第22話道中にて
以下に修正した内容をまとめました。誤字脱字を修正し、文章の流れを自然にしています。
「さて、この二人どうするか」
この王都で暗躍している犯罪組織と思われるものを一つ潰して満足したエルピスは、ジメジメとした地下の空間で頭を悩ませていた。奴隷を解放したはいいものの、その後の対応を何も考えていなかったので、今回の事情を誰に説明するものかが今のエルピスにとって最も大きな課題である。最も楽なのは家族に何とかしてもらうことだろう。家に頼めば後々の処理はうまいことやってくれるだろうという確信があるし、実際父に「問題ごとを起こすよ」という意図で事情は説明したつもりなので頼るのは悪くないはずだ。ただ、本来想定していたよりも少しだけ王都内を暴れまわってしまったので、大々的に家の名前を出して解決してもらうのもどうかといったものだ。
(そういえば、他のアジトの奴隷の人たちは大丈夫かな)
エルピスをアジトに案内した奴隷商や捕まっていた奴隷たちにはそれぞれ魔力のマーカーを設置したうえで、一部屋サイズの結界の中に囲っているので、口封じに殺されるなどの大きな問題は発生しないはずだ。ただ、知らないところでほっぽりだしているのでそちらの対応もしなければならないし、やらないといけないことが多すぎて目が回りそうになる。ひとまず、一番最初にやらなければいけないのは今回のことについて一番知っていそうな夫人を出頭させることだろう。
「とりあえずこの人運ぶか」
「――よう坊主。こんなところで何してるんだ?」
「今日は本当に会う人が多いですね。誰ですか?」
夫人を抱え上げようとした途端、唯一の出入り口である階段から一人の男が入ってきた。エルピスは近くに倒れていた獣人を抱え、夫人を投げとばして部屋の隅に逃げる。なぜそこまで警戒心を見せたのかといえば、単純に目の前の男が自分よりも強いと判断したからである。初見で命の危険を感じたのは、両親と対峙した時以来か。金髪に金色の目、端正な顔立ちこそしているが、この国ではそれほど珍しくもない見た目だ。強いて特徴を挙げるのであれば驚くほど目つきが鋭いことと、どことなく見たことがある気がする程度のものだ。夫人ではなく獣人を抱えて逃げたのは、先程夫人が口にしていた組織とやらが関係しているのであれば、夫人だけを回収するか最悪殺すなりして去ってくれることを期待してのことだ。
「アルキゴスだ。知ってるか? 俺の名前」
「すいませんが知りませんね。田舎の出なので王都の有名人には詳しくないんですよ」
「そうか。俺と一戦やってみるか?」
不意に全身からほとばしる威圧感を前にして、エルピスは
「――冗談だ、冗談。せっかくお前がこいつらを捕えてくれたのに、俺らが戦ったらここら辺が大変なことになるだろ」
両手を上に掲げ、笑顔を見せながら拍子抜けするほど態度が軟化するアルキゴスを前にして、それでもエルピスは警戒を緩めない。
「いい加減警戒するのやめろよ」
「母さんからそうやって騙してくる大人がこの世の中にはたくさんいるって教えられてるので」
「クリムさんの教えだろ。お前の親父に頼まれてここに来たんだよ俺は。最悪暴れてたら止めてやってくれって言われてな」
「嘘ではなさそうですね。どうしてここが?」
いきなり両親の名前が飛び出してきたのもそうだが、エルピスには目の前の人物について少しだけではあるが両親から聞いた覚えがあった。完全に警戒を解くには至らないが、多少心を開く程度ならばしても良さそうである。そうなると次に疑問になるのはどうやってここを割り出したというのか。王国が奴隷商人たちを黙認していなかったとすれば、エルピスの座標を追いかけてここに来たことになる。だが、エルピス本人としては常に周囲を警戒して追っ手もいなかったと断言できた。
「お前んとこの召使たちからのタレコミだよ。身内にしか分からない魔力の残滓を落としていく癖があるらしいな?」
「初耳なんですけどそれ本当に言ってました?」
そんな変な癖をつけた覚えはない。もし無意識のうちにやっていたのであれば、それはそれで恥ずかしいので早く言って欲しかったものだ。一体誰がそんなことを言っていたというのか。
「やたら元気な森妖種の姉ちゃんと強そうな悪魔のセットがギャアギャア騒ぎながら教えてくれたぞ。万が一何かあったらどうすんだって騒いで五月蝿いのなんの」
「……お手数おかけします」
「まぁそれは別に良い。さて、これからはイロアスの友人ではなく王国騎士団団長としての言だ。エルピス・アルヘオ、今回の働き大変大義であった。国王もこの活躍を喜んでいる。当初の予定通り、俺と共に王城に来てもらおう」
「喜んで」
少し遠回りにはなってしまったが、これで最初の目標を達成することはできた。事件の後処理を投げてしまう形にはなったが、こうしてエルピスは王城に向かうのであった。
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