第11話 誕生日

 今日はエルピスの五歳の誕生日。


 朝から飾り付けや料理などの様々な作業でかなりの人数が右往左往しているため、屋敷の中が普段と比べて随分と慌ただしい。

 使用人達も今日は総がかりでエルピスの誕生日の準備を手伝っている。


 様々な種族がいるだけあって多種多様な文化の飾り付けや準備も有るので、その間だけは特別にエルピスは外出許可を貰っていた。

 この世界での成人は十歳なので、今日で五歳になるエルピスは年齢的に半分大人であり外出も多少は大丈夫らしい。


 フィトゥスやリリィ、ヘリアなどは絶対に付いてくると思っていたが、『エルピス様が自立する為には、私達が居てはダメなのです!』と涙を流しながら言われたので来ないらしい。


(もう自立してるんだから別に着いてきてもいいと思うんだけど)


 寂しいわけではないが、いつも居る人達が居ないのには物足りなさを感じる。

 だが専属のメイドは付いてくるようだ。


 メイドの名前はエラ。

 昔とある事件で住んで居た村が壊滅したらしく、身寄りも無くなったので、うちに泊まり込みでーーとは言っても大半が泊まり込みで家に帰る人の方が珍しいのだがーー仕事をしてくれている。


 なんでもうちの両親がその事件を解決したから、その御礼も兼ねているといつかエラ本人から聞いた。

 こうしてエラが同行した場合は外出して良いと許可をもらったのだが、どこに行くかも考えて居なかったので行く場所がない。


 森に行っても良いのだが、普段から行っている場所にこういう日に行くと言うのもなんだか味気が無いだろう。

 そんな事もあってこれからどうしようかと頭を悩ませて居ると、お父さんから近くに街がある事を教えてもらい、更にお小遣いを貰ったので、今は近くにあるらしい街に向かっている。


「ーーエルピス様、危ないですよそんなに乗り出したら」


「ごめんごめん」

 

 初めて乗る馬車と親公認で外出が出来る事も有り、小窓から顔を出したり馬車の中を見て回ったりしていたら、優しく、それでいて有無を言わせない口調でエラに注意された。


 馬車の周りを囲むように馬で走ってる護衛の人達も、エルピスがいつ落ちるものかとヒヤヒヤした顔でこちらを見ている。

 まぁ馬車から落ちた程度ではいまのエルピスなら怪我などしないとは思うが、心配させるのも悪いので素直に体を引っ込める。


「そもそもエルピス様は、ご自身のお身体をもう少し丁寧に扱うべきです。フィトゥス兄様やリリィ姉様が許しても、私は許しませんからね」


 怒ったような顔をしてエルピスに対してそう言うエラは、だがエルピスから見ればまだまだ小さい子供だ。

 実際年齢的に言うのならばエラの方が年齢は上だが、精神年齢で数えるならエルピスの方が上だ。


 エラがエルピスに対して不安を抱くのと同じように、エルピスがエラに対して不安を抱いてしまうのは仕方のない事だろう。


「分かったからそんな怖い顔しないでよ。そう言えば街まではあとどれくらいなの?」


 まだそれ程家から出て時間は経っていないのだが、初めての外出という事もありこの馬車の速度がどの程度なのかも正確に理解できていないので、どうしても気になってしまう。

 地図などで距離は確認したのだが、こちらの地図は正直に言って酷いものだった。


 そもそもの話地図など子供が持つもので、大人ならば土地勘で適当に移動したり#技能__スキル__#などで如何様にも出来るので、地図という概念自体がそれほど普及していないと言うのもある。

 だが地図がどこでも見れる環境で生活してきたエルピスに、それで移動しろというのは少々厳しいものがあるのも事実だ。


「そうですね…距離にすればまだかなり有りますよ」


「走った方が早くない? 馬は護衛の人に連れてってもらって走っていこうよ」


 全力で走ればかなりの速度にはなるし、持久力でいっても馬よりエルピスの方がある。

 龍と人の子という規格外だからこそ出来ることではあるが、そちらの方が早いならエルピスとしてはそちらの方がいい。


「ダメです、そもそも馬で移動しているのには、しっかりとした理由があるんですよ? 例えばエルピス様のことを守りやすいだとかーー」


 エラがエルピスに対して馬車移動での利点を説明している間に、エルピスの〈気配察知〉の索敵範囲内に数十人程の反応が出た。

 明らかに殺気立っており、偶然通りかかったというには余りにも無理がある。


(んー、なんかピリピリしてるから盗賊かな?)


