エロゲのヒロインはヤンデレ地雷なので、攻略最難関のクールメイドにフラグを立てたいと思います

まちかぜ レオン

第1話 転生先はエロゲ主人公

 享年二十一、前方不注意のトラックに撥ねられたことによる事故死……。


 思い出せる最後の記憶を振り返って、そういう結論に至った。


 死んだはずなのに、記憶は保持されている。おかしな状況である。


 目覚めたのは病院のベッドの上ではなかった。痛みはない。勉強机、ハンガーに掛かっている制服を見るに、おそらく男子高校生の部屋だった。


 身体感覚が明らかに異なっている。身体は別人のものになっていた。


 いったい、どういうことなのだろうか。


 部屋を物色し、鞄の中から顔写真付きの学生証を発見した。


「たかつき、まさなお」


 高月たかつき正直まさなお。エロゲーの主人公の名前だ。枕元にあるスマホをイン・カメラにすると、学生証と同一人物の顔が写った。


 合理的な推論をするなら、一度死んだ後、エロゲーの世界の主人公に転生した。いわゆる「エロゲ転生」をしたことになる。


 交通事故でぽっくり逝ってしまったのは、最悪でしかない。もっと長生きしたかった。それに、残された友人、家族といった人々への申し訳も立たない、


 だけど、祈ったところでくそったれな現実は変わらないだろう。神様が現れ、チート能力を授けてくれる展開にも期待できない。


 ひとまず、転生先と思われるゲームのことについて考えるとしよう。


『ヤンデレ女子とのハーレムライフ!』――通称ヤンハレ。


 文字通りヤンデレなキャラクターを攻略しまくるエロゲーである。攻略といっても、一筋縄ではいかないキャラばかりで、主人公の高月、つまり俺は恋愛に翻弄されることとなる。


 あまりに安直なタイトルだ。だが、その割にはよく売れていた。


 理由は、一歩踏み外せばすぐバッドエンドになってしまう、というルート分岐にあった。とりわけ「全員ハーレムエンド」が至難の業とされた。たとえ攻略情報をフル動員しても、かなりの運要素が絡み、クリア達成者はごくわずかだった。


 そのため、ストーリーの量は膨大になり、当初からかなりのやり込み勢を生み出した。


 ゲーム性は本ゲームの話題を呼ぶ一因となり、ヤンデレ界隈(?)におけるスマッシュヒットとなった。


「めんどくさいキャラばっかだったけど、面白かったよな」


 俺もやり込み勢のひとりだった。ヤンデレなヒロインはかわいかったし、微笑ましかった。


 ただ、それはゲームに限っていえばの話だ。


 フィクションとしてなら、ヤンデレ女子を楽しめる。繊細で面倒くさくて、だけどそれが愛しくてたまらない……みたいな感じ。


 されど、ヤンデレが実際に存在し、コミュニケーションをとる相手になるなら別だ。あまりにも不安定な女の子に、付き合ってはいられないのだ。


 生まれ変わった先が「ヤンハレ」の世界なら、主人公の俺は、ヤンデレたちとの交流に巻き込まれる羽目になるだろう。


「そんなの、まっぴらごめんだろうが」


 地雷原でタップダンスを踊り続けるような真似を、誰がおいそれとやるんだろうか?


 第二の人生、命懸けのハードモードを選択するつもりはない。命は大事だ。ルートの中にハーレムエンドがあるといっても、可能性は低い。


 バッドエンドの中には、ヒロインとの心中ルートもあった。他にも、重傷を負ったり、精神的に参ってしまったり。はたまた、ヒロインの方が完全に壊れてしまうルートもある。死にはしなくても、そういうルートも嫌だ。


 ゲームのように、最初から何度もやり直せる保証はない。


 俺は生粋のギャンブラーではないし、はたまたヤンデレ女子の熱心な信奉者でもはない。


 交通事故に遭ったときの痛みが蘇る。大小問わず怪我は避けたい。


 そうなると、ヒロイン攻略から撤退するのが賢明だろう。


 ヒロインにフラグを立てなければ、ルートが分岐することもない。もしフラグが立ちそうになっても、全力で回避する。


 ……よし、ヤンデレヒロインとの恋愛からは戦略的撤退だ。


「そうしたら、雪城ゆきしろさんかな」


 高月家ではメイドを雇っている。


 雪城ゆきしろ零夏れいかさんは若いメイドだ。年齢は主人公正直の一個上、高校三年生。高月家ではバイトとして働いている。雪城さん自身も学生なので、メイドと言っても、我が家に住み込んでいるなんちゃってメイドだ。


 雪城さんはその美貌ゆえに、「ヤンハレ」ファンの中では密かに人気を博していた。


 それなのに、彼女は攻略対象から外されていた。


 主人公と話すことはあっても、あくまでメイドと主人の関係を逸脱しない。恋愛対象として設定されていなかったのだ。


 雪城さんはヤンデレじゃなさそうだった。ダウナー、クール系。月並みな分類をすると、そのあたりにおさまりそうだ。


 クール系は大賛成。ビバ、クール。欲を言えばクーデレ。


「よし、雪城さんと仲良くなろう」


 決心した。新たな生を得たのなら、欲望に忠実に生きよう。そういう天の思し召しなのだと、自身を納得させる。じゃなきゃ、早逝も割に合わないってもんだろう、と。


 ひとまず、二階からリビングに降りる。腹が減って仕方がなかった。


 一階を散策していると、俺はある女性と出会った。


「おはようございます、正直様」


 うやうやしく、目の前の女性は一礼した。


 すらっと伸びる長身だ。シックな黒と白のメイド服に身をまとっている。


 彼女はゆっくりと顔を上げた。


 クリーム色の、ウェーブのかかったショートカット。


 細く、憂いを帯びた眼。


「雪城、さん」


 目の前にいるのは、雪城さんその人だった。


「なにをジロジロと見つめているのですか。顔にホコリでもついているのでしょうか」 


 ハッとした。あまりの美しさに目を奪われていた。


 芸能人を目の前にしたときと、似たようなものだ。ゲームで見たとき以上に輝いていた。


「……いや、なんでもないんだ」

「意味もないのに私なんかの顔を見られては困ります。あまり愉快ではないので、今後は差し控えてください」


 バサっと切られた。淡々と、無表情で。


 クール系というのは知っていたし、分かっているつもりだった。その前提で話しかけてはいる。


 いまの反応はどうだろう。


 クールを通り越して、ブリザード級だ。


 ……幸先が悪い。


 ヤンデレ攻略というハードモードから逃げた先で待っていたのは、また地獄だった。


 雪城さんの攻略難易度は、現状ベリーハードと言うほかなさそうだ。

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2024年11月25日 12:20
2024年11月25日 18:10

エロゲのヒロインはヤンデレ地雷なので、攻略最難関のクールメイドにフラグを立てたいと思います まちかぜ レオン @machireo26

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