第3話 2024年アニメ映画評2・「BLOODY ESCAPE――地獄の逃走劇――」
意外に面白かったのが、この「BLOODY ESCAPE」で、7点くらいの価値はあった。谷口悟朗とポリゴン・ピクチュアズの新作である。「エスタブライフ」という2022年のテレビアニメと世界観を共有する作品で、話に接続性はない。
「エスタブライフ」の方は凡作で、こちらの映画を観た後、全部観たが、何も残らずに散っていった。この作品を観ても分かるが、設定はかなり作りこまれており、その点はよくできたSFなのだが、話がちょっとね。
と悲観的な前振りをした後でアレなのだが、「BLOODY ESCAPE」の方は普通に面白いし、アクションもかなりカッコいい。流石はポリゴン・ピクチュアズ。
話のテーマはテレビシリーズから引き継いだ、自由を求めての戦いで、混沌とも言えるほど多様性のある社会ながら、人は他のコミュニティには行けず、一所に閉じ込められ続ける点が皮肉で面白い。設定は、かなりややこしいが、簡単に言えば、亜人種や超能力、サイボーグなどが科学的に作り出された未来の東京が舞台で、この東京はいくつもの鎖国状態のコミュニティ(作中ではクラスタと言われる)に分割支配されている。
自由を求めて逃走(自由への逃走)する主人公チーム、主人公を殺そうとする吸血鬼クラスタ・不滅騎士団、主人公達を妨害する新宿ヤクザの抗争劇が本作の主眼。主人公サイドと不滅騎士団は敵対しているものの、属性は似通っており、いずれも差別され、虐げられる者達である。対してヤクザは大江戸管理機構という政府に似た存在同様、支配者で、本拠地の新宿では絶対的権威を有する。主流――被差別の枠組みを基本に、それぞれの集団内でも複雑な序列が存在するのが特徴で、個人のドラマと同時に集団のドラマを描こうとしている。
物語は、主人公であるキサラギとルナルゥを中心にスッキリまとまっているが、所々に入る挿話によって社会システムの行き詰まりと複雑さを示している。各陣営の価値観は隔絶しており、陳腐な言い回しを使うなら、善悪は曖昧だ的な話だが、他の誤魔化し的作品と違い、こういう場合は大抵、権力者・権力システムが全て悪いというのをキッチリ押し出している。そこら辺は「コードギアス」味があるかも、ないかも。
作品の悲哀を全て背負った感じがあるのが転法輪とクルスで、前者は自ら固執した秩序によって最後は死を迎え、後者は秩序に抗おうとした結果、その犠牲となって死ぬ。いずれも、システムを維持し、運営しようとした大きな意思に命を奪われており、社会における死因の多くが実は権力によってもたらされることを暗喩しているのである。勿論、現実には自然災害も大きな死因だが、近代社会だと、遺伝性でもない限り、病気の原因の半分くらいは社会構造にあるのだ。
本作およびテレビシリーズには、サイボーグ含め多彩な人種が登場し、国家が崩壊して中世的コミュニティが統治の中核を担っているが、この点はウラジーミル・ソローキン「テルリア」にかなり似ている。もしかしたら参考にしたのかもしれない。ただ、本作には大江戸管理機構という、中央政府に該当する巨大な行政機構が存在しており、こちらは「PSYCHO-PASS」のシビュラに似ている。設定は二作を足し合わせた感じ。
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