第2話 2024年アニメ映画評1・「傷物語――こよみヴァンプ――」
栄えある2024年最初の一本は、西尾維新最長作品となった「物語シリーズ」の劇場版。評点は7点くらい。以前に三部作で劇場公開した「傷物語」の総集編である。この三部作の方がいつまでもサブスクの見放題に来ず、延々とレンタル状態なのだが、これはなぜなのだろうか。
それはさておき、新規カットありまーす、という触れ込みで公開された「こよみヴァンプ」だったが、正直言って、どこが新規カットなのかよく分からなかった。この手の総集編で同じことを毎回思うのだけれど、よほど記憶力がいいか、相当テコ入れしていない限り、新規カットなんて分からないんじゃないか、と思っている。
映像はかっこよく、画面構成にはセンスを感じる。恐怖を煽る演出を評価する人が多いみたいだが、個人的にはエロティックな作画がずば抜けてると思う。色合いもかなりキレイ。一方、アクションはやや単調で、ラストのキスショットVS阿良々木以外は繰り返しが多く、変化に乏しい。また、日常会話で奇天烈な画面構成をするのが「物語シリーズ」の様式だが、当作はちょっとそれが足りなかったかなあ。会話の画面を気だるく感じるところもあったし。まあ、そうは言っても、相対的にはかなりレベルの高い作画である。
編集にちょっと難ありで、筋が所々噛み合っていない。例えば、忍野メメがキスショットの心臓を抉り出した設定が消えているので、坂本真綾がハンターに苦戦した理由が不明瞭になっており、彼女の強さが格落ちとなっている。また、三部作では吸血鬼ハンターについて櫻井孝宏があれこれ説明していたのだが、今回はそれがカットされているので、阿良々木がハンターの信念なり、属性なりを知っている理由が分からなくなっている。
この作品の謎なところは、春樹ばりに都合のいい女が出てくるところで、羽根川が阿良々木に献身的かつ彼を好きなのは、最後まで不明だった。ちなみに、これは三部作からそうなので、総集編固有の瑕疵ではない。原作では何らか説明があった気もするが(吸血鬼となった彼が、ここではないどこかへ連れて行ってくれる気がした、みたいな感じだっけ?)、劇場版はノータッチである。
カットした部分で一番首を傾げるのは、吸血鬼化した阿良々木が羽根川を拒むシーンなのだが、あそこは残した方が良かったのではないか? 羽根川の異常性を際立たせることができるし、結局、阿良々木が心配で彼をつけていたから、最初の決闘場たる夜の学校にいたという説明もつく。
キスショットは阿良々木のことを偽善と言っていたが、別に偽善ではないだろう。少なくとも神谷自身は善意で坂本を助けたのであって、その行動と、彼女が危険な存在になったから殺処分するというのは何ら矛盾しない。第一、助けた段階では、あの吸血鬼がどうなるかなんて分からない。改心というか、人を殺さずに生きていく可能性も残っていたし、阿良々木的には、彼女が人を戮殺するようには見えなかったんだろうし。偽善というより無知・愚昧と言うのなら納得できる。神谷はうわべだけ善人のフリをしたわけではないのだから。その点は、脚本の台詞選びが微妙だなあ、と思った。まあ、原作をそのまま引き写した可能性もあるが、何にしても映像化する前に、チェックすべきだろう。
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