2


 …口?

 こうかな?


 え……月沢つきさわくんの甘い舌が入ってきて……。


 強く絡んで離さない。


「んぁっ……」


 私の心に絡まったリボンが甘く、弾けた。


 え……。

 何、今の声……。

 私?

 あ……どうしよう。


 月沢つきさわくんは、そっと唇を離す。


「…今日はこのくらいにするか」


「あ、うん」

 私はゆっくりと起き上がる。


「…星野ほしの、髪にゴミ」

 月沢つきさわくんはウィッグに触れようとする。


 私はバッと顔を背けた。


 あ……。


「自分で取るので…大丈夫」


「…そう」


 月沢つきさわくん、今、どんな顔してる?

 怖くて見れないよ。


 私は月沢つきさわくんの顔を見ないまま立ち上がる。

「教室、戻るね」


「…星野ほしの!」


 私は屋上から出て行く。


「…あー」

 月沢つきさわくんは自分の前髪に手の平を当てた。




「…はぁ」

 5限の音楽の授業を終えた私はため息をつきながら3階の階段を降りていた。


 月沢つきさわくんのことで頭がいっぱいで、

 音楽の授業、何やってたのか全く覚えてないや。


 なんで私、あんな声…。

 思い出す度に、

 恥ずかしくて、たまらない。


 2階の廊下が見えた。


月沢つきさわくん」

 女の子の声が聞こえ、私はドキッとする。


 え…月沢つきさわくんとツインテールの女の子?


「…何?」

 月沢つきさわくんが無表情のまま問う。


「好き。私と付き合って」


 私は両目を見開く。


 え、え、告白…!?


 ドクン、ドクン、と私の胸が嫌な音を立てる。


 月沢つきさわくん、なんて答えるんだろう。


「…悪いけど興味ない」


 ツインテールの女の子が月沢つきさわくんのネクタイに触れる。


 胸がズキンッと痛んで、

 心に絡まったリボンが、複雑に絡まっていく。


 やだ。

 やだやだやだ。

 月沢つきさわくんに触れないで。


 月沢つきさわくんは私のなのに。


 私はハッとして右手で自分の口を押さえる。


 ……あ。

 私、なんでこんなこと思って…。


 屋上で、顔、背けたくせに。

 私、ヤキモチ妬いてるの?


「え~誰とも付き合ってないんでしょ?」

「だったらいいじゃん?」

「軽く付き合ってみよーよ」

「興味わくかもしんないし」


「…それはねぇわ」

 月沢つきさわくんはツインテールの女の子の手を下に降ろす。


「…俺が興味あるの、星だけだから」


 月沢つきさわくんはC組に向かって廊下を歩き出した。


「え~、天体に興味あるの!?」

「何それ~、かっこいい!!」


 ツインテールの女の子は月沢つきさわくんに着いていく。


 顔が熱い。


 月沢つきさわくん、

 星って、私のこと?


 ぐらっ…。


「あっ…」

 私は階段から足を踏み外した――――。


 月沢つきさわくん達は振り返る。


 階段横に隠れていた夜野やのくんが駆け出て来て私の体を支えた。


「大丈夫?」

 夜野やのくんが尋ねると私はコクンッと頷く。


 夜野やのくんが月沢つきさわくんを見る。


 一瞬見つめ合うと、夜野やのくんが勝ち誇った顔で微笑んだ。


 月沢つきさわくんは何も言わずに再び歩き出し、ツインテールの女の子も着いて行く。


「冷たいな」

「ほんと徹底してるね」


「…………」

 私は黙る。


「ごめんね、助けたのが俺で」


「ううん、助けてくれてありがとう」


 他の女の子に月沢つきさわくんが触れられるくらいなら、

 今すぐ私が触れたい。

 いっぱい触れられたい。


「…あの夜野やのくん」


「ん?」


「後で月沢つきさわくんに伝えて欲しい」

「放課後、屋上に来て下さいって」


「分かった。伝えておくよ」


 月沢つきさわくん、お願い。

 屋上に来て。


 そしてもう一度、

 私に深くて甘いキスをして。


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