とある会社の先輩後輩コンビに起こったことを一言で説明するのは難しい件
タヌキング
ooo
僕の名前は
椿先輩はスーツの似合うスラっとしたモデル体型でありながら豊満な胸を持ち、露出の無いスーツの上からも、はち切れんばかりのダイナマイトボディである。顔も女優顔負けのキリっとした美人だし、仕事には厳しいけど優しさも兼ね備えているという高嶺の花というのは、こういう人のことを言うんだと僕は常日頃から考えている。
そんな大好きな椿先輩に認められるために今日も頑張るぞ。
「太一、仕事も一段落したし、お昼食べ行きましょうよ」
やった、椿先輩からお昼に誘われたぞ。うひょー♪
「もちろん行きます♪」
「いつも私が店を決めてるから、たまにはアナタが決めなさい」
「えぇ……じゃ、じゃあ、会社の近くの丸美食堂にしましょうよ。あそこ美味しいし、二人で行ったこと無かったですよね?」
「ま、丸美食堂」
椿先輩の顔が少し曇った様な気がする。どうしたというのだろう?もしかして丸美食堂嫌いなのかな?
「先輩どうしました?丸美食堂が嫌なら店変えますけど」
「い、いや、丸美食堂で良いわよ。早速行きましょう」
「はい!」
僕は元気よく答えたが、まさかの展開に驚愕することになるとは、この時は知る由も無かった。
丸美食堂は会社の近所の食堂で、歩いて5分程度のところにある。
昔ながらの食堂で、お昼時は仕事休憩のサラリーマンや作業員などでいっぱいで繁盛している様だ。
「いらっしゃーい」
店に入ると割烹着を着た恰幅の良いおばちゃんが挨拶をしてきた。元気に挨拶をされるとコッチまで元気になるなぁ。
「おばちゃん、二人なんだけど席あるかな?」
「あー待ってて、丁度今空いたところだから、テーブルを拭くわ」
おばちゃんがテーブルを拭き終わるのを待ち、僕らは向かい合う様にテーブル席に着いた。椿先輩がさっきから何も喋らず、店に入ると俯き加減になっているのが気になる。やはり丸美食堂に来るのが嫌だったのだろうか?
「せ、先輩、この店はお子様ランチが有名なんですよ。まぁ、子供しか食べれないので、どんなものか僕は知らないんですけど」
僕がそう言うと、先輩はハッとした表情で僕のことを見つめた。まるで鬼にでも心臓を掴まれた様な顔である。
「どうしました先輩?」
「い、いや、なんでも無いわ。へぇ、お子様ランチが有名なのね」
「は、はい、そうです」
すぐにいつもの椿先輩に戻ったけど、どうにも様子がおかしいのは間違いない。参ったな、僕の印象下がっちゃったかな?
