第九章 決戦

ザッザー・・・ザッザー・・・。

陸奥は下北半島の浜辺に、波は静かに寄せては引く。


人々がスダコラーとおハチ父娘の悲しい再会に心を震わせ涙している隙を突いて、ガゥジーラはコッソリその場から離れようとする。

「グル・・・グルル・・・」

足音を立てずに、静かに、一歩、また一歩。


生まれてこの方、ずっと見せ物にされ続けてきたおハチの半生を想うと、スダコラーに村を襲われた村人でさえ蛸親子の境遇を憐れに思う。

結果、その矛先は何故だか分からない内にガゥジーラに向けられた。

やり場の無い鬱憤がそうさせたのだろうか。

「大トカゲの野郎、赦せねぇ!」

「何も殺すこたぁねぇだろう!」

「父娘の絆を何だと思ってやがる!」

ガゥジーラが人語を理解していたら、きっと「そんなこと言われても知らんがな」と困惑したであろう。

「みんな! 大トカゲをやっちまえ!」

「うおおおーっ!」

民衆がスダコラーの仇討ちとばかりガゥジーラに怒りと悲しみをぶつけようと決起する。

一斉に襲い掛かってきた人間どもに対しガゥジーラは咆哮を一声放つ。

「アンギャオアーッ!」

大トカゲの威嚇に威圧され恐れおののく一般大衆。

回れ右。

「みんな! 大トカゲが怒ったぞ!」

「あわわわーっ!」

あっさり逃げ帰る人間ども。


と、その時。

シャンッ!

軽快な金属音。

シャンッ!

また金属音。

大地をコンッ!と突いた鉄製の長い杖の上に取り付けられた左右各四輪の環、遊環が鳴る。

シャンッ!

再び鳴る。

ガゥジーラと怪獣見物に来ていた人々が金属音のする方角を一斉に振り返る。

現れたのは長旅の末、この下北半島でようやく大トカゲに追い付いた例の虚無僧七人衆だ。

「我ら影に生き、影に死す、歴史の闇に潜む者!」

声を合わせた妖しげな七人が錫杖を構えジリジリと進み、その度に遊環が鳴る。

シャンッ!

シャンッ!


離れた場所から見ていた犬公方が着物の家紋から正体に気付く。

「あの虚無僧、忍びの葉草守よそもりの者達か!」


法螺狗斎も見破る。

「奴等、さては葉草守じゃな」

汁之丞が眉を潜める。

「忍びか!」

トワも驚く。

「忍者?」


虚無僧は更に声を揃え続ける。

「大トカゲ・ガゥジーラ、共に我等が頭領の元へ参られよ!」

言い終えると個人個人が型違いの七演武を順に披露したのち、引き続き規則正しいキビキビした動きで七人揃っての組手を披露し総攻撃に入る。

「先ずは我等の腕前を見られよ!」

天蓋を脱ぎ捨て、錫杖を左手に、抜いた刀を右手に、尋常ならぬ速度で七人七様に走る。

スタサササササ・・・。

スタサササササ・・・。

「影無し!」

「音無し!」

「におい無し!」

「ぬるくなし!」

「甘くなし!」

「殺気無し!」

「敵は無し!」

言うが早いか同時に飛び上がり、大トカゲに斬り掛かった!

七人は七方向に散り、其々が分厚い皮膚に斬り突ける!

「アギャッ! アギャッ! アギャギャッ!」

素早く大地を駆ける。

七人の繰り出す小さい攻撃が幾つも幾度もガゥジーラの両脚を襲う。

「大トカゲ殿、我等と共に歴史を・グエッ!」

「アンギャーッ!」

ガゥジーラの巨大尻尾が宙を切りブンッと唸ると、群がる七人の虚無僧を一瞬にして払い除けた!

