Chapter 2
SCENE:1 『RE:QUEST』
「なるほどなぁ、なかなか大層な物語だなぁ」
【イヴ】の持っていた【エデンズ・ブック】の[PROLOGUE]と書かれた頁に目を通した。
その後の【イヴ】の言動が支離滅裂になりかけたので、落ち着くまでに差し出された本:【エデンズ・ブック】を見ていたのだった……が、彼女の[自己紹介文]と[PROLOGUE]。
【森】、【始まりの地】、【最初の村】、【オオヤマイヌの洞窟】のマップ情報。
僅かしか描かれていない【アイテム・装備品】と【スキルサイン】の項目。
この程度でしか描かれていなかった。
緑色で柔らかい素材のハードカバーで飾られて表紙に【EDEN's BOOK】と金色の刻印がされたこの本には
この世界の全てが描かれている……らしいが、本の厚さに反してほぼ真っ白であった。
「それで……あの……この続きは?」
おそるおそる【イヴ】に言うと
『すみません……。これで終わりです』
ほわほわとした雰囲気はどこへ行ったのやら、今はまるで淡々としたAIのような雰囲気に変わっていた。
返してくれ。と言わんばかりに本に向かって手を伸ばす。
余りある急転直下の態度の変化についていけず、黙って本を返すことにした。
『この世界の創造主様は創造することを辞め、二度と帰ってくることはありませんでした。その【エデンズ・ブック】という本はただのアイテムではありません。これは創造主のみに持つことを許される【エデンズ・ブック】の[マスター権限]です』
【イヴ】はゆっくりとその本を自分に差し出した。
『【アダムズ】様。どうかこの世界を創造し、そして……』
『世界を終わりに導いてください』
淡々としゃべっている【イヴ】は出会って一番悲しそう表情を浮かべた。
『私はこの本を持っていながら、自分では何一つ創造することができませんでした。私の願いは自分自身では叶えられず……ただ無力でした』
そういって彼女は力なく項垂れるしかなかった。
『お願いします、【アダムズ】様。この本を手に取ってください』
懇願する【イヴ】に差し出されるその本を。
「無理だ、【イヴ】。俺にはできない」
俺はどうしても手に取ることができなかった。
しかし今更。そう今更だ。
夢も努力も何もかもから目を背けた情景が微かに目に映る。
逃げてばっかりの人生だった俺に……。
『もし』
ハッと意識が戻る。
今何か妙な景色が見えていたような気がした。
『貴方様がこの本をとってくだされば、貴方の記憶を戻し、元の世界に帰れるお手伝いをして差し上げることもできます』
「なんだって? それに今のは?」
『今お見せしたのは、貴方を発見した際に僅かばかりに残っていた《データ粒子》です。それをお返しただけです』
「どういうことだ?」
『貴方様はご理解できないかもしれないですが、貴方様は身体が砂の様にボロボロに崩れながら、この世界に落ちてきたのです。
私が貴方に接触できる距離まで近寄った時には既に身体の構築はおろか、片手に積もる程度の粒子しか残っておらず、完全に霧散する前に僅かな《データ粒子》をすくい上げて【アダム】の身体に刷り込んだのです。
私も賭けでしたが、貴方は目を覚まし、身体に違和感を感じながらでも身体を動かすことに成功しました。後はあなたも知っての通りですね』
「ふむ…」
『そして先ほどの映像は、もし刷り込みが失敗したときの為に残していたデータ粒子を貴方様にお返しした。という訳です。
すると貴方様には別の何かが見えていた……とするならば、世界に散らばった貴方の《データ粒子》はこの世界を創造するにあたり、貴方を再生する手段にもなる……という事なのかもしれないです』
「そうでないと俺も帰れないし記憶も戻らない。……【イヴ】はどうしてそんなに協力してくれるんだ?」
『私の願いは……この世界のどこかで彷徨っている兄に会いたいだけなのです。私一人で何もできなかったから。その為に貴方様にご協力いただけなければ……何も手立てがないまま……ずっと、このまま……』
今にも泣いてしまいそうな彼女の表情を見てこれ以上は可哀想だと感じた。
「……わかったよ」
俺は【イヴ】の抱えている【エデンズ・ブック】に手をかけた
『承諾していただけるのですか?』
「ああ、《創造クエスト》。やれるとこまで……やってみるさ!」
『ッ!! それではマスター権限を【アダムズ】に譲与します。どうか』
【イヴ】は安堵の表情を浮かべ。
『よろしく願い致します』
【エデンズ・ブック】を手放した。
そして【エデンズ・ブック】が彼女の手を離れた瞬間…………。
「ん?」
何も起こらなかった。
「何かこういうときって光ったり、世界がグワーンってなったりするもんじゃないの?」
『え?』
「あー……いやちょっと。演出効果に期待してたって言うか」
『ただ、権限をお渡ししただけですので特に演出効果とかは用意して無かったといいますか……あの、ごめんなさい』
「いや、いいんだ。こっちもただ勝手に期待しただけだしな」
ただ勘違いしただけの気まずい空気が流れた。
SCENE:1 『RE:QUEST』 END...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます