掌編・短編まとめ/レーティングあり版

天鵞絨リィン

あるM嬢の告白

 ごめんなさいね、急に、話があるだなんて言って。でも、そろそろパートナーであるあなたに話しておかなくちゃいけないと思ったの。大事な話よ。とっても大事な話。あたしがあなたに、ずっと黙ってたこと。あのね。

 あたしね、M嬢なの。

 あぁ、ごめんなさい、М嬢って分かるかしら? МはアルファベットのМよ、この場合はマゾヒズムとかマゾヒスティックとかマゾヒストの略になるのかしら。それと、お嬢様の嬢。で、М嬢。つまり、マゾの女、ってことね。本質の話じゃなくて、これはそうね、一種の役名よ。マゾの女の役をするの。

 なんのためにそんなことするかっていうとね。SMプレイを専門としたデリバリーヘルスで働いているからなの。ご主人様となるお客と、決められた時間内でSMプレイをするの。それがあたしのお仕事よ。お客様がSの役で、М嬢であるあたしみたいな女の子を痛めつけたり、辱めたりするの。それであのひとたちは性的興奮を感じるのよ。

 働いているんだから、もちろんお金は出るわ。М嬢は普通のヘルスとか、メンズエステとか、そういうところで働く女の子よりお給料がずっと高いの。時給で換算したら、一万と……五千円くらいかしら。お客様によってプレイの時間が違うから、入ってくるお金はその時によっていろいろよ。お客様によっては三時間のコースなんかを指定するから、そうすると一回のお仕事で五万円近く手元にくることになるわ。これは結構嬉しいものよ。

 そうそう、さっきのは基本のバックで……お給料のことバックっていうことが多いのよ……ほかにもオプションみたいなものがあるわ。たとえば、特別なバイブをオプションでつけたら、通常の料金にプラスして三千円、とかね。あと、指名料。この女の子と遊びたいわってお客様が指定すると、その女の子にお金が入るの。これはだいたい二千円くらいかしら。だいたいのお客様は女の子を指名するから、これは通常のバックと一緒にだいたい入ってくるわ。

 だから、運が良ければ一時間換算で二万円とか、三万円とか稼げることもあるのよ。たぶん、こんなに一気に稼げるのはМ嬢くらいじゃないかしら。あたし、М嬢以外やったことないから、よく知らないのだけど。

 それで、そうね、あたしそうやってお金を稼いでいるの。そうやってっていっても、なにをしているか話さないと、ぴんとこないわよね。

 あたしが働いているのはデリバリーヘルスだから、お客様が指定した場所に女の子が出向いてプレイをするの。あなた、ヘルスにも種類がることは知っているかしら? ヘルスっていうものは、大きく三つに分かれると思うわ。デリヘルことデリバリーヘルス、ホテヘルことホテルヘルス、箱ヘルこと店舗型ヘルス。デリヘルとホテヘルはそう違わないのだけれど……デリヘルも基本呼ばれるのはホテルなのよ……デリヘルはご要望とあらばお客様のご自宅なんかにも向かうわ。箱ヘルはお客様が店舗に出向いて、店舗の部屋で待っている女の子とプレイをするもの。あたしはSМの箱ヘルって聞いたことないけれど、あるのかしらね? まぁいいわ。

 お客様が指定した場所にね、道具を持って出向くの。基本料金に含まれている道具を……たとえば麻縄とかバラ鞭とか手枷とか……鞄に入れてね。それに加えて、さっき言ったオプションの道具を持っていくこともあるわ。あと、プレイにはキスがあるからうがい用の薬と、性器を洗うための特別な石鹸、あとローションね。それでお客様の待つ場所に……分かりやすくホテルにしておきましょうか。ホテルの部屋がお店経由で教えられるから、その部屋のチャイムを押すの。そうするとお客様がお迎えしてくれて、あたしはお部屋に入り、まずご挨拶するの。どこのお店から来たナントカです、って。もちろんこの時に名乗るのは源氏名よ。お店で決めた偽のお名前。名乗ったらまず、お金のやり取りをするの。現時点で確定している料金の精算よ。それが終わった時点でプレイがスタートするから、お店に連絡するの、今からプレイ始めますってね。そうするとお店が時間を管理してくれるのよ。

 そうしたら今度、お客様と一緒にシャワーに行くの。これは風俗のお仕事共通のことよ。あぁ、でも、即尺って分かる? シャワーをしないでプレイを始めることなんだけれど……このオプションをつけていたらシャワーは無しになるの。でもまぁ、あまりいらっしゃらないから、だいたいのお客様はシャワーを女の子と一緒に浴びるわ。シャワーでは、女の子がお客様の身体を洗うの。首元から足の先までね。足の指を舐めろって言われることもあるから、しっかりそこまで洗うのよ。最後に、持ってきた特別な石鹸で性器周りを洗うの。この時、お客様が性病持ちじゃないかとか、性器に明らかな異常が無いかとか、そういうことをチェックするのよ。なんなら、そのために洗っているようなものね。

