復活のギルディア・シン・呪雷
@nozomikota
第1話
寿来「……ふははははは! ギルディア・シン・呪雷、復活! 十年の時を経て、満を持しての完全復活だぜ!」
灯代「はいはい、厨二乙」
寿来「…………」
灯代「な、なによ。言いたいことがあるなら言いなさいよっ」
寿来「いや、なんつーか……最近言わなくなったよなあ、厨二乙とか」
灯代「……っ」
寿来「そもそも厨二病って言葉自体、あんまり言われなくなってきたよな。言ってる奴がいたら寒いまでは行かなくても、『あ、懐かしい』みたいな空気になるっつーか」
灯代「しょ、しょうがないでしょ! 十年よ十年! アニメが放送してから十年も経ってんだから! そりゃ言葉の流行だっていろいろ変わるわよ!」
寿来「そっか、十年か……え? じゃあ俺ら、二十六、七歳とかの設定でいく? 久しぶりの同窓会で集まった的な……」
灯代「……いや、そこはなあなあで行きましょう。最終巻の十年後とかだといろいろ設定が面倒だし」
寿来「おっけー。なあなあだな。……そんなんばっかだったよな、俺ら」
灯代「それは気にしたら負けよ……」
寿来「十年……十年かぁ……そうだよなあ。マジでいろんなことがあったなあ」
灯代「ほんとよね」
寿来「……『異能バトル』の1巻書いてた頃は大学生だった作者は、結婚するし子供が生まれるし……子供、もう小学生だぜ?」
灯代「あっ。もうメタ完全解禁? 第四の壁壊して、速攻で作者が乗り移ってくる感じ?」
寿来「……異能バトルの後、なんか急に性癖解放して『年上ヒロインの伝道師』とか言いだしちまうしよぉー」
灯代「……なんかそっち系に行っちゃったわよねー」
寿来「今回こうやって『異能バトル』の短編書くのだって、マジで久しぶりだからな。いろいろ忘れてて、ウィキペディア調べながら書いてるぞ」
灯代「うわ、出た~。『作者だけど設定忘れてウィキペディア調べちゃう』やつ~」
寿来「……なんか古くなったよな、灯代のそういうノリも」
灯代「だからうるさいってば! キャラ造形が古いとか言うな!」
寿来「この短編の始まりも、本当は俺の『黒焰』を発動するための呪文詠唱をバシッと決めてから始めようかと思ったけど……完全に忘れたわ。ほぼ思い出せん……」
灯代「……悲しいわね」
寿来「我こそは混沌の覇者なり……ええと、黒の断片を……滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり――」
灯代「混ざってる混ざってる! 途中から『黒棺』になってる!」
寿来「……クソっ。『黒棺』なら今も完全詠唱できるのに、自分で考えた詠唱の方を忘れちまった!」
灯代「……しょうがないわよ。『黒棺』には勝てないって」
鳩子「――あっ。ジューくん、灯代ちゃん、こんなとこでなに話してるの?」
寿来「鳩子様ぁあああああ! このたびは、ありがとうございました!」
鳩子「えええ!? な、なになに!? なんで急に土下座で感謝!?」
寿来「……今回の件は、すべて鳩子のおかげだ! 先方に許可取らずに勝手に短編書いてて、商品の名前とか出していいかわからないから詳しくは言わないけど……とにかく鳩子のおかげだ!」
鳩子「いやー、あはは……。そこまで言われるとなんだか照れますなあ」
灯代「やっぱりインパクトすごいわよね、鳩子のあのシーンは。十年経っても忘れられないっていうか」
寿来「『異能バトル』のアニメ見てなくても、あそこだけは知ってる人とかいるからな」
鳩子「全然、ぜーんぜん、すごくないって……。私じゃなくて声優さんがすごいだけだし」
寿来「あの長台詞が一発撮りオッケーだったのは今も伝説だしな」
鳩子「それに関しては本当にただただ声優さんがすごいだけだね」
寿来「この十年で作者が仕事してても、『アニメの異能バトル見てましたよ。鳩子のあのシーンが~』みたいなこと、めちゃめちゃ言われたからな。作者の後のキャリアに繋がった、重要なワンシーンだと言っていい」
灯代「本当よね。もう誰がメインヒロインかわからない感じだわ」
鳩子「あはははー……え?」
灯代「ん? な、なに?」
鳩子「……灯代ちゃん。それはどういう意味?」
