第5話 初めての魔法

「エルピス様、ちゃんと話は聞いてくださいね? もしかしたら怪我をするかも知れませんから」


「坊ちゃま。私達が手取り足取り教えますので、しっかりとお聞き下さい」


「奥様にバレたら、どやされますよこんな事……」


 メイド服から動きやすそうな緑の服に着替えたリリィは、中庭までエルピスを連れてくると真剣な表情でそう言った。

 そのリリィに苦笑いを浮かべながらも、意外と乗り気そうなのがフィトゥスで、リリィと一緒に真剣な表情になってエルピスの事を坊ちゃまと呼んだのがヘリアだ。


 フィトゥスはヘリアやリリィと日替わりでエルピスの身の回りをサポートしてくれている専属の使用人のうちの一人である。

 白色のTシャツにジーパンにも似たズボンを履き、ラフではあるもののこの世界においてはかなりお洒落な服装に整えていた。


 へリアは服装を緑色で整えており、エルフであるヘリアと悪魔のフィトゥスの服装を見てみれば、家の中でも種族によっての着る服の違いがよく分かる。

 リリィとヘリアはエルフなだけ有って随分と魔法に対して真剣な様で、いつもよりかなりピリピリしているのが伝わってきた。


 だがフィトゥスは種族が悪魔だからかもしくはこう言うことに慣れているのか、これくらいなら別に気を張らなくてもという雰囲気を感じる。

 三者三様の反応を見せるメイドと執事を見ながら、エルピスは元気よく返事をした。


「はーい!」


「よろしい。ではどの魔法から教えましょうか……フィトゥス、何か案を出しなさい」


「あ、やっぱり俺に振るんですね……こういう面倒ごとはほとんど俺に回すんだからヘリア先輩は」


「私の目の黒いうちはアルヘオ家の召し使いは年功序列です。しのごの言わずにやりなさい」


「いやヘリア先輩顔が怖いですよ!? それに誰もエルピス様に対して指南するのが嫌だとは言ってませんよ? ただ魔法の基礎属性の説明からとなるとですね」


「うっさい早くしろ」


「怒るなよリリィ。なんで俺の周り敵しかいないの……エルピス様はこうならないで欲しいなぁって痛い! で、ではエルピス様。私に触れて頂いてもよろしいですか?」


 ヘリアに杖で背中を強打され涙を浮かべながらエルピスの近くまで歩み寄り、フィトゥスは目線を合わせる為に膝を曲げ、エルピスに手を差し伸ばす。

 エルピスはそのフィトゥスの手に手を合わせ、ちょうど握手するような形になる。


「これでいい?」


「はい。背後から同僚の少し突き刺さる様な視線を感じる事以外には、特に問題ございません。では魔力を私に送り込んで貰ってもよろしいですか?」


「フィトゥス、悪魔の貴方には分から無いかもしれ無いけれど、いくら半人半龍ドラゴニュートとは言え、まだエルピス様は一歳児よ? 普通の一歳児は受け渡しが出来るほどしっかりとは魔力を扱えーー」


「わかった! 魔力を送るね?」


 少し前エルピスが読んでいた魔法操作の本、あれには基本的な魔法操作に関しての情報が事細かに記載されていた。

 一般人ならばそれを見た程度でどうにかなる様なものではないが、魔神であるエルピスからしてみればその程度の事児戯にも等しい。


 エルピスが保有する魔力の量は一般の五歳児など比較する事すら馬鹿馬鹿しく、数十年単位で魔法を学んだ者が魔法具を使って魔力を貯め続けようやく得られる程の魔力の量だ。

 魔神という称号の力を知らないエルピスに完全に非はあるのだが、そんな無知な彼を責めるわけにもいかない。


 本来なら漏れ出し大気中に霧散してもおかしく無い濁流の様な魔力は、だが完璧な魔力操作によって全てがフィトゥスに注ぎ込まれる。

 コップにプールの水を無理やり入れる様なそんな無茶をされれば、フィトゥスの体に異常が起きてしまうのは仕方のない事だ。


「──あ? ガッ!? ッッ!!?」


「フィトゥス!? だ、大丈夫!? 痛いの!?」


 流し込んだ魔力に苦しむフィトゥスに驚いたエルピスは、自分が何かしているかもしれないという意識から無意識に手を離そうとする。

 だがエルピスの手はフィトゥスにしっかりと握られており、簡単に離れる事は出来ない。


 強く握られているわけでは無く、割れ物を扱う様に丁寧に握られているため、無理やり逃げる訳にも行かないので、とっさの判断ができずエルピスもどう動けば良いのか分からなくなる。

