異世界ファンタジーはレッドオーシャンなのか?

雨宮 徹

異世界ファンタジーはレッドオーシャンなのか?

 異世界ファンタジーはレッドオーシャンと言われつつも、なぜ新作が増えるのか。それについての考察です。



 異世界ファンタジーといえば、(大抵)事故死で異世界に転生し、無双するかスローライフを送る、これがテンプレかと思います。テンプレ作品が多いのに、なぜ異世界ファンタジーは増え続けるのでしょうか。



 そもそも、異世界ファンタジーとは何か。日本ではないどこかでのファンタジーです。ですから、通貨は「円」で……といった概念は通用しません。衣食住のほか、生活習慣なども作り上げる必要があります。これは非常に労力のかかる作業です。世界設定だけで、何か月かかるか分かりません。ですが、「カクヨム」や「小説家になろう」などの小説投稿サイトでは異世界ファンタジーが日々投稿され、ランキングを席巻しています。なぜか。世界設定を考える必要がないからです。



 さっき書いたことと矛盾していますね。この矛盾は、異世界ファンタジーで世界設定が大変だった時代が過ぎ去ったからです。以前は「ゴブリン」というモンスターを書くにも「身長はどれくらいで、どういった生活をしていて……」と、一から説明する必要がありました。しかし、今では「ゴブリン」と書けば、「背丈はこれくらいで、こんなところで生活している」という共通認識があります。ですから、世界設定に時間をかける必要がなくなりました。これは一種の記号化です。「ツンデレ」と書けば、キャラクターの性格が分かるのと似ています。これは、ストーリー展開にも同じことが言えます。



 異世界ファンタジーのストーリーで多いのは「追放もの」「最弱スキルが実は最強だった」でしょう。これらがテンプレになっており、読者の中で共通認識になっています。世界設定もストーリー展開もテンプレがあり、共通認識がある。ですから、異世界ファンタジーは書きやすい。ワンアイデアあれば十分ですから。もちろん、設定がきっちりと作りこまれている作品もあることは言うまでもありません。



 異世界ファンタジーが書きやすい理由は伝わったかと思います。では、なぜ新作が増え続けるのか。書きやすい、かつ、誰もが憧れの世界だからです。しかし、これだけではありません。



 まず、異世界ファンタジーはパイ、つまり市場規模が大きいです。これもあり、書籍化作品は異世界ファンタジーが多いです。書籍化という夢のみを追うのなら、一番近道かもしれません。もう一つ。それはコスパがいいからです。書籍化まではいかなくても、小説投稿サイトでヒットするにはワンアイデアあれば十分です。では、もしヒットしなければ? 簡単です。すぐに打ち切りにすれば済みます。労力がかからないので、手痛くありません。しかし、どちらの考えも「書籍化」や「承認欲求を満たす」ことに自分の魂を売ることと同じです。私はこの流れに警鐘を鳴らします。



 まず、「小説を書きたい」という純粋な感情はどこにいったのでしょうか。誰しも、自分の「好き」を表現する方法として「執筆」という考えにたどり着いたはずです。その上で、より多くの人に読まれればラッキーなのです。小説投稿サイトが台頭し、誰もが小説を書きやすくなりました。いい時代になったという一方で、上記の理由から量産作品が増えていくのです。



 出版社側にも罪があります。テンプレ作品の中からいいものを選んで書籍化すればいいのです。大ヒットすればウハウハですし、書籍が売れなくても打ち切りにすれば済みます。もちろん、ボランティアではなく利益を求めるのですから、当たり前ではあります。しかし、出版社のこういった姿勢が続く限り、量産作品が増えていくのです。このループが続けば、ラノベ界から、その他のジャンルの作家が姿を消します。これは出版社にとって大きな痛手ではないでしょうか。名作を知らず知らずのうちに潰してしまうのですから。



 私は作者と出版社の双方から、この流れを断ち切って欲しいです。そうしなければ、ラノベ界隈は衰退する一方です。いえ、もう衰退し始めていると考えます。書籍化されたラノベの規模は年々縮小しているのですから。

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異世界ファンタジーはレッドオーシャンなのか? 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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