 お客様の身体を拭いてあげた後、特別な指示が無ければあたしもさっと身体を洗うの。その間、お客様にはベッドで待ってていただくのよ。全身をボディーソープで簡単に洗ってから例の石鹸で性器周りを洗って、身体を流して拭いて、お待たせいたしましたってお部屋に戻るの。

 そうしてね、お客様の前で三つ指ついて、頭を下げてこう言うのよ。

 本日は、ご調教よろしくお願いいたします。

 ってね。だいたいのお客様はここで加虐のスイッチが入るらしいわ。ここから本格的にプレイが始まるの。

 プレイの内容は様々よ。ひとによってほんとうにばらばら。使う道具だってぜんぜん違うし、М嬢になにを求めるかもひとによって異なるの。ヘルスを利用するお客様って、基本的に最後は射精するものらしいのだけれど、SМに限ってはそうでもないのよ。時間内に射精しないお客様もたくさんいらっしゃるわ。精神的な充足を求めている方に多いわね。

 そうね、あたしが一番印象に残っているプレイの話でもしようかしら。いい?

 あの時のご主人様は五十代半ばくらいのおじさまで、スタイルはそこそこ良かったし、お顔も悪くなかったし、紳士って感じの方でね。スーツを着ていたから会社員の方かしら? まぁ、そこはどうでもいいのだけれど……とにかく、そんなような感じの良い方よ。あたしがホテルに着いて、何号室に入りますってフロントに伝えて、そのお部屋のチャイムを押すの。そしたらご主人様がお迎えしてくれて、いらっしゃい、なんて笑顔でね。あたしもにこっと笑ってはじめましてって挨拶しながらお部屋に入って、ドアを閉めては靴を脱いで……靴はご主人様のを真ん中に揃えて自分のは端っこに置くのよ……荷物を置いてね。道具を一式出してお店に連絡したところで、ここに座ってくれって言うから、備え付けのソファに座ったの。そうしたらご主人様がお隣に座って、あたしのお顔をじっと見て「かわいいね」って言いながら抱き締めてくるから、あたしはくすっと笑って「嬉しいです」なぁんて抱き締め返すのよ。しばらくそのままだったけど、あたしが「シャワーに行かれますか」って聞いたら頷くから、あたしは先に例のボディソープとうがい薬の準備をして、バスタオルがあるかチェックして、先に足ふきマットを敷いたの。その間にご主人様はご自分の服を脱いでいたから、あたしもさっと裸になって、バスタオルを巻いて、ご主人様をお風呂場に案内したのよ。お身体を流して、ボディーソープで全身を洗ってから、性器周りをチェックしながら洗って、お湯で流してから、身体を拭いて差し上げて。その間中ずっとご主人様はあたしに「普段はなにをしているんだい」とか「歳はいくつなんだい」とか聞いてくるから、あたしはあることないこと応えては時々ふふふなんて笑って見せて。そうしてご主人様にうがいをしてもらっている間にあたしもさっと身体を洗って、うがいをしてベッドに向かったの。ご主人様はベッドの上でお待ちになっていたから、あたしもベッドの上に上がって、頭を下げてこう言ったのよ。

 本日はご調教よろしくお願いします。

 って。そうしたらご主人様は「うん」って言いながらあたしの頭を押さえつけてシーツに埋めさせたの。あたしは、頭を下げるのが足りなかったかしら、と思って、申し訳ございません、って謝ったのよ。ご主人様は「いいんだよ」って優しくおっしゃったけど、その声はもうぎらぎら欲を孕んでいたわ。

 手を離されたから顔を上げたら、ご主人様がにこっと笑って「まずご奉仕してもらって良いかな」と脚を開いてお座りになるから、あたしはその間に入り込んで、ご主人様の性器に顔を近づけたの。そうして、失礼します、と言ってから口で咥えこんで、ご奉仕するの。ご主人様はなにも言わずあたしの頭を押さえつけてぐいぐい喉奥に性器を押し付けてくるから、あたし苦しくって仕方なかったけれど、なんとか我慢してご奉仕を続けたの。舌を這わせたり、口をすぼめたりして、必死にね。しばらくそうしていたら「もういいよ」とご主人様が仰るから顔を離すと、さっきより性器が大きくなっていて、ほんとうに男のひとの身体って不思議なものね。