 ここら辺は気配察知の反応からして村も民家も無いから、居たとしたら山賊か魔物位程度だろう。

 明らかに街道では無いところにいるし、こちらを待ち構えていることから考えてもそれは確実だ。


 (まったく……しょうがないなぁ。)


「ーー言っている側から盗賊が現れたみたい……って何でそんなに目が輝いてるんですか」


「だって盗賊だよ!? 見ず知らずの人間から物を奪い取ろうとするヤバい奴らだよ?」


「相手がそんな野盗だから聞いてるんですよ。なんでそんなに楽しそうなんですかまったく……」


 若干呆れた様子のエラに対して笑みを見せるエルピスは、早く馬車の扉を開けてこいと今か今かと待ち続ける。

 エルピスが普段フィトゥスやリリィ、クリムなどと戦闘訓練している事は家の中でもかなり話題にしてはいけない方の部類であり、それもあってエラはエルピスが強いと言うことを知らないはずだ。


 それは交通手段に馬車を使っている事から考えても明白であり、窓から身を乗り出したのを危ぶんだ時点で決定的となった。

 要は何が言いたいのかと言われれば、エルピスはエラに自分が強いのだと伝えたくて仕方がないのだ。


 いつ敵が来ても良いように武装準備をしていると、まるで言う事を聞かない弟を叱りつける姉の様な声音で、エラはエルピスに言葉をかける。


「もう討伐し終わったみたいなので、エルピス様が期待されてるようなことは無いですよ」


「え……あぁ…そう」


『全滅は仕方ないにしろもう少し耐えてみせろよ!』そう言いたくなる衝動を抑えながら、エルピスは出しかけていた武装を即座に直す。

 ……野盗が即座に全滅したのにはしっかりとした理由がある。

 街道でチマチマと獲物を狙う程度の野盗に対して、護衛が強過ぎただけだ。


 今回護衛として付いているのは、普段イロアスやクリムに付いている護衛の者。

 イロアスとクリムにこそ勝てないが、その二人の足を引っ張らない程度の力は備えており野盗如きが勝てる相手ではない。


 とは言え母が自分の護衛に弱いものを付けることなどあり得るはずも無いと思考を切り替えて、エルピスは一つ浮かび上がった疑問をエラに投げかける。


「もしかしてエラって心読める?」


 いくらエルピスが盗賊がやって来たことにワクワクしていたとは言え、所詮見た目は子供だ。

 つい先ほど精神年齢がどうのこうの言った手前そう言った言い方は少々卑怯だと思うが、事実なのだから仕方があるまい。


 つまりは分からないように武装準備していたエルピスに対して、期待しているようなことが無いといいきられるのは、少々思考を読まれたと考えても無理はないだろう。

 そんな能力を持った亜人種もいると、以前フィトゥスから聴いたこともある。


 疑惑の目線を向けながらそんな事を考えるエルピスに対して、まるで見当違いの事を言っているエルピスを嘲笑うかのような声音でエラは答える。


「まさか読める訳無いじゃ無いですか。昔からお側に居たのも有りますが、エルピス様は顔に出過ぎなんですよ」


「……俺ってそんなに顔に出てる?」


「黙っていてもしたい事が分かるくらいには」


 確かにそう言われてみれば、フィトゥスとリリィとヘリアを抜けば、決まって近くに居たのはエラだ。

 常にそばにいたわけではないが、3歳くらいの頃から徐々に他の人達に比べて接する機会が多くなった。


 そもそも二十四時間のうちで、二十三時間近くエルピスの側にいるあの三人がおかしいのだ。

 文字通り起きる時から眠る時まで、なんなら寝ている最中すらあの三人はエルピスの近くにいる。


(この前なんて寝ぼけて叩いたらフィトゥスがやったと勘違いしてリリィ怒ってたし、そのまま寝たけどあの後大丈夫だったのかな)