 焦って何も出来なくなったエルピスの耳に、ふとリリィの怒号が届いた。


「何を血迷ったのフィトゥス!! ー──ッ!  これだから悪魔は!  エルピス様、離れてください!」


「──だ、大丈夫だよリリィ? ちょっと僕が魔力を流し込み過ぎて暴走しかけてるだけで、きっと直ぐに収まるから! だからフィトゥスに武器を向けないで!」


「ですが危険です!」


「二分……二分よフィトゥス。何が原因でそうなっているのかは分からないけど、二分以内に抑えなさい」


 エルピスの安全を確保しようと、フィトゥスに弓まで構えて警戒するリリィを他所に、エルピスも気が動転して邪神の障壁をフィトゥスとヘリアの間に展開しながら説得する。

 それに対してヘリアは二分間だけ待つと言うと、リリィの弓を下げさせエルピスに何かあった時の為に隣に立つ。


 その目には明らかな殺意が宿っており、フィトゥスが何かすれば即座に首を落としかねない気迫をまとっている。

 フィトゥスは未だにエルピスの手を無理矢理握ってはいるものの、徐々に落ち着いて来ているし、大丈夫だろうと思いたい。

 それから一分ほど経つと、フィトゥスも徐々に落ち着きだした。


 なぜ無理やりに魔力を詰め込んだのにフィトゥスがパンクしなかったかと言われれば、邪神の称号を持つエルピスが手を繋いでいたからなのだが、本人はそれを知る由もなく、またこの場でそれを理解できるものもいない。


「──ハァ……はぁっ。すいませんエルピス様。想像して居たよりかなりエルピス様の魔力量が多かったので、少し暴走しかけていました。エルピス様に異常はございませんか?」


「大丈夫だよ。フィトゥスは大丈夫?」


「はい、私の身体に異常はーーまぁ気になさら無いで下さい」


 手を離してくれたフィトゥスに大丈夫か確認したが、返答もしっかりとして居るしもう安全だろう。

 何を気にしない様にすれば良いかは分からないが、分かったところでエルピスに良いことが一つもなさそうなので、そう言う事ならと無視しておく。


「それでさっきのは一体何をしたの? 場合によってはそれ相応の罰則が下るわよ。いや、下す」


「それは勘弁してよ。俺がエルピス様から魔力を貰ったのは、決して魔力目的だとかじゃなくて魔法適性を調べる為だ。……まぁ進化したのは予想外だったけど」


「何か言ったかしら?」


「いや、なにも。年では?」


「──へぇ? 随分と死にたいみたいじゃない」


「辞めなさいエルピス様の前でみっともない。貴方達二人はエルピス様の兄弟の様に振る舞う事を許された、数少ない召使いのうちの一人。

 アルヘオ家の中で最も羨ましがられる立場である貴方達が、エルピス様に示しのつかない行為をしてどうするのですか」


「すいませんでしたエルピス様、ヘリア先輩もご迷惑おかけしてすいません」


「エルピス様すいませんでした。おい悪魔、この決着はまた後日だ」


 リリィとフィトゥスの仲がいいことはエルピスからしても嬉しいが、それよりも聞き捨てならない事をエルピスは確かに聞いてしまった。

 フィトゥスが進化しているらしいという事だ。

 この世界での進化条件などエルピスの知ったところではないが、物語の中では窮地に立たされた部族や種族の中から優秀なものが大きな力に当てられて変化した姿である事が多い。


 言われてみれば確かにさっきより心なしかーーと言うより目に見えてカッコよくなっているし、身長も若干伸びている気がする。

 エルフである二人は超がつく美形なのでフィトゥスの変化など些細なものなのだろうが、人間基準の美的感覚であるエルピスからすれば今のフィトゥスはカッコイイにも程がある。


 身体から漏れ出す魔力は今までの赤い色の魔力から綺麗な漆黒に変わっており、なんとなくでしか感じられないが絶対量も増えた様に見える。

 確実にフィトゥスは、進化したのだろう。


(か、カッコいい! もっと全力でやったらもっとかっこよくなったらしないかな?)


