第23話
雨花「可愛いねぇ〜♡」
???「…………」
雨花が話しかけているのは、雨花のペットであり、相棒の「小雨丸」である。今回のお話は相棒小雨丸による「小雨丸奮闘記」である。
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小雨丸は想う。
雨公(あめこう)【雨花】は、優しい。橙公(だいこう)【橙】にも桃公(ももこう)【桃時】にも兎公(うさこう)【兎白】にも瑠璃公(るりこう)【瑠璃人】にも。
だが吾輩は、知っている。
雨公は弱い。とても弱い。吾輩が言っているのは、決して神通力や妖術、体力面の話をしている訳じゃない。もっと深い部分の話だ。雨公は、吾輩にしかみせない部分がある。
橙公にも桃公にも兎公にも瑠璃公にも……吾輩以外にはみせないそんな部分が。
雨公の部屋は、まるで拷問部屋だ。そこら中に打ち込み台や壊れた武器やら傘やら色んなものが置いてある。そして何より……
部屋中に「わたしはクズすぎるクズ」という自責の念がたっぷり詰まった紙が貼ってある。雨公はこれを貼っている時、そしてこの部屋にいる時、目をキラキラさせて、まるで遊園地に来て遊んでいる子供のような目をしている。自分を責め続けているのに、どうしてそんなに目になるのだ。雨公。
…………雨公は、今幸せなのか……?
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雨花「小雨丸〜餌買ってきたよ!食べようね!」
雨公は、やっぱり優しい。誰に対しても優しく接する。接しようとしている。
雨公曰く、
「これ以上クズになりたくないから」だそうだ。
雨公は、馬鹿だ。
こんなにも周りの者に大切に想われているのに。
それを自覚しているのか。
きっと自覚はしているのだろう。
雨公は、人の心の機微に敏感だから、自分への好意にもきっと気づいている。気づいている上で、雨公は、自分を責めている。
責めることで自分に罰を与えている。前に言っていた。自戒は、自分が後々楽になるだけのほんの少し自分がマシなやつになれてると馬鹿すぎる勘違いするだけの自己満足に過ぎない。と、
本来なら罰を与えられて楽になるのも許されない。クズになることすら自分はおこがましい。
でも何もしなくても罪が変わらないならほんの少しでも痛みを与えた方が良い。そう想っている。
でも懲罰を与える者がいないなら自分でやるしかない。雨公はそう想って自分に罰を下し続けている。
それが義務かのように。
きっと自分が罰を下されてるときだけは、ほんの少しだけ自分を蝕むものから解放されているのかもしれない。だからあんなに目が輝いてるのだろう。
雨公に一体どんな過去があったのか分からない。しかし……
雨花「橙ちゃん!桃時ちゃんと一緒にお茶会しよ!」
橙「お茶会ですか……でも私は……」
雨花「大丈夫だよ。クッキーとビスケットとストロベリーティーだけだから!」
橙「!、雨花さん……ありがとうございます」
雨花「そんなそんな!大丈夫だよ!橙ちゃんを独りにさせたくないだけ!ほら行こ!」
こんなに橙公を想ってくれてる事実。
桃時「今日から力を確認しにいかなかちゃいけないのよ……その時、ズボンを履く羽目になるのよ……はぁ……」
雨花「じゃあスカーチョっていう服着るのはどう?」
桃時「スカーチョ?」
雨花「そうそう!スカートみたいなガウチョパンツこと!これなら見た目がスカートみたいで可愛いよ!……どうかな?」
桃時「そうね……!着てみるわ。ありがと」
こんなに桃公のことを想ってくれてる事実。
兎白「雨花ありがとな。桃時へのプレゼント選んでくれて」
雨花「いえいえ!桃時ちゃん喜んでくれると良いね!」
こんなに兎公を想ってくれてる事実。
雨花「どうしたの?瑠璃くん?」
瑠璃人「また橙のこと怒らせちまった……」
雨花「瑠璃くんは好きになればなるほど好きって気持ちを人に対して伝えにくいけど、それでも瑠璃くんなりに伝えようと頑張ったんだよね。少なくともわたしはそう想う。だから一緒にどうやったら好意を瑠璃くんなりに伝えられるのか考えよ?」
こんなに瑠璃公のことを想ってくれてる事実。
雨花「可愛いなぁ小雨ま〜る♡」
こんなに吾輩を想ってくれてる事実。
こんなにもお主は、人に優しくてしているではないか。
例えお主が性根の腐った行いをしたとしても、"今"のお主はとても優しいではないか。
お主は、前に橙に言ったのだろう?
《人生のどん底まで落ちて、ぐちゃぐちゃになって、そうしないと分からない気持ちだってあるよ。そういう気持ちの分かり方や気づき方があった方が良いと想う。その方がもっと相手や自分の気持ちを大切にできると想うから。だから人を傷つけても、それは絶対無駄じゃない。無駄になんてしないって生きていけば、その先で出逢える人の事を想いやれると想うよ。》
この言葉は、嘘なのか?嘘じゃないならその言葉を自分にも向けろ。どうしてお主は、そこまで自分を責める?責め続ける?
もう充分苦しんだだろう?だからお主は自分の意思であの世に来ようと想ったのではないのか?
…………こんなことを吾輩はずっと考えている。考え続けている。
いつか雨公たちに雨公やこんなに暖かい者たちと一緒にいれるこの恩を返してみたい。
そしたら……
その時こそ……本当に……
自分を……許せていたらいいな。雨公。
そのためにも吾輩は、ご飯を沢山食べ、雨公の分けてくれた神通力と妖術を使いこなし、雨公の心を守るのだ!
ガチャガチャ
おっと、帰ってきたか。
では、吾輩の話はこの辺で。
こうして「小雨丸奮闘記」はひとまず幕を下ろした。
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