5


 そして放課後。


 ガチャッ。

 私は屋上の扉を開ける。


 あ…月沢つきさわくん、まだ来てない。


 私はセーラー服のピンクのリボンをぎゅっと両手で押え、

 両目をぎゅっと瞑る。


 胸がドキドキで壊れそう。

 電話では結局返事もらえなかったけど、きっと来てくれるよね…?


 ガチャッ。

 屋上の扉が開く。


 月沢 つきさわくんが入ってきた。


 月沢 つきさわくんは黒のウィッグを被り、制服(白の半袖シャツにチェックの薄い灰色とブルーのスボン)を着ている。


「…!」


 月沢つきさわくん…。


「…3日間、ベランダで待ってた」


「あ……」


 私の両目が潤む。


 待っててくれてたんだ…。


「…俺に言ったこと覚えてるか?」


「うん…」


「…言ったら、もう戻れなくなるけど」

「…星野ほしの、本当にそれでいいのか?」


 今までの関係には戻れないってことだよね…。


 ここで拒否れば氷雅ひょうがお兄ちゃんにバレずに関係を終わりに出来る。

 だけどそんなの無理。

 月沢つきさわくんがいない毎日なんてもう考えられない。


「いいです」


 月沢つきさわくんが私をじっと見つめる。

 夕日に負けないくらい真っ白な下弦の月がキラキラと輝く。



「――――俺も」

星野ほしのが好きだ」


 え……。


 私は驚きの余り、その場で崩れ落ちた。


 言葉がもう何も出てこなくて、

 両目から大粒の光が零れ落ちて止まらない。


 月沢つきさわくんは歩いて来て私の前にしゃがむ。



「…出会って8日」

「…こんなに好きになるなんて思わなかった」

「…これからも星野ほしのとの時間大切にするから」



 お願い、口動いて。

 月沢つきさわくんに気持ち、ちゃんと伝えたい――――。


「うん…」



月沢つきさわくん…大好き」



 言えた……。


「…あー、うん」

 月沢つきさわくんはそう言うと誰にも聞こえない声で呟く。


「…やべぇ、嬉しすぎて言葉になんねぇ」


「……月沢つきさわくん?」


「…星野ほしの


「はい」


「…俺がここでしたこと覚えてる?」


「…?」

「それがよく思い出せなくて…甘さを感じたような…」


「…そう。じゃあ」

 月沢つきさわくんはかっこいい表情で私を見つめる。



「…今から思い出させてやるよ」


 え……。


 しゅるっ。

 月沢つきさわくんにセーラー服のピンクのリボンを少しずつぼどかれていく。


 顔が熱い。

 首から汗が垂れて…。


 ふわっ……。

 ほどかれたリボンがスカートの上に落ちる。


 あ……リボンが……。

 髪掻き分けられ……。


 爽やかな甘い香りと

 唇がゆっくり近づいてきて……。


 両瞼を閉じ、眉が下がる。


 ふわっと唇が重なった。


「んっ……」


 とろけるような刺激的なキスで、

 心に絡まったリボンも甘くほどける。


 “…ほどいてほどかれる関係”


 月沢つきさわくんはそう言っていたけれど、


 少しずつほどいて、

 ほどかれて、


 完全にほどけた先に、

 月沢つきさわくんはいるだろうか?


 “…プラス秘密多め”


 私の脳裏を月沢つきさわくんの言葉が過ぎる。


 一緒にいてくれたら嬉しいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る