思わぬ素早い動きに対処叶わず忍びたちは地べたに叩き伏せられてしまう。

「今のは無し!」

「なす術なし!」

「立つ瀬なし!」

「甲斐なし!」

「ろくでなし!」

「面目なし!」

「いいとこ無し!」


だが犬公方が健闘を称える。

「いや! よくやった! 葉草守衆よ!」


三田井汁之丞と法螺狗斎も頑張りを讃える。

「お見事でした!」

「今は休んで下されい!」


虚無僧七人衆は善戦虚しく倒されてしまった。

大トカゲの周辺にバラバラに倒れた七人を観衆の十数人が駆け寄って助け出す。

「おめさん方、でぇじょうぶだか?」

「しっかりしろ! 傷は浅いぞ!」

「ぉぁ、ぉぁ、ぉぁ。すまぬ。あとは皆の衆・・・お頼み・・・申し・・・た・・・」

ガクッ。

「しっかりするだべ!」

こうして虚無僧達は気を失なってしまったのである。


そんな七人に勇気を貰った庶民たち。

多少、体力を使い果たしたであろう大トカゲに対し、ここぞ!とばかり再び決戦を挑む。

「大トカゲめ!」

「やっちめえ!」


「ヒヒーン!」

「皆の者、待たれい!」

立ち上がった民衆の前に白馬に跨がった犬公方が立ち塞がる。

「!?」

「何だべ?」

「おい! 犬仮面、退いてけろ!」

「おらたちゃ大トカゲをやっつけるだよ!」

「んだ! とっちめてやるべ!」

馬上の犬公方が民を鎮める。

「そち等が戦う前に、この犬公方が先ず戦おう! 皆が立ち上がるのは、犬公方が倒されてからでも遅くはあるまい! ハイヤーッ!」

そう告げるや否や犬公方は先制攻撃に出る。

勇ましい犬公方を有り難い尊敬の眼差しで民衆は見送る。


   (二番)

   紅い炎 闘志がたぎる

   誰が呼んだか 犬仮面

   仲間たちと 手をとって

   悪魔の手先に 立ち向かえ

   その名を叫べ!

   犬剣! 疾風!

   「ワオーン!(S.E.)」

   あぁ ビョウビョウ 犬公方

   あぁ ビョウビョウ 犬公方


犬公方と犬剣組は大トカゲの足元に集中攻撃を仕掛ける算段だ。

斬り付け!

噛み付け!

敵は手強いぞ!

「犬公方殿、助太刀致す!」

かたじけない!」

若い侍が颯爽とやって来た!

彼は、そう!

三田井汁之丞その人である!

犬公方がガゥジーラに近付きながら尋ねる。

パカラン! パカラン!

「貴公、名を聞いておこう!」

パカラン! パカラン!

「拙者、三田井汁之丞と申す!」

「三田井殿か! 互いに生き残りましょうぞ!」

「承知!」

ガゥジーラが殺気を滾らせた気配を感じ取り、振り返る!

「ガルルウ!」

犬公方が長く太い刀を抜く。

「大トカゲ! 伝家の宝刀・光犬歯ひかるけんしの切れ味、喰らうが良い!」

犬公方が斬る!

犬たちが噛む!

汁之丞が斬る!

パカラン! パカラン!

ジャキンッ! ガブリッ! シュバッ!

サクッ! バキャッ! ガブリッ!

仮面の武士と仲間の犬たち、加勢に馳せ参じた汁之丞が雄々しく戦う!

パカラン! パカラン!

ジャキーンッ! ガブリッ! シュババッ!

疾風号の上に立った犬公方が刀を奮う!

犬剣組の犬たちも怖れず戦う!

汁之丞も挑む!

幾度と大トカゲの足元に近付き斬り掛かる!

噛み付く!

しかし怪獣の皮膚は硬く刀と牙が弾かれる!

「ぐぬ! 刃が立たぬか!」

「ギャワワン!」

「やむを得ぬ! 犬公方殿ここはお任せくだされ!」

若侍の腰のものに気付く犬公方。

「頼みましたぞ!」

正攻法では敵わぬと即座に判断した汁之丞が覚悟を決める!

「汁之丞様っ!」

妻トワが叫ぶ。

「汁之丞殿っ!」

法螺狗斎が声援を送る。


ついに汁之丞が秘剣の技の封印を解く!