 文字に起こしたらまだ自由な時間が一時間あるから、完全に付きっ切りと言う訳でも無いと感じるかもしれないが、その実入れ替わりになるから一時間誰かしらに休みが出来るだけであって、常に誰かがそばにいるのだ。

 過保護なんてものじゃない。


 話が脱線してしまったが、目の前にいる少女もそれに比例する程の時間を自分に捧げてくれており、それならとエルピスも納得するのだった。

 ーーそれにしてもあまり顔に出無い方だと自分では思っていたのだが、意外と顔に出ていたようだ。

 これからは気をつけよう。


 反省してからまた盗賊が来ないか待ってみたが、それからは特に何も無く街まで着いた。


「うっわぁぁぁぁ!! すっごいねここ!」


 城壁は高さ数十メートル程だろうか、横は円形型になっているようなのでどれくらいの大きさなのか判別する事は出来ないが、途方も無い広さだという事だけは十分に伝わってくる。


 気配察知に反応する人の数からして、かなり大きな街だという事が分かった。

 初めての街にテンションが上がるエルピスに対して、エラが声をかける。


「そんなに騒いでいては田舎者と思われてしまいますよ…まぁ事実それに近いと言ってしまえば近いのですが。

 ここは王国内において二番目に有名な都市、シャルリアンです」


「そんなに凄いとこなのここ?」


「多種多様な種族の人が住む事で有名ですし、イロアス家の家の者が良く来る場所としても有名ですからね」


 両親の名はそれほどの効果があるのかという驚きはあるが、物語になるくらいだから相当知れ渡っているのだろう。

 今までにない人の中で、エラから離れないようにエルピスは気を引き締めるのだった。


 #


「おたくら何処の人?」


 列に待っている間、馬車の中でごろごろしていたら、無精ヒゲを生やした三十くらいの男が前の方から近づいてきた。

 目つきはかなり鋭く、怪しい行動をしたら、子供とはいえ容赦なく切られそうだ。


 鎧からは長年使われた感じが漂って居るが、それよりも槍を持つ雰囲気が完全に武人のそれであり、戦う事を生業とする人間だという事が分かった。


「東の方から旅している行商人です。ほら、ちゃんと挨拶しなさい」


「こんにちはお兄さん!」


 護衛の人が先に出てそれに対してエラが会話にのると、チラッとこっちを見てくる。

 多分話を合わせろってことだろう。


 他の護衛の人達も何処から取り出したのか、バッジの様な物を見せている。

 身分証明書みたいなものなんだろう。

 嘘をつく理由は分からないが、何かしらの理由はあるはずだ。


「東の方から来たのか。それはまた遠くから来たんだな」


「ここら辺で物資を売るといい値段で売れますので。まぁ確かにここまで来る事は珍しいですが」


「大変だなぁ……俺も長年ここに居るけど東の国から来た奴らは片手で数えられるくらいだよ」


 それ程までに東の国は遠かったのか。今度行って見たいな。

 ……まったく関係ないけどこの人は誰だろうか?

 不意にそう思ったエルピスは行動に移す事にした。


「お兄さんは、誰なんですかぁ?」


 見た目通り五歳児風に聴いてみるけれど、これはどうしてなかなか辛い。

 今度からはしないようにしよう。

 某名探偵の気分が今日ようやく分かった気がする。


(――ってそこ! 腹抱えて笑ってんじゃねぇよ!)


