昼休みの闘走劇
@didi3
第1話:幕が上がるドロケイ戦
昼休みの校庭はいつも以上に賑わいを見せていた。遊具で遊ぶ子どもたちやサッカーに熱中する生徒たちの声が入り混じり、グラウンド全体が活気に満ちている。その中央には、ドロケイに参加するクラスメイトたちが集まっていた。
泥棒チームと警察チーム、それぞれに分かれたメンバーが、開始前の空気に高揚感を漂わせている。
泥棒チームの隼人は、仲間たちを集めて作戦を練っていた。彼の周囲には、翔太、拓海、花音、直樹、美咲の5人が真剣な表情で立っている。
「まずは散らばろう。一箇所に固まるのは危険すぎる。」
隼人の静かな声が、周囲の喧騒の中でもはっきりと響く。
「いいけどさ、ただ逃げるだけじゃつまらねえだろ?」
翔太が肩をすくめながらニヤリと笑う。その顔には、自信と余裕が伺える。
「逃げ方一つで勝敗が決まるんだ。油断すればすぐ捕まるぞ。」
その時、拓海が腕を組みながら穏やかな声で口を開いた。
「みんなバラけるなら、それぞれ得意な場所を狙った方がいいんじゃないか?翔太なら一直線のコースが得意だし、俺なら障害物の多いところの方が動きやすい。」
美咲は少し考え込みながら静かに言った。
「……私、木の陰とか茂みにいれば、たぶん見つからないと思う。」
その控えめな声に、隼人が頷いた。
「それでいい。見つからなければ捕まらない。それが一番だ。」
「だろ?それぞれの動きに合った場所で、警察をうまく引っ張ってやれば、逃げる時間も稼げる。」
拓海の言葉に、翔太がニヤリと笑う。
「それなら俺は、わざと目立つ場所で走るかな。そっちの方が警察が来そうだし。」
「そんな作戦、すぐ捕まるに決まってるでしょ。」
花音が呆れたように言うが、その顔にはわずかに笑みが浮かんでいた。
「まあ、捕まったとしても俺が牢屋で盛り上げ役になるから安心しろよ。」
直樹が冗談めかして言うと、花音が呆れた顔をしながら小声で突っ込む。
「そんなこと言ってる人が真っ先に捕まるのよね……。」
「え、そういうフラグやめて?」
直樹の言葉に、花音が小さく笑みを浮かべた。
一方、警察チームの大地は、泥棒チームのリーダーである隼人をじっと見つめていた。
「やっぱり、隼人だな。」
彼の言葉に隣の奈々美が首を傾げる。
「そんなに気にしてるの?隼人のこと。」
大地は少し苦笑いしながら答えた。
「気にしてるっていうか、あいつには借りがある。」
それは運動会のリレーのことだった。隼人のチームは特別速いわけではなかったが、彼の考えた綿密な作戦が見事にハマり、大地のチームは優勝を逃したのだ。
「直接手を出されたわけじゃないけど、隼人のチームの作戦にしてやられた。それが今でも悔しいんだよ。」
その言葉には、隼人に対する敬意とライバル心が入り混じっていた。
「じゃあ、その悔しさをここで晴らすってこと?」
奈々美が少し微笑みながら言うと、大地は目を細め、不敵な笑みを浮かべた。
「当然だろう。今回こそは俺が勝つ。」
全員がグラウンド中央に集まり、警察チームと泥棒チームが向かい合う。それぞれが緊張感を抱えながら、開始の合図を待っていた。
「さて、そろそろ始めるか。」
警察チームのリーダー、大地が堂々と腕を組みながら口を開いた。その表情には自信と闘志が宿っている。
「ルールは簡単だ。俺たち警察チームが全員捕まえたら勝ち。泥棒チームは、誰かが最後まで逃げ切れば勝ちだ!」
その言葉に、泥棒チームの方から軽いヤジが飛ぶ。
「そんなの簡単だ!逃げ切ってやるよ!」
「牢屋なんか行くわけないし!」
「ふふ、どうかしらね?」
警察チームの奈々美が小さく笑いながら呟く。彼女は冷静な目で泥棒チームを見渡し、どこか余裕を漂わせている。
「準備はいいか?」
大地が声を上げると、泥棒チームの隼人が一歩前に出て、大地を見据えた。
「いつでもどうぞ。」
短い言葉だったが、その目には冷静な闘志が宿っている。
互いに視線を交わし、火花が散るような瞬間だった。
「始め!」
その声とともに、一斉に駆け出した。
昼休みの校庭にドロケイの緊張感が一気に広がり、ゲームが幕を開けた――。
全員が一斉に散らばる中、隼人は校庭の隅にある茂みに身を潜め、警察チームの動きを見ていた。遠くで直樹が走る姿が目に入る。その後ろには、大地が猛スピードで迫っていた。
「いきなりかよ!」
直樹が必死に逃げながら叫ぶが、大地との距離は徐々に縮まっていく。
(逃げ方が単調すぎる……あのままじゃ捕まる。)
隼人は冷静に状況を見極めていたが、直樹がすぐに大地に追いつかれるのを止める術はなかった。
