第13話 2024年アニメ映画評12・「私ときどきレッサーパンダ」
コロナのため劇場公開されなかったピクサー作品。厳密には新作ではないが、劇場初公開ということで感想文を書くことにする。コロナで流れた他の二作品も今年劇場公開された。本作の予告は微妙だったが、観てみたら意外と面白かった。7点くらい。
ピクサーなのでCGのクオリティは言うまでもないが、特にレッサーパンダの毛並みが本物みたいにフワフワでよかった。人間は少しフィギュアっぽいが、ピクサーやディズニーのCGはそういう芸風なのであまり気にならない。伝承を語るシーンは凝った絵だったが、手描きなんだろうか?
レッサーパンダ化能力を持った一族の女子中学生・メイリンが、変身能力や過干渉な母親、友人との付き合いにすったもんだする青春映画。話の大枠は多少「物語シリーズ」を彷彿とさせる。当然ながら、レッサーパンダ化は、思春期・反抗期・性徴期のメタファーである。
主人公は昂ったらレッサーパンダに変身してしまうが、その能力は封印しないと暴走すると一族では伝えられている。元々は家族を守るために始祖が身に付けた能力なのだが、そうであるならば、能力が制御できないとする一族の教えは矛盾である。アンコントロールドな能力では身内だけを守ることなどできないからだ。これを踏まえれば、御する方法があるのだろうと簡単に推論できると思うが、登場人物が誰も気づかないのは不思議だった。
こうした血を巡る物語と並行して、親に反対されてアイドル・ライブに行けない主人公らが隠れてお金を稼ぐ物語が進行する。彼女達は、レッサーパンダ化能力を活用した人気商売で資金を得るが、その描写は割とファニー。にしても、ライブに行くためにアイドル的活動をするなんて、ホストに行くために風俗やキャバをするみたいで、何だか現代の闇を感じる。
全体に連続ドラマをまとめたような作品で、多少話がブツ切れなのが瑕疵。他方、ラストの巨大レッサーパンダは少し予想外で面白かった。
話の眼目は家族の再生と娘の主体獲得=巣立ちなのだが、まあ普通のテーマ。それよりも古き伝統の再生という主題が独自性だろう。本作では呪いとされてきたレッサーパンダ化を主人公が幸いに変えており、これは荒魂から和魂への転変に似たものである。禍福の反転は昔話に頻出のモチーフで、貧乏神が福の神になったり、「花咲爺」のように幸福の素が不幸を招き寄せたりする。昔話研究では、隣の爺譚とか二元的対立構造とか言われるものだ。このような民話的モチーフを現代社会に引き付けることで、個性の肯定と温故知新の二重性を持たせた所は巧みだろう。ちなみに祖先の話が、レッサーパンダ化がギフテッドであることの伏線となってる。
他方、アメコミや日本のヒーローものによくある、力の福音と暴走というネタも入っており、大いなる力には責任が伴うだの、「キカイダー」だのといったスーパーヒーローに系譜づけられる側面もある。
また、メイリンら仲良しグループが推しのアイドルを性的に見ている様が描かれているが、少女の性の目覚めを描くのは案外珍しいと思う。少なくとも少女漫画や日本文学にはあまりない。米文ではありふれているのか?
カフカ「変身」は恐らく意識されており、変身モチーフと家族の軋轢を重ねている点が似る。動物変身譚時代は古今東西たくさんあるので珍奇ではないが、変身先がレッサーパンダなのは初めてだろう。各方面からの非難を避けるため、宗教色の薄い動物を選んだのかもしれない。
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