 護衛の一人が腹を抱えて笑っており、それに対して睨みつけながらエルピスは会話を続ける。

 何度か一緒に遊んだこともあるので、エルピスの中身を知っているからこそだろう。


「お兄さんなんて年齢じゃ無いよ。俺はこの町の門番なんだ。君達は怪しい人には見えないからね、通って良いよ」


 少し柔らかい口調になった男が、がしゃがしゃと音を立ててしゃがみながらエルピスに答えてくれた。

 確かに目の前の男は全身を覆うタイプの鎧を着て居て、如何にも門番という風貌だ。


 身分証のチェックが少し緩い気がするが、ここの近くには聞いた話によるとダンジョンも有るらしいから、毎回身分証を出していたら夜になっても街に入れ無い人が出てくるだろうし、簡易的にするためのあのバッチなのだろう。

 ――それから暫くして、馬車を駐車場みたいな所に止め、後は徒歩で移動する事になった。


 さて、とっとと此処から離れ……。


「良いですか? あんまり私達から離れては行けませんよ」


 能力を使用して隠密行動を取りつつ逃げようとしたエルピスに対して、釘をさすようにエラが注意をする。

 いつの間にかエラは服装を変えており、それは周りにいる護衛達も同様でエルピスは自分の服装が途端に浮いてしまっているような感覚に襲われる。


 エラ達が使用している魔法を見よう見まねで使用し、適当に色合いなどを誤魔化し日本人のセンスではあるが服装を整える。


「まさかそんな事する訳無いじゃ無いですか」


「そうですか。それなら良いんですそれならね」


「なんか扱いが雑っていうか……もっと優しくしてくれても良いんだよ?」


「これでも充分優しくしていますよ」


 口ではそう言うものの目を細め体勢を低くし、エラは何時でもエルピスを捕まえられるようにしている。

 恐らくは魔力関連のスキルの様な気がするのだが、未だそれらに関係するスキルを聞いた事が無いので調べておいた方がいいかとエルピスは頭の中に記録する。


 しばらく街の中を歩いていると、ふとエルピスは前を歩いている護衛の一人に声をかけた。


「ねぇねぇ、あれなんとか引き剥がしてくれない?」


 裏から抜け出すことができないのであれば、正攻法で挑んでみるのも一つの手だろう。

 エルピスがお腹を抑えながら笑っていた護衛の人のマントを引っ張りながらそう言うと、しゃがみこんで目線を俺に合わせながら彼女は低い声で一言。


「先程門番の方にやって居た喋り方でお願いしてくれたら、じーっくり考えますよ?」


 字面で見ればただの気の良いお姉さんだが、顔が近い息は荒い目は座っておりエルピスはこの人に声をかけたのは間違いだったと判断する。

 エルピスの本能的な物が目の前の人物が危険であると告げて――


「何なら私と一緒に逃げましょうか、ねぇエルピス様」


「た、食べられる!?」


「その人に聞いたのが駄目でしたね、エルピス様」


 溜息をつくエラを見て先に言ってよと言いたくもなるが、この人物に声をかけたのは他でもないエルピスだ。

 逃げ出そうとするも捕らえられ、罰だとでも言わんばかりの表情をしたエラの前でエルピスは抱きしめられて潰れたカエルの様な声を出すのだった。


 /


「エルピス様そろそろ帰りましょうか」


 歓楽街やギルドのバザールなどを一通り回ったエルピス達は、町の中央付近にある比較的大きな公園で休んで居た。

 後一時間くらいで陽が落ちる時間だから、確かに今から帰るのが妥当だろう。


「わかった! 今行く~!!」


 元気な声でそう言いながら、エルピスは駆け足でエラの所に戻る。

 護衛の人ーー名前をペディさんと言うらしいのだが、歓楽街で遊んでいる時にエルピスがお小遣い増額の為にちょっと本気で甘えて見たらぶっ倒れてしまったので、三人いた護衛も今は一人だけだ。


