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 私の頭の中が真っ白になる。


「違和感を感じたのはお前が生まれてからだった」


「お前の金髪を見て、自分の黒髪が普通じゃねぇことに気づいて、お前の両親に聞いたら」

「赤ん坊の時、聖アイス教会の前に捨てられてたのが氷雅ひょうが、お前だ。綺麗な黒髪だったから拾ったんだ」

「お前は両親に捨てられ天涯孤独なんだと聞かされて愕然としたわ」


 え…氷雅ひょうがお兄ちゃんが天涯孤独…!?


「何度も出て行こうか迷った。でも出て行ったところで行く宛はねぇし野垂れ死ぬだけ」

「それに祖母と同じ金髪ってだけで母親に責められてるお前を見て」

「本物の兄貴になって守ってやりてぇって、髪を金髪に染めるようになった」


 私の為に金髪に染めてくれたの…?


「なんで金髪なんかに染めるの!?」

「黒髪でいいじゃない!」

「何がそんなに不満なの!?」

「ってお前の母親に毎日ガミガミ言われて説得すんのに苦労したけど、金髪兄妹って渋々受け入れてくれた」


「でも小学校上がる頃には、ありすだけが本物の金髪で祖母と同じ金髪ってだけでお前のこと育てるのが両親とも嫌になってて」

「ほぼお前のことを俺に任すようになったわ」


 あぁ、やっぱり、

 お母さんもお父さんも私のこと嫌いだったんだ…。


「お前は両親が出て行ってショック受けてたけど、血の繋がり関係なく、俺は出て行ってくれて良かったって」

「髪の色だけで生んだ子供大事に出来ねぇ両親なんていらねぇって今でも思ってる」


 私は氷雅ひょうがお兄ちゃんに右手を掴まれたまま俯く。


「ありす?」


「さっきは誤魔化したけど」

「……知ってた」

氷雅ひょうがお兄ちゃんが…本当は黒髪だって」


 瞼に涙を滲ませ、震えた声で言うと氷雅ひょうがお兄ちゃんは目を見張る。


「金髪に黒髪が少しだけ混ざってた時が何度かあって、ツートンに染めてるんだってずっと自分にそう思い込ませてた」


 本物の兄妹の絆を守りたくて。

 だけどそんなもの最初からなかった。


 絆は“偽物”だったから。


 それでも守りたかった。

 守りたかったのに!!!!!


「なのにやっぱり黒髪だったんだね」

「本当の兄妹じゃなかったんだね」


 私はぎゅっと両目を閉じる。


「なんで今更言うの!?」

「ずっと黙ってて欲しかった!!」


「ありす…」


「置いて行った手紙もそう」


『ありす、氷雅ひょうが

 あたし達ね、ずーっとあんた達が母と同じ金髪なのが嫌だった』


「って書いてあったけど、お母さん、嘘が下手だよね」

「嫌だったのは私だけ」


 私は顔を上げると左手で自分の金髪をぐちゃぐちゃに掴んで氷雅ひょうがお兄ちゃんに見せつける。


「この、この金髪が私を苦しめる」

「ウィッグをいくら被っても私が金髪なのは変わらない」

「好きでこんな色で生まれたんじゃないのに!!」


 大粒の涙が留め度もなく、ポロポロと落ちていく。


氷雅ひょうがお兄ちゃんみたいな綺麗な黒髪だったら良かった!」

「私はこの髪が、金髪が大嫌い!」


「偽物の氷雅ひょうがお兄ちゃんなんて、だいっっきらい!!!!!」


 そう泣き叫んだ瞬間、

 心に絡まった絆のリボンがほどかれ、バラバラに千切れた。


 私は氷雅ひょうがお兄ちゃんの手を振り払う。

 そして洗面台を出て玄関まで走る。


「ありす!」


 氷雅ひょうがお兄ちゃん、もう私の名前を呼ばないで。


 私は玄関で靴を履き、扉を開け、走って出て行く。


 “なんの為に勉強してるの?”

 “なんで受験するの?”

 “氷雅ひょうがお兄ちゃんの為?”


 分かんないって、ずっと逃げてたけど本当は分かってた。


 そうだよ、氷雅ひょうがお兄ちゃんの為。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんの“本物の妹”としている為。


 だから氷雅ひょうがお兄ちゃんが望むことは全部してきた。

 ウィッグの約束も嘘を付いてでも守ろうとした。

 だけど、


 ――――お願い。

 ――――誰か、

 ――――心に絡まったリボンほどいて。


 そんなの嘘だ。


 ずっとほどかれたくなかった。

 ずっと“本物の兄妹”でいたかった。

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