 そんなエルピスの思考を他所に、フィトゥスは自身の目の前に半透明のステータス画面を出現させると、こちらを向きながら口を開く。


「それで検証の結果ですが、エルピス様の適正魔法は、火・氷・闇・風の4つですね」


「──それは本当なのフィトゥス!」


「はい。本当ですよ」


「凄いじゃ無いですか、エルピス様! 四属性持ちなんて、この世にそれ程居ないんですよ!?  流石です!」


 フィトゥスに身も凍る様な冷たい声で確認を取ったと思ったら、クリム並みの猫なで声でリリィはエルピスを褒めてくる。

 本来のエルピスの適性は魔神の称号により全属性なのだが、フィトゥスが探れるのは大元のエルピスの才能だけである。


 それでも四属性というのはやはりこの世界では少数派で、英雄と龍の子というサラブレッドの血はさすがと言ったところか。

 ちなみに平均的に農民や兵士の多くは一種類、魔法使いで二種類、一流とされる宮廷魔術師クラスで三種類ということを考えると四種も扱えるのはエリートの証だ。


「ではヘリア先輩に準備をしていただいているので、私がこの先は話させて頂きます。適正魔法とはなんなのか、魔法の発動はどうすれば良いのか、複合魔法とはなんなのか、それと五大魔法に特殊魔法の違いはなんなのか、などを教えていきますね」


