第11話 2024年アニメ映画評10・「FLY!/フライ!」

 イルミネーションの新作。この会社は夏に「怪盗グルー」シリーズを公開予定で、稼働しているなあ、という印象。有名作と言えば、「怪盗グルー」「ミニオン」の他に「ペット」「SING」があるが、この二作は日本だとそれほど跳ねていない気がする。「スーパーマリオ」は大ヒットだったがね。

 通俗に振り切った滑稽作品を作るスタジオで、作品は全般に楽しい。これと比べると、同じ3DCGスタジオのディズニーやピクサーは、何らか重みを作品へ加えていて、ある程度の文学性を感じる。どっちがいいというのではなく、ポジション取り、ニッチの問題である。個人的には筋の娯楽性を担保しつつも複雑で前衛的な作品が好きだが、それはフィクション鑑賞が趣味だから思うことで、誰もがそうではないし、そうある必要もない。

 本作のスコアは7点くらい。映像は前半の雲の中を飛ぶ場面と中盤のダンスシーンが目立って良い。前者の、主人公のマガモ親子が縦横無尽に空を飛び回る爽快感はずば抜けているし、後者の、Destiny's Child「Survivor」に合わせたサルサダンスは躍動的。全体にキレイなCGで、カットも見易い。

 話の主人公はマガモの四人家族で、一家は渡り鳥にも拘らず、父・マックの臆病心から一度も渡りをしたことがない。そんなマックが妻と二人の子供に説得され、叔父を含めた五人でジャマイカを目指すことになる。

 テーマは非常に分かりよく、旅で人生観が変わるという、少し安っぽいものである。ただ、内面的成長を迎えたのは父のマックと長兄・ダックスだけで、母のパムと末娘・グウェンは今まで知らなかった新しい側面が知られるも成長はしない。パムに意外とファンキーな面があることや、グウェンは子供ながら兄を慮れることを示すシーンがあるが、他の描写でも察せられるから驚きは皆無。なるほどね、といった感じ。対して、マックは今まで拒否していた旅に出ることで臆病心と不安症を克服し、ダックスも恐怖に打ち克つ勇気を獲得する。要は男の成長物語なんだろう。

 ウザいくらい旅の価値を説くシーンに溢れているが、何も旅をしなければ人間終り、と言いたいのではなく、新しいものに接し続けなければならないくらいが主題だろう。冒頭でマックは、住まいの池に居続ければ安心と言っていたが、嵐も来るし、地域開発だってあるのだから、その確信はあまりに偏頗と言わざるを得ず、固執することの愚かさが垣間見える。

 だからと言って、死ぬまでの旅=新しさの探究が推奨されるかといえば、そうでもない。果てない旅・探究というのは常人からすれば辛く、どこかで安住の地を手に入れたくなるものなのだ。そういう心情が基底にあるのか、本作の親子も池に戻ることが暗示される。つまり、「Fly!」の物語は、冒険や旅行であって放浪や漂流ではないのである。帰る場所のあることが前提なので、どこか切迫感が弱い。グランド・ツアーみたいなものだ。勿論、危険な目には遭うから、のほほんとしているかと言われれば違うが、それも海外でひどい目に遭ったの亜種と言えなくもない。新しさを求める行為ながら、安全圏に片足を置いた考えが見え隠れする作品なのである。

 他方、本作には自分達が楽園にいると思い込んでいる、食用に飼育されたアヒル達が登場するが、これは管理社会の皮肉めいてて面白い。アヒルのボス・グーグーを始め、鸚鵡のデルロイや鳩のチャンプなど、ややリアリティに欠ける人格ではあるが、面白い端役は多い。

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