「捕まえた。」
大地が直樹の肩に手を置き、牢屋へと連れて行く。その声が静かにグラウンドに響く。
直樹が捕まった直後、隼人は別の場所に隠れている花音の姿を見つけた。彼女は茂みの陰に身を潜めていたが、その様子を奈々美に察知されていた。
奈々美が静かに近づき、花音の背後から声をかける。
「見つけた。」
驚いて飛び出した花音だったが、奈々美は冷静にその手を伸ばし、彼女を捕まえた。
「捕まえた。」
牢屋には、直樹と花音の2人が並んで座ることになった。ゲーム開始わずか5分での出来事だった。
牢屋の中、捕まった直樹と花音が座り込んでいた。鉄製の柵越しに外の様子をうかがいながら、直樹がため息をつく。
「まさか、こんなに早く捕まるとはな……俺、もっと活躍する予定だったんだけど。」
肩をすくめながら呟く直樹に、花音がじっとした目で言い返す。
「それなら、最初からもっと頑張れば?」
「いやいや、俺だって頑張ったんだって!大地が速すぎるんだよ。あれ反則だろ。」
直樹が軽く笑いながら言うが、花音はため息混じりに答える。
「そんな言い訳してるうちに、隼人たちはちゃんと作戦考えてるよ。」
少し沈黙が流れる。外では警察チームの足音が近づいたり遠ざかったりしていた。
「……でもさ、あいつらが助けに来るまで、私たちここで大人しくしてればいいんでしょ?」
花音が少し前向きな声で言うと、直樹が眉を上げる。
「いやいや、違うだろ!牢屋にいる俺たちの役目は雰囲気を盛り上げることだ!」
「何それ……?」
花音が呆れた顔をするが、直樹は柵の向こうに向かって声を張り上げた。
「おーい!隼人!翔太!早く来てくれー!俺たちもう限界だー!」
わざと大げさな声で叫ぶ直樹を見て、花音は思わずクスリと笑う。
「もう、ちょっと静かにしてよ……バレたらどうするの。」
その瞬間、外から誰かの足音が近づいてくる。2人は思わず息を潜めた。
「来たか……?」
直樹が期待するような目で言うが、柵越しに見えたのは、見回りに来た奈々美だった。
「静かにしてるかと思えば、ずいぶん騒がしいのね。」
奈々美が冷たい目を向ける。直樹と花音は目を見合わせて、慌てて黙り込んだ。
奈々美が立ち去ると、直樹が小声で呟く。
「……あの人、鬼すぎない?」
花音が静かに答える。
「だから捕まらないようにって言ったでしょ。」
牢屋の中には、ほんの少しだけ緊張が緩んだ空気が流れていた。
直樹と花音が捕まった後、隼人は茂みに身を潜めたまま警察チームの動きを分析していた。そんな中、翔太と拓海が自然に彼の元へと集まってきた。
「おい隼人、どうするんだよ。もう2人も捕まっちまったぞ。」
翔太が困ったように言う。拓海も腕を組みながら険しい顔をしていた。
「作戦を聞かせてくれ。ここからどうやって逆転するつもりだ?」
隼人は一瞬だけ視線を2人に向けたが、すぐに牢屋の方向に目を戻した。
「奴らを分断する。それ以外に方法はない。」
冷静にそう言い切る隼人だったが、隣の拓海はその言葉を遮るように口を開いた。
「分断だ?そんなこと言ってる間に、あいつらは牢屋でじっとしてるんだぞ!」
「待て、拓海。」
隼人が冷静な声で制止しようとするが、拓海は彼を振り払うように言葉を続けた。
「俺が行く。仲間が捕まってるのに、じっとしてられるわけがない!」
翔太が止めようとするも……
拓海が牢屋の方向に走り出そうとする。翔太が慌ててその腕を掴んだ。
「おい拓海、落ち着け!隼人が考えてるんだから!」
「翔太、俺のことはいいから黙ってろ!」
拓海は腕を振り払うと、牢屋に向かって全力で走り出した。
「……行くな!」
隼人が短く叫んだが、その声は届かなかった。
拓海が走り出す姿に、大地がすぐ気づいた。
「無駄な動きだな。」
大地はすぐに彼を追い始める。その動きは鋭く、無駄がなかった。
拓海は全力で走りながら進路を変えようとしたが、大地にその意図を読まれていた。
「捕まえた。」
大地の手が拓海の肩を掴み、牢屋行きが決まる。
残された隼人と翔太。翔太が苦い表情を浮かべながら隼人に問いかけた。
「おい隼人……これからどうする?もう3人も捕まっちまったぞ。」
隼人は黙ったまま目を閉じ、深く息を吸い込む。そして低い声で言った。
「俺に考えがある。」
その言葉に、翔太は小さく頷いた。2人の間に緊張感が漂う。
次回予告:
隼人の策は警察チームを出し抜けるのか?孤立した泥棒チームの反撃が始まる――!
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