もう一方の刀に手をやる・・・。


さて、三田井汁之丞の使う「秘剣の技」とは一体何なのか。

解説せねばなるまい。

汁之丞の腰のもの、ひと差しは通常の日本刀である。

しかし、もうひと差しの刀には実は反りが無い。

刀身は真っ直ぐに延びている。

更に刀幅は細身で、一見、針のようである。

例えるならば南蛮のサーベル。

それもそのはず。

汁之丞の秘技とは、すなわち鍼灸治療のはりなのだ。

それはむしろ、刀そのものに秘密があるのではなく、汁之丞の鍼灸知識にこそ、秘伝の秘密がある。

すなわち、動物の急所集中帯であるツボを狙う、一刺一撃ひとさし・いちげき、必殺の禁断技なのだ。


「果たして私の秘剣が通用するかどうか」

犬公方は疾風しっぷうの如く汁之丞に駆け寄ると手を差し出し、素早く馬上に彼を騎乗させる。

犬剣組はサッと身を引く。

疾風号は二人を乗せると速度を上げる。

「ヒッヒーン!」

サーベル刀の形状から若い侍の技の正体を見破った犬公方が叫ぶ。

「三田井殿! 人々を守る為、秘剣の鍼技、開放なされませいッ!」

汁之丞は小さく頷き覚悟を決める。

スウッと刀を抜く。

「秘剣! 裏瀬うらせ! 針灸しんきゅう流! 鍼壺はりつぼ経絡けいらく返し!」

汁之丞は馬から飛び降り、衝撃分散の為に地表をグルングルングルンと三回転し受け身を取る!

直ぐ様、大トカゲに猛烈な勢いで駆け寄るとその分厚い皮膚に全体重を乗せてサーベル刀を刺す!

その切っ先は大トカゲの右足中指の爪先、爬虫類の足指と爪の隙間の僅かなツボを確実に捕らえる。

ブスリッ!

「アギャ!」

ガゥジーラが小さく呻く。

ガクン!

ほぼ同時に下半身の力が抜け、平衡感覚を失なった大トカゲは、へにゃり~とその場に崩れる。

ガゥジーラ自身、何が我が身に起きたか解らない。

ドゴゴゴゴーッ!

轟音を響かせ巨大怪獣が腰を抜かしたが如く大地に倒れた!


「おおーっ!」

観衆から驚きの声が上がる。


ガゥジーラは立ち上がろうとするが立てない。

体表上皮から深く刺さったサーベル刀がツボを突き、大怪獣の神経系統を一時的に断絶、身体活動能力を奪ったのだ!

三田井汁之丞がさっと身を引く。


「今なら勝てるべ!」

「みんな行くだッ!」

更に波状攻撃、刀を構えた藩の侍衆、くわだのすきだのを持った村のお百姓衆、角材だの丸太だのを振りかざした町の民衆、包丁を振り回した奥方たち等々、闘志を燃やした人間たちが一斉に大トカゲに立ち向かう!

「行くぞーっ!」

「わあーっ!」

「大トカゲをやっつけろ!」

「この機を逃すな!」

「うおーっ!」

何百人もの人間が殺気をみなぎらせガゥジーラに襲い掛かる!

人間怖い!

しかしガゥジーラも負けてばかりではいられない。

横倒しのまま迫る人間どもを雄叫びで威嚇する。

「アンギャオアーッ!」

「わぁーっ!」

「逃げろーっ!」

「怖い!」

これまた団結も虚しく、呆気なくまた回れ右でクルリと踵を返し、戻るわ逃げるわ。

一般大衆それでいいのか?

しかも大トカゲが「ムンギャ!」と力を込めて踏ん張ると、汁之丞のサーベル刀が爪先からポンッと抜けてしまった。

「抜けたーッ!」

民衆が焦る。

汁之丞も焦る。

「しまった! 大トカゲの奴、想像以上に頑丈な肉体で、且つ回復が早い!」


ガゥジーラがムックリと立ち上がり、天にも届く大声で吠える!

「アンギャオォォォアァァーッ!」

稲妻が天を裂き鳴り渡る!

ゴロゴロピッシャーンッ!


その場に居る全員が青ざめる。

万事休す!

もう人類は荒ぶる大怪獣に対抗する術はないのか!?


・・・その時だった!

「パオオオオオーッ!」

あれは!

地平線の彼方から高らかな鳴き声を発し、ゆっくり姿を現したのは・・・?

草原の果てを見ろ!