灯代「え? な、なに鳩子、急にシリアスな顔で」
鳩子「言外に『まあ、この作品のメインヒロインは私だけどね』って匂わせてる感じが……」
灯代「お、思ってない思ってない!」
鳩子「『なんだかんだ、この作品は私の魅力で回ってるからな。鳩子なんて結局、永遠の二番手ヒロインだよな』と言わんばかりの上から目線感が……」
灯代「それは本当に思ってないって!」
寿来「お、おい鳩子」
鳩子「……なんてね。嘘嘘、冗談だってば。ちょっと言ってみたかっただけー」
灯代「驚かせないでよ……」
寿来「楽しくやろうぜ。十年ぶりの同窓会的な短編なんだから……」
鳩子「わかってるって」
千冬「……なんか、盛り上がってる」
寿来「おお、千冬ちゃん!」
千冬「やっほー、アンドー」
寿来「よく来てくれたね」
千冬「うん。ところでアンドー」
寿来「なんだい?」
千冬「……私、安藤寿来の呼称、『アンドー』で合ってたよね? なんかうろ覚えで……。会話劇やるためにヒロイン四人は違う呼び方で主人公を呼ぼうって決めたことは覚えてるんだけど……」
寿来「…………」
千冬「あっ。私、一人称はロリ感を強調するために、自分の名前の『千冬』だったっけ? うっかりうっかり」
寿来「……おっけー。おっけー。ありがとう。しょっぱなからフルスロットルでありがとう」
千冬「千冬、さんじょー。いえい」
寿来「いえい。……いやー、うん。しかしアレだなあ、改めて見ると、本当にアレだよなあ」
灯代「どうしたのよ?」
寿来「小学生だよなあ、と思って」
鳩子「どういうこと? 千冬ちゃんはずっと小学生だよね?」
灯代「いや、なんとなく言いたいことはわかるわよ」
寿来「小学生がヒロインの一人になってるって……令和のコンプラ的にはちょっと身構えちまうよな」
灯代「時代、一気に厳しくなったもんね……」
寿来「……アニメにはならなかったけど、俺、原作でキスとかしちゃってるからな……。大丈夫かな……? 今から電子が発禁になったりしないかな?」
灯代「だ、大丈夫でしょ、たぶん」
千冬「千冬は、気にしない。なにも問題ない」
寿来「いや千冬ちゃんがよくてもさ」
千冬「いざとなったら『この物語の登場人物は全員成人しています』と書けば、だいじょーぶ」
寿来「それ、裏技中の裏技じゃん……裏技ってか力技」
鳩子「千冬ちゃんがとんでもなく留年してる小学生になっちゃうよー……」
寿来「令和のコンプラじゃ、それも許されなそうだよな。児童に見えたらアウトらしいから」
彩弓「令和のコンプラと言えば」
寿来「あ、彩弓さん」
彩弓「私と安藤くんとの掛け合いの中であった、腐女子趣味をイジるようなネタに関しても……昨今ではあんまり歓迎されてない空気を感じますね」
寿来「あー、確かに。腐女子がどうたらってあんまり言わないですよね。一応、本編ではそこまでバカにしたニュアンスにならないよう配慮をしていたつもりではありましたけど」
彩弓「『腐女子』に関しては、そもそもが自虐的な意味を孕んだ呼称ですから。ネタにすること自体がどこかバカにした感じになってしまいますし……令和には不向きなネタと言えるでしょう」
寿来「うーむ。時代時代で考えることがありますね」
彩弓「まあ、そもそも私の腐女子設定が……若干死に設定でしたからね」
寿来「そういうこと言わない!」
彩弓「思いつきでやってみたはいいが、いまいちハマりませんでしたよね。たまに思い出したようにネタを出しては『あー、なんかそんな設定あったね』ぐらいの感じにしかならないというか。変に批判にビビった結果、なんかヌルい腐女子ネタばっかだったというか」
寿来「ちょっと、マジでやめましょうって……」
彩弓「止めないでください、安藤くん。今私は、死に設定をあえて自分から『死に設定』とイジることで、キャラを立てようとしてるんですから。ヒロイン力を高めさせてください!」
寿来「そんな高度なことやらなくていいですよ! もう原作終わってますから! 十年ぶりの短編で頑張ってヒロイン力とか気にしなくていいですよ!」
彩弓「どうしても気になってしまいますよ……ところで鳩子さん」
鳩子「は、はい……?」
