帰らなかった老婆についての聞き取り調査

 【虎元による永野夫婦への聞き取り調査】



 小野さん?ああ、お話しましたよ。


 怪談師さんですよね。


 確かに変な出来事ですけど、怪談になるのかなぁ、なんて不思議に思ってました。


 別に霊が出る訳でもないですからね。

 

 そうそう、母がいなくなった話ですよね。

 ええ、今もまだ探してますよ。


 結局小野さんにお伝えした以上のことは分からず仕舞いです。


 スーツの男なんかいくらでもいますからね。


 最近思うんです。あのスーツの男と一緒にいたの、本当にうちの母だったのかなって。だっておかしいじゃないですか。うちの母を連れて行ったところで何の得もないですよ。


 まあ身代金でも要求されてりゃ別ですけど。そんな連絡もないし。ましてやうちなんてボロ屋の仮住まいですよ。どう考えても誘拐しようなんて思わないですよ。


 ええ、母が失踪してから変わったことですか?

 あるにはありますよ。


 母が失踪して少し経ったぐらいですね。

 自宅が空き巣に入られましてね。


 まあ、さっき言ったとおりうちは貧乏ですからね。当然家には金目のものなんて何も置いてないですから。


 せいぜい家の中を荒らされて終わりですよ。


 片付けは大変でしたけどね。


 え?写真ですか?


 ああ、母が何処からか持ってきたって、小野さんにも話したあれですか。


 まだありますよ。


 母はね、だいぶ痴呆が進んでまして。


 なんでこんなところに隠すんだってところに閉まっていました。


 仏壇と畳の隙間ですよ。


 写真をそんなところに仕舞うなんてねえ。


 何となく、バチが当たりそうですけどねえ。


 え、その写真ですか?


 ええ、小野さんにも見てもらいましたよ。

 気にかけてくれてましたよ。


 写真を食い入るように見てましたけど。

 何か心当たりがあったんですかね。


 分かったことがあれば連絡くれるって言ってましたけど、何か分かったのかなぁ。


 え?小野さん亡くなったんですか?


 そうですか…残念ですね。

 

 えっ、自殺されたんですか?信じられないですね。だって、私と話してたときの小野さん、すごく熱心に何かを調べてましたよ。


 とても自分から命をたつ人には見えなかったですよ。まあ、他人のことなんて知った気になってるだけかもしれないですよね。僕も母のこと、ちゃんと分かってたかって言うと怪しいですし。


 今頃、どこで何してるんだろうなぁ。


 え?おんばい様ですか?

 ああ、母が言ってたやつですね。


 それが分からないんです。


 なんなんですかね。ボケてるんだから何でもありっちゃありですけど。

 

 群馬ですか?


 ええ、確かに母は赤城山の近くに住んでました。


 それが何か関係あるのですかね。

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