尾を揺らした。
「や、けっこーな金額になったけどね……特にルカさん、御薦めが上手すぎる」
何しろブーツが最高額だ。けど普通のブランド品と変わらない出来で、試し履きのバッチリ具合も他に考えられないほど。その上でアフターケア付きとなれば買うしかなかった。
そんな会話をしながらも、ふとメモリはひと気のない奥の壁に違和感を覚える。
「あれ?」
メモリの視界に数値が浮かんだ。
(あの壁だけ、強度が急激に低下してる。69%……45%……)
「後はあちらで軽食でも──」レヴィが笑顔で勧めるのを遮り。
「あのさ、レヴィ……数値が、おかしい。腐食性物質の反応値……前職で見たことある」
「え?」レヴィの耳がピクリと動く。
「壁に、腐食剤が仕込まれてる。なんでだ? いたずら?」
悩むようにレヴィが耳を下げる。
「壁、ですか。あっちは森のエリア深部との境界壁で──」
言葉の途中で、突如。レヴィの瞳孔が細まり、杖を取り出した。戦闘姿勢に入る。
「何か来ます!」
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