あれは何だ?!

見知らぬ動物・・・?

あれは!

エレフアントだ!

徳川綱吉が南蛮より呼び寄せたエレフアントの登場だ!

「パオォォォーレッ!」


誰もが思わぬ加勢に驚きを隠せない。

「ありゃ何だ?」

「オラ知らねえ」

「あれは徳川家の綱吉様がお呼びになった巨大動物だ!」


口元の開いた仮面の犬公方=徳川綱吉が馬上から喜びの笑顔を見せる。

「おお! あれこそは余が呼び寄せた南蛮渡来のエレフアント!」

汁之丞も立ち上がりエレフアントの戦闘参入に心強さを感じる。

「・・・エレフアント!」


ズンズンとエレフアントが迫る。

ズン・・・ズン・・・ズン・・・ズン・・・。

ガゥジーラはただならぬ気迫を感じ取り気構える。


更に意識を取り戻した葉草守虚無僧七人衆の一人がふらふらと身を起こし、破れた着物のふところから二寸ほどの黒い珠を取り出す。

「わ、我等が秘奥義、授けようぞ!」

虚無僧=忍者がその黒珠をエレフアントに向かって投げる。

「忍法! 超変化ちょうへんげ小転大しょうてんだいの術!」

黒珠は象の頭にコツン!と当たるとパカッと二つに割れ、中から黄色い粉末がブワァッと出てきたかと見るやサラサラと全身に降りかかる。

「忍法! 入道雲にゅうどうぐもの術!」

するとどうだろう!

エレフアントの身体がムクムクと巨大化してガゥジーラと同等の背丈になったではないか!

摩訶不思議!

これぞまさしく忍法!


ここで葉草守の忍者が使った黒い珠が何なのかを解説せねばなるまい。

あの珠は“珍宝・没鬼丹ぼつきたん”と呼ばれ、生物を一時的に巨大化させる秘伝中の秘伝の妙薬。

タケとウキクサと乾燥スッポン丸ごととオットセイの陰茎干物とウシの睾丸とツチノコの肝を鯨の汗で混ぜ合わせ捏ね、火口の硫黄庫の石甕いしがめにて発酵、八年寝かせたものを微細粉末化した吸飲剤である。

没鬼丹を発明した忍者医者・立津花仕庵たちっぱな・しやんは調合中に誤って大量に吸い込み、身長が急激に伸びて大気圏から頭が出てしまい窒息で亡くなったという曰く付きの秘薬である。


ガゥジーラ対エレフアント!

大トカゲと巨象!

巨獣同士の一騎討ち!

目の前でズンズン巨大化した鼻の長い灰色の動物に困惑する大トカゲ。

象の方は己れの異変に気付いているのか気付いていないのか。

「パオオオオオラーッ!」

鳴き声が大地を揺るがし轟く。

森の鳥の群れが異変を察知して一斉に飛び立つ!

「ンパオッ!」

先制攻撃!

エレフアントが長い鼻を振り上げガゥジーラの右肩を打撃する!

バシィッ!

思わぬ衝撃が大トカゲを襲い、足下がグラリと揺らぐ!

汁之丞の秘剣がまだ効いているのか。

倒れ掛けたが反撃を繰り出す。

ガゥジーラの拳がエレフアントの顔面を殴る!

「アンギャオーッ!」

ドガッ!

まともに拳を食らう巨象だが四本の脚をしっかり地に着け踏み留まる!

「パオッ!」

逆方向からガゥジーラの拳が再びエレフアントの顔面を攻撃!

ドガッ!

「ギャパオッ!」

流石に倒れそうになる巨象だが浮いた前脚で反撃に転ずる!

左右の大きな前脚が大トカゲの胸部を蹴り叩く!

「アギャッ!」

これは効いた!

ガゥジーラがふらふらになる。

しかしこれも耐え、態勢を整える!

すかさずガゥジーラは白色火炎を吐き敵を攻撃!

ゴッブアーッ!

しかしエレフアントは大きな耳で防ぎ、まるで効果が無い!

「パオーッ!」

「アギャッ!」

エレフアントが長い鼻で正拳突きを連続で放つ!

ガゥジーラも負けじと左右の腕で正拳突きを連続で放つ!