彩弓「さっき灯代さんを上から目線だとか言ってましたよね。自分が『永遠の二番手ヒロイン』がどうたらとか。正直な話……それ自体が相当な上から目線に感じてしまいましたよ、私は」
鳩子「そ、それは……」
彩弓「『あっ、ナチュラルに自分は二番手だと思ってるんだなあ、この子は』と思ってしまいましたね。ええ。自分が三番手四番手とは微塵も考えてないんだなあ、って」
鳩子「ええと、ええと……」
寿来「ちょ、ちょっと彩弓さん、落ち着いて。ギスギスしないで……」
彩弓「そもそも……あっ。これから原作最終巻のオチについて言及しますから、ネタバレを回避したい方は読むのをストップしていただければと。未読の方は、今すぐ全巻読んでから続きを読みましょう」
寿来「急な配慮と宣伝!?」
彩弓「はい。それではみなさん。ネタバレ回避のためにしばらく沈黙してください。三点リーダ、6つ分ぐらいで」
寿来「………………」
灯代「………………」
鳩子「………………」
千冬「………………」
寿来「……そろそろいいかな?」
灯代「いや、念のため、もうちょい空けた方がいいんじゃない」
鳩子「わからないよねー。カクヨムさんははじめてだし」
灯代「……てかなんでこの短編、カクヨムで公開されてるの? GA文庫よね、この作品」
寿来「ちゃんとGA文庫にオッケーもらったから大丈夫だ」
千冬「カクヨム、サイコー」
彩弓「そろそろいいでしょうか。では改めて――原作の最終巻について。まあ私達の最終巻は……ハーレムエンドの亜種というか。安藤くんが誰かとくっついたけど、でも誰とくっついたか読者はわからないという形で完結しましたよね」
寿来「まあ、そうですね」
彩弓「答え出さずに逃げたパターン」
寿来「逃げたとか言わない! 最大多数の最大の幸福を考えた結果です! これも一つの完結の形!」
彩弓「まあまあ、そういうわけで……誰と結ばれたかは読者の皆様にお任せします、読者の皆様がそれぞれ好きなエンドを想像してください――となったわけですけれど……正味な話」
寿来「正味な話?」
彩弓「私と結ばれたと思ってる読者、います?」
寿来「…………」
彩弓「はい、黙った。あーあ、黙りましたね。それが答えですよ、もう。あーあ、嫌になってしまいますねー、まったく」
寿来「いやいやいや違う違う違う……そうじゃない、そうじゃないですって……」
彩弓「ヒロインを平等に扱って綺麗に終わらせた感出してましたけど……結局、結ばれたのは灯代さん、ワンチャンで鳩子さんとか、どうせ読者的にはそんな感じでしょう?」
寿来「……やめましょうって。十年経ってるからって作品の大オチを自虐的にイジるのはやめましょう」
彩弓「所詮これが、三番手四番手辺りのヒロインの宿命ですね……。ハーレムエンドになったところで、負け感を払拭できない……」
千冬「むなしー……」
寿来「千冬ちゃんまで……。いやおかしいって! 綺麗に終わったじゃん、俺達の作品は! やること全部やってすっごく綺麗に完結したんだよ! 作者だってあとがきで『こんな作品は二度と書けない』と満足げに語ってたんだから」
灯代「……でも今、久々に世間で話題になるのが嬉しくて、短編書いちゃってるわよね。『異能バトルは書けても、学園ラブコメは書けても、二度とこの作品やこのキャラ達は書けない』みたいな、格好いいこと言って終わったのに」
寿来「……いいんだよ、それは。完結ハイになってただけだから。今この場でなかったことにする」
彩弓「なんの奇跡か、再び話題となったタイミングで、こうして我々が復活できたわけですから――安藤くん。はっきりしていいただきましょうか。あなたは最終巻で、誰を選んだんですか?」
寿来「それマジでここで明かすんですか!? こんな短編で!?」
灯代「……確かに気になるわね」
寿来「灯代、お前まで……」
鳩子「ジューくん……はっきりしないのはよくないと思うな。はっきりしないなんて……わっかんないよ!」
寿来「やめろ! そういう雑な安売りはするな! ネットミームになったからって公式が安直に安売りすると、それはなんか違うんだよ!」