 ついにエルピスも参戦しての戦闘か? とも思ったが、特に何も無く家まで無事に着いて、エルピスの誕生日パーティが始まった。

 使用人達も一緒にエルピスの誕生日を祝ってくれている。


「ーー今日はありがとう、お父さんお母さん」


 こんな大人数に祝ってもらえる事なんて、前世では一度もなかったことだ。

 まぁ出てくる料理がドラゴンなのは正直どうかと思うけれど……。


 黒龍が食べた時割と美味しかったので、もしかしたら龍はこの世界でかなり良い肉の部類に入るのではないかと思ったが、どうやら当たっていたらしい。

 食べる部位によって鳥だったり豚だったり牛だったり、いろんな肉の味がした。


「にしてもエルピス、お前いったいペディに何したんだ? 運ばれてきた時鼻血垂らしながら「ここは天国…あの子は天使」とか言ってたぞ」


「そうよエルピス。私にもした事ないことをしちゃ駄目じゃない」


「ーーいやそう言う問題じゃ無いけどな!」


「ちょっと抱きついて上目遣いしながら照れた顔しただけだよ」


「ダメじゃないの大人の女の人にそんなことしたら、特にあの子は」


「母さんからもそんな扱いなんだね」


 そんな両親の夫婦漫才を聞きながら、エルピスは出された料理を堪能する。

 やっぱりお母さんの作る料理は凄く美味しい。


「エルピス様。五歳の誕生日おめでとうございます。つきましては甘えて頂きたく思うのですが…」


「あらリリィ。エルピス様が五歳になられたのと、貴方に甘えることの関連性が無いと思うのだけれど?」


「そば付きでもない子が間に入らないでもらえる? それに今の内に色を知っておく事は、重要な事だと思うけど?」


「女性は直ぐに争い出して怖いですね…あ、エルピス様五歳の誕生日おめでとうございます。

 このフィトゥス、より一層の忠誠を貴方に誓いますよ。エルピス様がどこからか持ってきた調味料で作ったお菓子もありますので後で渡します」


 いつもと変わらないリリィとフィトゥスに何処か安堵しながらも、街で覚えたあざとさ全開の喋り方でエルピスは適当に返しておく。

 下手に何か言って注意を引きすぎるとこのまま何処かに連れてかれそうだし。

 その後も鼻血を垂れ流して運ばれていった二人組を除いて引き続きパーティが行われ、ようやくお待ちかねのプレゼントのお時間となった。


「私からのプレゼントはこれよ。上位の龍の骨を削って作った短杖。知り合いの杖師にお願いして作ってもらったの」


 お母さんから貰った杖は杖師さんに作って貰ったらしいが、凄く握りやすい。

 それに杖があると魔法の発射速度が大分早くなると、以前フィトゥスから教えてもらった。


 色々杖といっても種類があるらしいが、その中でも龍の杖は高級品らしい。

 上位の、それも恐らく老龍の杖なんか、滅多にお目にかかれないだろう。

 小さな国なら国宝として展示されて居ても可笑しく無いレベルの品だ。


「ありがとうお母さん」


 けれど何故杖なんだろう。

 そんな疑問がエルピスの頭を過ぎる。

 その理由は簡単だ、極力エルピスに戦闘をさせたがらないクリムが戦闘にしか使えない道具をこうして手渡してきたからだ。


「俺からのプレゼントは、冒険者になる事を許可する事と、身代わりの指輪だ。冒険者の方は一年後からになるけどな」


「ほ、本当に!? 冒険者になって良いの?」


「あぁ。強い奴が一番安定した収入手に入れるなら、ぶっちゃけ一番これが楽だからな」


 なるほど、だからお母さんのプレゼントが杖だったのか。

 それにしても街では見かけなかったが、やっぱり冒険者ギルドみたいなのがあるのだろうか。

 身代わりの指輪ってのがどういう効果かはわから無いが、多分瀕死を助けてくれるとかそんな感じのやつだろう。


 いつもではあるが考えばかりが先走りし、エルピスは飛び跳ねながら喜びを表現する。


「あ、あとそれの他にも良い知らせがあるぞ」


 指輪をエルピスの指にはめながら、イロアスはそう言えばと思い出した様にそう呟く。

 これ以外に良い知らせなど、もう無いと思うのだが…?

 そう思って疑問符を浮かべるエルピスに対して、イロアスは衝撃の事実を告げる。


「お前にも従兄弟が出来たぞ」


「ーーへ? お母さん兄弟居たっけ?」


「ああ、言ってなかったか? 生まれたのは俺の弟の娘だ。最近生まれたばかりらしいぞ」


 なんと、お父さんに弟が居たとは初耳だ。

 それにしても従妹か…やっぱり可愛いんだろうなぁ。

 そんな事を考えながら、エルピスはまだまだ食べ切れないほどに並べられたご馳走に向かって、歩き出すのだった。

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