レジスタード・スイーパー

猫町大五

第1話

「残額不足です」

 バタン、と盛大にしまった自動改札が、行方を遮った。

 そのまま素通りしようかとも思ったが、有人改札の真横である。仕方がないので、ラッシュアワーの人混みを逆走し、精算機に急いだ。

 懐を漁ったが、財布がない。仕事の際は余計な物を持たない癖が祟った。財布を余計な物にカウントするかは人によりけりだが、おれには余計なものである。嵩張るし。

 そんなこんなで後続の目線に晒されながらポケットを漁ると、高額硬貨が見つかった。最近新発行された新型で、三連続自販機に弾かれ憤慨し、そのままだったのだと思い出した。たまには良いこともある、と精算機に入れた。






「で、四度目を味わったと」

 駅前から一本入った牛丼屋で、隣の男がカラカラと笑う。

 確かに改札地獄を突破できたのはコイツのおかげで、こうして飯まで奢ってもらっているのだから、感謝するのが筋なのだろうが。

「いやあ、つくづくデジタルが合わんねえ」

「……」

 職場の同期で、養成機関時代からの腐れ縁とは言え、腹が立たないわけではない。

「行為には感謝する。だがお前自身は恨むぞ」

「いいねえ、それでこそ優二だねえ」

「……どうせ、偶然じゃないだろう」

「御名答」

 ニヤニヤ笑いのまま、同期――秀一は続けた。

「仕事帰りに悪いけど、仕事の話」

「上からか」

「そ、面倒事。後輩ちゃんが片付けらんなかったんだってさあ」

「河岸を変えるか」

「そっちの家」

「……道具には許可なく触るなよ」

「もちろんさあ」





 いつからか時代が変わり、国は死の捏造を始めた。

 捏造には人手がいる。それは民間から、特殊な面子から集められた。

 登録清掃者レジスタード・スイーパー。後の世には、そう伝わっている。

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レジスタード・スイーパー 猫町大五 @zack0913

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