バシバシ! ビシビシ!

バシバシ! ビシビシ!

バシバシ! ビシビシ!

互いに真正面からの殴り合い!

巨獣が対等に戦いを繰り広げる!

バシバシ! ビシビシ!

バシバシ! ビシビシ!

双方、譲らず!

攻撃! 防御! 攻撃! 攻撃! 防御! 防御!

攻撃と防御が重なり火花を散らす!

バシバシ! ビシビシ!

バシバシ! ビシビシ!

だが長旅が災いしたのか次第にエレフアントが圧され気味になってきた。

考えてみれば、腕二本に対し、鼻一本なのだから過剰な負担であるし不利も当然だ。


「エレフアントに助太刀じゃ!」

大凧から紙吹雪が撒かれ、真下のガゥジーラを翻弄!

更に昼花火を打ち上げる!

これまで大トカゲと闘った武将達が応援にやって来た!

「皆の者、行くぞーッ!」

紙製ハリボテの槍を積載した台車が現れると民衆から一斉に応援の声が上がる。

「何ちゅうでっけぇ槍だべッ!」

閉じた傘のような形状の大きく長く太いハリボテ槍がガゥジーラの腹部を狙う。

「狙い良しッ!」

「突撃ーッ!」

「ウオォォーッ!」

ねぶた曳手衆に押された槍付き台車が大トカゲ目指し突っ走る!

ゴロゴロゴロゴロ!

台車が突進!

ダダダダダ!

ガゥジーラは迫りくる槍を叩き壊そうと尻尾を振り上げた!

グワァッ!

エレフアントが大耳をバサバサあおぎ大風を起こす!

舞い上がった砂埃にガゥジーラが目を閉じる!

と、その次の瞬間!

ぷすっ!

あろう事か、

「おおお~っ!」

巨大槍がガゥジーラのお尻の穴に刺さってしまった!

「みんぎゃッ!」

しかもエレフアントが鼻をブンッと回し石突(槍の尻)を叩く!

バシィッ!

あろう事か槍は大トカゲの肛門に更に深く挿入されてしまった!

ブスリッ!

「あんぎゃあああーッ!」

大トカゲが初体験らしい悲鳴を上げる。


「オー! スト~ップ! ヤリ、トメテ、クダサ~イ!」

外国人宣教師が両手を掲げ、台車の押し手を止める。

「いきなり誰だよ」

「イ~ケマセ~ン! アナル、イタイデ~ス!」


ガゥジーラが下半身を上下に振る。

ぽんっ!と軽快な音を鳴らし、槍は大トカゲの肛門から抜け落ちる。

「あぎゃ! あぎゃ!」

未知の体験に恐怖したのか、ガゥジーラはお尻を押さえながら大慌てで海岸に逃げ出す。

ドシン!ドシン!と大地が揺れる。


崖の上にまで逃げて来たガゥジーラは、たまたま漂流していた巨大な流氷を発見するとピョーン!と飛び移る。

ドーン!と氷の山肌に着地。

突然の乗客に氷の舟がドンブラコッコ大きく揺れる。

大トカゲの体重に流氷がザッバーッと傾くがすぐに態勢を整える。

ガゥジーラは流氷に乗る事に成功したのだ。


ガゥジーラの逃亡を唖然と見届ける人間達。


潮流に乗った流氷はガゥジーラと共に南へ、南へと向かう。


馬上の犬公方が平和を取り戻し安堵する。

「大トカゲめ、終わってみるとまるで走り抜けた野分のわけ(台風)のようだった」

右隣にいた法螺狗斎が答える。

「たとえ何度災いが起きようと、我等人間がこうして助け合えば、乗り越えられぬ苦難などないのじゃ」

三田井汁之丞が頷く。

「皆が互いに手を取り合う事が幸福の第一歩ですね」


犬公方と犬剣組、汁之丞、トワ、法螺狗斎、それに武士、町民、百姓たち、縮んだエレフアント。

数百、数千の人々が見届ける中、ガゥジーラは流氷と共に流され、いずこかへ去っていく。

次第に怪獣の姿は小さくなり、やがて夕陽が沈むとほぼ同時に波間に掻き消えたのであった。



   終


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