千冬「実は『三番手ヒロイン』の千冬が選ばれる可能性も高い。なぜなら作者がこの前、『三番手ヒロイン』をテーマにした漫画原作をやっていたから」
寿来「……それはGA文庫もカクヨムも全く関係ない話だから、マジでやめよう」
彩弓「……え? 千冬さん、三番手は私ですよ?」
千冬「なにを言ってる? 三番手は千冬。原作三巻は千冬が表紙だった」
彩弓「いえいえ。千冬さんは小学生枠というか、マスコット枠というか。三番手ヒロインは私でしょう」
千冬「……違う。千冬が三番。彩弓が四番」
寿来「ちょ、ちょ、今更三番手ヒロイン争いしないで!」
灯代「ていうか鳩子さ……今更ネチネチ言うのやめない? 今回もヒロインは鳩子だけが撮り下ろしの音声でしょ? 優遇されてるよね。え。なんかズルくない?」
鳩子「それは私が決めたことじゃないからなあ。ていうか灯代ちゃんもさ、今だから言わせてもらうけど……最終巻の表紙、あれなに? 手、繋いでない? オビに隠れるところでジューくんに触ってない? え? そういう匂わせしちゃうタイプだったの?」
寿来「こっちもこっちでやめろ! マジのネチネチした喧嘩するな! あー、もう、勘弁してくれよ……せっかく十年ぶりのお祭りみたいな短編だってのに」
工藤「……ふっふっふ。お困りのようなだ、安藤」
寿来「あ、あなたは――」
工藤「そう、私こそが五番手ヒロインでありながら、アニメで出番と人気が急増! 声優さんあEDも担当し、アニオリの最終回でも大活躍! 今風に言うなら……アニメでバズったヒロイン! そう、我こそが――」
寿来「あっ。すみません、そろそろ時間みたいです」
工藤「工藤み――ええ!? 時間!? 嘘だろ!」
寿来「ごめんなさい、ちょっとページ数の方が」
工藤「いやいやいや、これカクヨムだろう!? ページ数とかないよな!?」
寿来「――んんっ。ともあれ、なんの因果か、俺達はこうして相まみえたようだな」
工藤「まとめに入った!? え? 本当に終わるの!?」
寿来「人生は偶然の連続……ありえないような不幸が合ったかと思えば、奇跡みたいな幸運もある。十年前に終わったアニメが……誰も予想しない形で復活したりない……。前に進み続けていれば……そういうサプライズもあるってことだ。だがそのサプライズを味わうためには――『終わる』ということがある意味大事なんだろう』
灯代「……なんか、なに言ってるかわかんないわね」
寿来「復活の前には死が必須……そう、つまり『終わる』からこそ『始まる』んだよ。作品がちゃんと完結したからこそ、俺達はまたこうして出会えたんだ」
彩弓「……わかりました。安藤くん、どうにか自分の決め台詞で終わらせるつもりですね。この短編のオチにするつもりです」
灯代「あー、なるほど。だから変なポエム語りだして、強引に話をそっちに持ってこうとしてるんだ」
千冬「きめぜりふ?」
灯代「ほら、あれよ。始まりの終わりがなんちゃらってやつ」
千冬「あー、あれか」
彩弓「これといって流行らなかった決め台詞ですよね」
鳩子「私の『わっかんないよ!』方がバズってたね」
工藤「相変わらずだなあ、安藤寿来は」
寿来「だから俺達は……だぁあああもう! やめてくれ、そういうオチを先に言うやつ! こっちが必死に終わらせようとしてるのに! 最後ぐらいは格好よく決めさせろ!」
灯代「やれやれ……厨二乙」
鳩子「ジューくんはジューくんのままだね」
千冬「アンドー、変わんない」
彩弓「安藤くんらしさですね、これが」
工藤「うむ」
寿来「俺も大概だけど、みんなも大概だと思う……。はぁ……まったく。とりあえず強引に締めるわ。
十年、長いようで一瞬で、刹那のようで永遠だった。
この作品は終わったけど、生きてりゃこんなギャグみたいな奇跡も起こりえる。
だから……今日はとりあえず、ここでおしまい。
終わるってことは、またいつか始まるかもしれないってことだから。
終わった先の始まりで、いつかまた、みんなに出会えたら嬉しい。
――さあ、始まりの終わりを始めよう!」
復活のギルディア・シン・呪雷 @nozomikota
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