「随分と量が多いね…お手柔らかに頼むよ」


「もちろん今日だけで全て完璧に覚えてもらうのは無理があると思うので、しっかりとこれから時間をかけて教えていきますよ」


「ほらリリィ用意してきましたよ」


「ありがとうございますヘリア先輩。ではエルピス様、いまから説明していきますね」


 どこから持ってきたのか黒板の様な物を引っ張ってきたヘリアに感謝の言葉を述べると、リリィは魔法の基礎についてしっかりと説明を開始する。


「まず適正魔法ですが、これは名前の通り魔法を撃つ人物に適性のある魔法の事です。

エルピス様の場合は四属性ですが、大体平均は一属性。多くて二属性くらいですね。

魔法適性には魔法発動時に魔力の消費が抑えられる効果と、魔法発射速度が速くなる効果があります」


「基本的には適性のある魔法で戦い、意識を逸らすために別の魔法を使うのが魔法使いの戦い方になりまーー痛い! セリフを取ったのは悪かったけど叩くなよリリィ!」


 無言で涙目になりながらフィトゥスの事をバシバシ叩くリリィを見ながら、エルピスは身体の中に意識を向ける。

 いままで何と無くで操っていた無色透明な魔力に、フィトゥスが纏っている様な色をつけていくイメージで想像を膨らませていく。


 簡単に想像できる火、水、風、雷を身体の外に出す様に魔力を操作しながら、頭の中でそれらを球体にする。

 すると目の前の景色を染め上げる様にゆっくりと、四つの球体が目の前に現れた。

 一度目の前に現れさえすればその後の変化を考えるのは簡単で、まるで前からそうしていた様に簡単に操る事ができる。


「エルピス様何をーーって、魔法が発動してる…? というかこの日のために私が頑張って考えてきた説明まだ序盤も序盤なのだけれど、その点に関してはーー」


「感覚派のエルピス様に対して長々説明しても意味がないのはお前も分かってるだろ。しかもちゃんと見ろ、あれは魔法じゃないぞリリィ。魔法の発動前、元素の状態だ」


「でもそれならおかしいじゃない。元素をあんな近距離で、しかもあんなに大きくして止めるなんて普通出来ないはずじゃ」


「見た目は子供だろうとイロアス様とクリム様の子供、エルピス様だぞ? こっちの常識が通用すると思っちゃダメさ」


「貴方達静かになさい、凄いのはここからよ」


 そう言ったのは真面目な顔をしたヘリア、いつにもなく真剣な先輩のその表情に二人の顔も強張っていく。

 だが当の本人であるエルピスにそんな彼等の声は届いていない、極度の集中状態にあるエルピスは目の前の球体を保持しながら、一つの考えを頭の中へよぎらせる。


 これならまだまだいけると。


 一度コツさえ掴めばこの程度どうともない、火、水、風、土、雷の五大属性と炎、氷、空気、時、光の特殊属性、十個の属性を名前通りのイメージでは無く、自分だけのイメージで目の前に出現させる。

 バスケットボール程度のサイズのそれを見つめながら、更に頭の中でそれらを混ぜていくイメージを浮かべていく。


 紅い火と黒い炎の様な見た限り近そうな属性を混ぜ合わせ、結果的に五つの球体がエルピスの前に浮かぶ。


「元素魔法の融合……フィトゥス、あんた最大で何個までできる?」


「まぁ敵に攻撃されず集中出来る状態なら三つってとこかな」


「本当に? 私でも二つまでしかできないのに……あんたの目から見て今のエルピス様はどう見える?」


「率直な感想を述べるのなら、こういう言い方は良くないとは分かっているけれど化け物だとしか。

なにせエルピス様は見た限りまだ余裕がある様にしか見えない。十の属性を生み出せるだけでもかなりの鍛錬が必要なのに、あそこまで行こうと思ったら後二百年は欲しい」


「あんたの鑑定結果間違えてたんじゃない?」


「……あの方法は魂に直接アクセスして能力を見る鑑定方法だ。偽装スキル程度のものではどうにかなるはずないんだけど……あるとしたら称号による付与効果かな」


 五つある属性のうち時と光を混ぜた物を端の方に寄せて、火と炎を混ぜた球体と風と空気を混ぜた球体を組み合わせ、余った物も組み合わせる。

 これで残った球体の数は三つだが、これ以上は何故か混ぜてはいけない気がしてならないので混ぜずに周囲に浮かばせておく。


 鏡が無いのでなんとも言えないが、恐らく他人から見れば今のこの姿は魔法使いっぽく映っている事だろう。

 エルピスからしてみればいま自らが使用している魔法の凄さが分からないのでその程度の認識だが、フィトゥス達からしてみれば魔法の基礎も知らない少年が自らを超えた力を行使することに恐怖を覚えていた。


 作ったもののどうしようと頭を悩ませていると、拍手の音が聴こえてエルピスはそちらの方に眼を向ける。


「凄いですねエルピス様! ここまで完璧な複合魔法を見たのは、イロアス様の魔法を見たとき以来です! 」

「お父さんと同じくらい…お父さんと同じくらいか! やったー!!」


 目の前で父が魔法を使っているところを見たことがないし、おそらく父の事だから変化させたりもっと数が多かったりと色々あるのだろうけれど、この世に生まれ落ちて一年と少しで父の背中が見えてくるというのは、今までにない達成感をエルピスに与えてくれる。


