セリナの過去と決断



 悠たちが地下の魔法陣の前に立つと、セリナはしばらく言葉を発せず、ただ静かにその場に佇んでいた。彼女の目は、目の前の広大な空間に漂う不気味な魔力に吸い寄せられ、まるでその力に取り憑かれるかのように動かない。


「セリナ、何があったんだ?」

 悠が声をかけると、セリナはようやく動き出し、低い声で答えた。


「私の兄、ヴァルノスは、魔族の中でも非常に力のある存在だった。しかし、彼はその力をどう使うべきかを見失った。」

 セリナの声には深い悲しみと苦しみが込められていた。


「力を……?」

 リリアが首をかしげると、セリナはゆっくりと頷いた。


「ヴァルノスは、魔族を支配しようとしたんです。最初は、魔族を統一して強大な王国を作ろうとした。しかし、だんだんとその欲望は歪んでいった。私の家族は、その力を使って人間や他の種族を支配することに反対していた。だから、ヴァルノスは私たちを排除し、この地下の遺跡に封印された魔法の力を手に入れることに決めた。」


 セリナは目を閉じ、深く息を吐いた。彼女の表情には、過去の出来事の重さがにじみ出ていた。


「でも、それが引き金となって、魔族の中でも異端者とされる者たちが集まり、ここに集結したんです。」

 セリナはその後、ゆっくりと振り返り、魔法陣の中心に目を向けた。


「私の兄が追い求めていたのは、この魔法陣の力だった。これを使えば、全ての魔族を支配することができる。しかし、その代償は計り知れない。人間だけでなく、他の種族を滅ぼす力を持つこの魔法陣は、使う者に恐ろしい結果をもたらす。」


「その力を止める方法はないのか?」

 悠はセリナを見つめ、声を低くして尋ねた。


「私がここに来たのは、そのためです。この魔法陣を破壊するために。だが、問題はヴァルノス。彼はすでにこの魔法陣を使ってしまった可能性が高い。」

 セリナの顔が一瞬歪んだ。彼女の苦しみは、言葉では表せないほど深いものだった。


「セリナ、お前の兄を止めるために俺たちが力を貸す。」

 悠は決意を込めて言った。


「俺たちが手を貸すって?でも、ヴァルノスはただの魔族じゃない。君たちが想像する以上に強い。もし彼が力を完全に手に入れたら、どうなるか分からない。」

 セリナはその言葉に動揺を見せながらも、ゆっくりと頭を振った。


「それでも、私は諦めない。ヴァルノスが何をしようとも、私は彼を止める。そして、私たちの世界を守るために戦う。」

 セリナの目に強い決意が宿る。


「セリナ、お前の力だけじゃ足りないかもしれない。俺たちが一緒に戦うぞ。」

 リリアが力強く言うと、悠も続けて言った。


「セリナ、俺たちは仲間だ。お前一人に背負わせるわけにはいかない。」

 セリナはその言葉に深く頷き、胸を張った。


「ありがとう……。でも、私は一人でもヴァルノスを止める覚悟はある。もしも、私が無力だと感じた時、君たちに頼むかもしれない。」

 セリナの言葉には、重さと同時に誇りが感じられた。


「その時は、お前が頼んでくれ。俺たちが必ず助けるから。」

 悠は優しく微笑んだ。



道中、数体の魔族が襲いかかってきたが、セリナの力と悠たちの連携で次々と倒していった。



 そして、ついに魔法陣の中心に辿り着いた。そこには、巨大な魔族の姿があった。その姿は、セリナの言っていた通り、想像を超えるほどの強さを持っていた。


「ヴァルノス!」

 セリナが叫んだ。その声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。


「セリナ……。お前も来たか。」

 ヴァルノスの声は冷たく響いた。彼の目は、セリナを一瞥した後、悠たちを見た。


「お前たちが私を止めるつもりか? だが、それは無駄だ。私の力はすでに全てを凌駕している。」

 ヴァルノスはそう言うと、魔法陣から放たれる闇のエネルギーを高め、悠たちに向けて放った。


「セリナ、行け!」

 悠が叫ぶと、セリナはその言葉に応じるように、魔力を解放した。彼女の身体から溢れ出す光が、魔法陣の闇を打ち払っていく。


「私は、私の信じる道を進む!」

 セリナは力強く宣言し、ヴァルノスに立ち向かっていった。



次回予告:「セリナの覚悟と魔族との決戦」

 セリナとヴァルノスの壮絶な戦いが始まる! 彼女は果たして兄を止めることができるのか? そして、悠たちはどう戦い抜くのか? 次回、魔族の決戦が幕を開ける!

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