 そうしたら今度はご主人様が、あたしが漏ってきた道具の中から縄を手に取って「そこに立ちなさい」と命令するの。あたしははいと返事をしてベッドのすぐそばにまっすぐ立ったわ。ご主人様は後ろから「姿勢が良いね」なんて言いながら迫ってきて、あたしの身体を縛り始めたの。あたしにはひとを縛るなんてことはできないから、もうなにがなんだか分からないのだけれど、ご主人様はなにか手順を踏みながらぐるぐるあたしの身体を縛っては自由を奪っていくの。あたしはただじっと黙ってそこに立っていたわ。時々「痛くないかい」「苦しくないかい」と聞かれるのに、だいじょうぶですと返事をするのはもちろんよ。

 あたしは後ろ手に縛られた状態になってもう自分じゃなんにもできないから、あとはご主人さまの思うがままよ。そのままベッドに横になるよう言われたから、脚だけでゆっくりベッドに上がって仰向けになったの。そうしたら「反対を向けるかい」と言われたから、あたしは必死に身体を捻らせてなんとかうつ伏せになったの。そうしたら腰を掴まれて、お尻だけ上げる体勢にさせられて、あたしなにもかもご主人様に丸見えになってね。ご主人様はベッドのそばに立ってあたしを眺めるの。

 しばらくそうした後、あたしが持ってきた道具のひとつである小さめのバイブにスキンをつけて、あたしの性器に容赦なく突っ込んだのよ。ひどいと思わない? まだなんの準備もしていないし、ローションも使ってくれなかったのよ。あたしは痛いって叫んじゃて、そうしたらご主人様は「痛いんだね」って言いながらバイブを抜いたりまた突っ込んだりするの。あたしの性器は自分を守ろうと少しずつ濡れてくるから、痛みは段々少なくなってきて、動きもスムーズになったわ。そうしたら一番奥に勢いよく突っ込んで、そのまま放置。ご主人様がまたなにか道具を漁っているから、今度はなにが始まるのかしら、なんてあたしゆっくり息を吐いたの。

 そうしたらご主人様が「鞭は平気?」って聞くから、あたし自信が無くて、少しならって答えたの。「何回くらいならだいじょうぶそう?」ってまた聞くから、十回くらいって答えたら「十五回は無理?」って言われて、あたしそれくらいなら平気だと思ってだいじょうぶですって答えたの。ご主人様が手の中でバラ鞭を鳴らしながら……あぁ、鞭って種類があるのよ。何本か鞭の束があるものと、鞭が一本だけのものがあるの。バラ鞭の方が痛くないって聞くわ。

 それでね、ご主人様が「いくよ、自分で数えてね」って言うから、あたしはいってお返事して、これからくる痛みにぐっと覚悟を決めたの。そうしたら、ぱん、って小気味良い音と共にお尻に激痛が走ったの。あたしは必死に、いち、って数えたわ。そうしたらすぐおんなじところを鞭で打たれて、に、って数えるの。おんなじところを叩くなんてひどいわよね。かと思ったら今度は反対のお尻を思い切り叩かれて、さん、って絞り出したの。そのまま、よん、ご、ろく、なな、っておんなじとろこを叩かれて、きゅう、じゅう、じゅういち、じゅうに、と反対を叩かれて。そろそろひりひりして痛くなってきたけれどあたしは身体を縛られているからどうしようもできないの。そうしたら今度ご主人様は太腿を狙って鞭を打つの。それも内腿よ。思い切りじゅうさん、反対をじゅうよん、あたしここであぁやっと次で終わりだと思ったの。それで、じゅうご、と今度はまたお尻を打たれて、やっと終わったと思ったら、どうしてか終わらないの。まだ何度も何度もあたしのお尻を打つの。太腿も叩かれるの。あたし、約束と違うわと思って、お許しくださいって言ったの……プレイを緩めたりやめたりする一種の合図なのよ……、でもご主人様は手を止めないし、それどころかエスカレートしているから、あたしもしかして声が小さくて聞こえなかったのかしらと思ったの。その頃にはお尻も太腿も腰もほんとうに痛くって、もうお許しくださいってまた言ったの。今度は叫んだようなものよ。でもね、やっぱりご主人様はやめてくれなかったの。ひどいわよね。あたしだってお仕事でやっていて、ほんとうにつらいことだってあるのに、ご主人様は完全に自分の欲望重視。あたし泣き叫んだわ。お許しくださいお許しくださいって。でもだめよ。何度も何度も鞭打たれて、ばしんばしんと嫌な音がホテルのお部屋に響くのをあたしは聞いているしかないの。逃げたくても逃げられないのよ。あたしほんとうにつらくって、結局、そうね、たぶん五十回くらい叩かれて、もうとっくにバイブも抜け落ちてて。後から見たら下半身が真っ赤でそれはそれはひどかったものよ。ご主人様はそんなあたしを見て「かわいいね」としか言わなくって……あら。

 ねぇ、あなた、どうして泣いているの? あたし、なにか嫌なこと言ったかしら?

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