「かわいい……ところで今のエルピス様の表情を写し取った絵がありますが、要りますか?」


「どうやってそんなもの……いくらだ?」


「金銭なんて要求しませんよ。そうですね…確か明日エルピス様当番でしたよね?」


「──分かった、代わってやる」


 端の方で何かコソコソ喋っているフィトゥスとリリィの方をちらりと見てから、エルピスは作り出した球体を見つめる。

 父と同じ事が出来たという反面、父が恐らくは戦闘で使うほどに高火力なのだろう球体を生み出した事に今更ながら不安が生まれてくる。


 絶対に魔法を使用して失敗しないという確固たる自信はある、あるにはあるのだがそれが自身だけでは無く確実なものであるという証拠もない。

 爆弾のスイッチでも目の前に置かれた様な気分を味わっていると、中庭──いまエルピス達がいるこの場所に、家の中から直通で来れる扉が大きな音を立てて開いた。


「こらエルピス! 集中しなきゃダメでしょ、下手したらここ一帯が更地になるんだから」


「奥様、お仕事の方はよろしいのですか?」


「終わったから大丈夫よ、エルピスのおかげで休憩もできたし。それにしてもエルピスがこんな魔法まで使える様になってたとは、驚きだわ。何かあったら参戦するつもりでこっそり見てたけど、ヘリアの指導がいいからかしら?」


「いえ、私達は何もしていません。まだ魔法の適性と戦闘方法しか伝えておりませんので」


「それでこの魔法をねえ、才能って怖いわね。さすが私とイロアスの子供、自分で言うのもなんだけど規格外ね」


「お、お母さん……これってそんなに危ない魔法なの?」


「怖いのエルピス? 別にちゃんと制御すれば危なくは無いわよ? 魔法の等級で言えば戦術級位だし」


「せ、戦術級?」


 戦術級と聞いたこともない魔法の等級について伝える母の声音は、甘やかしてくれる時の猫なで声ではなく、冒険者としての真剣な状態のお母さんだ。

 屋敷内の人間との組手の時以外でここまで真剣になる母は珍しく、否が応でも緊張してくる。


「リラックスしなさい、エルピス。その魔法ならフィトゥスが食べてくれるから大丈夫よ」


「──えっ、自分がこの魔法を全部食べるんですか!?」


「悪魔だからそれくらい出来るでしょ?」


「限度が有りますよ限度が! 伝説のあの一族や死衣魔デモニオ、あと欲大魔アスモデウス位ならなんとかなるかもしれませんけど、中位か上位に近いかもしれない程度の自分がこんな魔法食べたら間違いなく爆散しますからね!?」


「さっき見てたけど爆散してなかったじゃない。あの手渡しの時に込められた魔力量はそれの百倍くらいよ? それに限界まで魔力を減らしてから、一つずつ食べれば大丈夫でしょう? エルピス、食べやすい様にしたり出来ない?」


「ひゃ、百倍!? 戦術級の百倍って──国家級レベルじゃないですか! 俺そんなもん手渡されてよく生き残れましたね? っていうか無理ですって!」


 エルピスをリラックスさせる為なのか、はたまた本気で言っているのかは判断できないが、クリムの言われた通りにエルピスはなるべく魔力の塊であるそれを食べやすくしてみる。


 とは言っても何が出来る訳でも無く、円形にして物質化したのち中にある魔素を安定化させようと頑張ってみるのが限界だ。

なんとも言い難いが魔法の中にはバランスがあり、それを綺麗に保てば魔法は暴発しなさそうである。


「いやそんな丁寧な作業でここまでしていただいても、無理なものは無理ですって! 進化の時ですらかなり暴走しない様に頑張ってたんですよ!?」


「知らない知らない。ほら私に食べさせてもらえるんだから、ありがたく思いなさい」


「リリィにされても嬉しく──いってぇ!」


「エルピスは魔法の才能もあるのねっ! 将来は武闘家になるのかな? 魔法使いになるのかな? それとも両方になっちゃうのかな?」


「だからクリム様、幼少期に構い過ぎるとグレルとあれほど言って……」


「──へリアまでそんなこと言い出して。前々から思ってたけどそれ誰情報なのよ? 最近みんな言ってくるんだけど!」


「イロアス様のお言葉ですので、恐らく的を射た一言なのかと」


「イロアスか…イロアス…うーん、例えイロアスの言う事でも! それでもエルピスなら大丈夫よね?」


 段々と混沌と化してきた状況に頭を抑えながら、エルピスは産まれた時に見た父の顔を思い出す。

 ああ、願わくば父さんよ、早く帰ってきてくれ。

 そんなエルピスの思いは、嫌わないよねとでも言いたげな母の視線とフィトゥスの悲痛の叫びに乗って、空へと上がっていくのだった。

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