真夜中の来訪者

朱田空央

真夜中の来訪者

 夜の23時。正樹は自室に帰る。

 コンビニで買った酒とつまみを机の上に置き、ニュースを呆然と見ている。

 樫原正樹。27歳。1DKのアパート暮らしのサラリーマン。彼女いない歴=年齢。

 床に座り、怒鳴られたことを反芻する。

 ガチャ。一つの音。ドアノブを動かす音だ。

「?」

 ガチャ……ガチャ……ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。

「な、なんだなんだ!?」

 最初は借金の取り立てかと正樹は思った。しかし、声もなく、異様な雰囲気ばかりが漂う。

 ドアスコープを覗くと、コートを着た髪の長い女が一人、張り裂けんばかりの笑顔のまま無言でドアノブを動かしている。

「ひ、ひぃぃぃぃ!」

 ガチャン! 鍵を閉めていたはずの扉は開き、女が中に入ってくる。

 正樹は腰が抜けたまま、動けなかった。その女は、正樹の手を取ると、そのままふっと消えた。


 その後、正樹の行方を知るものは誰もいない。

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真夜中の来訪者 朱田空央 @sorao_akada

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