「アンタ達、何が食べたい?」
おばちゃんが伝票を持って近づいて来る。その時である、おばちゃんが椿先輩の顔を見るなり、目を見開いて驚いた。そうして大声でこんなことを言うのである。
「アンタは子供を亡くした人だね‼」
「へっ?」
あまりに意味不明だったので変な声が出た。子供を亡くした人とはどういう意味だろう?もちろん椿先輩に子供は居ない。ただの人違いだとは思うけど。
「ひ、人違いじゃないですか?」
椿先輩もそう言うけど、おばちゃんは尚も食い下がった。
「いや、私が間違えるわけがないよ。アンタは三か月前に子供を亡くして、子供との思い出のお子様ランチを食べに来た人だよ。涙を見せながら子供との思い出を語ってたじゃないか。私も感動してもらい泣きをしたもんだよ」
おばちゃんの説明を聞いても僕は信じるつもりはなかったけど、当の椿先輩は額に浮かぶ冷や汗を必死にハンカチで拭っているで、それを見ると半信半疑になった。
「おばちゃん、またあとで注文するから待ってて」
「はいよ、いつでもお子様ランチ作る準備は出来てるからね」
おばちゃんが席を離れた後、僕は思い切って聞いてみることにした。
「椿先輩。もしかしてお子様ランチを食べたいが故に、子供を亡くしたなんて嘘をついたわけじゃないですよね」
「ギクッ‼」
あっ、ギクッ‼って言った。これは完全な黒かもしれない。
「うふっ♪うふふふ♪」
椿先輩は開き直ったのか、見たことも無い邪悪な笑みを浮かべた。そんな彼女の顔を見ていると、僕の仲の憧れの先輩がガラガラと崩れ去って行き、あとには裏切られたことへの怒りだけが残った。
「私はね、お子様ランチを食べる為ならなんだってする女よ」
冷淡にそう言い放つ椿先輩。腕組みなんてして完全に開き直ってやがる。
「最低です。そこまでしてお子様ランチを食べたいですか?」
「えぇ食べたいわ。ハンバーグにエビフライ、ナポリタンに目玉焼きにチャーハン、それにココのプリンは自家製でとても美味しいの。チャーハンの上に何処の国旗が立ってるか想像しただけでゾクゾクするわ♪」
「ア、アンタって人は‼」
この女がやったことは、とても人間の所業とは思えない。お前がお子様ランチを語るなと言いたくなってくる。
「このことを上司に報告させてもらいます。さぞ会社に居辛くなるでしょうね」
僕がそう言うと椿先輩は官能的な顔をして、御自慢の胸を寄せて強調させてきた。そうして一言、僕にこう告げたのである。
「黙っててくれたら、今晩私のことを好きにしてくれていいわ」
「……えっ?」
ゴクリと僕は生唾を飲み込んだ。この先輩のナイスバディを好きにしていいのか?少し想像しただけで胸の高鳴りが止まらなくなった。だが騙されてはいけないぞ太一、この女がやったことは最低の行為だ。この程度のことで誘惑されてなるものか。
「ア、アナタね、この程度のことで男と寝るんですか?」
「えぇ、言ったじゃない。お子様ランチの為ならなんでもするって、これからも安全にお子様ランチを食べる為なら、男とだって寝るわ。今までだってそうしてきたもの」
この女のお子様ランチへの執念は恐ろしい。過去の何があったというのだろうか?僕にはそれを知る勇気はなかった。
「それでどうするの?早くしないとお昼休みが終わっちゃうわよ」
挑発的な態度の椿先輩。完全に主導権を握られてしまった。だが悩むことは無い筈だ。理性のある人間ならば、目の前のお子様ランチ狂いを断罪すべきだ。ゆえに僕の答えは初めから決まっていた。
「実戦経験が少ないもので不備な点があるとは思いますが、今晩は宜しくお願いします」
「うふ♪仕事共々お世話してあげるから大丈夫♪」
欲望に負けてしまった。どうやら僕は動物と変わらないらしい。こんな自分にガッカリしてしまう。
「さてと、そしたらお子様ランチ頼んじゃおうかな♪」
おばちゃんを呼んで泣く芝居をしながら、お子様ランチを頼む椿先輩。その姿におばちゃんがもらい泣きをしているのを見て、僕は胸が痛くなった。
僕はチャーハンを頼んでガムシャラにチャーハンを食べた。椿先輩は満面の笑みで均等にお子様ランチを平らげていく、流石は常習犯、慣れた手つきである。
その日の夜、ビジネスホテルで僕らは体を重ねたわけだが、そこにはお子様ランチを食べていた無邪気な彼女の姿は無く、椿先輩は言うならば僕という死体に群がる一匹のメスハイエナの様であった。
されるがままの僕は情けない気持ちになったものだが、快楽を満たす点においては非の付け所の無いほど満足させられたのが悔しかった。
人間とは多面的なのだと色んな意味で思い知らされた日になった。
とある会社の先輩後輩コンビに起こったことを一言で説明するのは難しい件 タヌキング @kibamusi
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