第23話 最高のライブ
いよいよ最後のプログラム……ミニライブが始まる。暗くなる会場。沢山の人達が見守る中、私は目を瞑りジッと立っていた。
大丈夫、沢山練習した。ヒナちゃんに付き合って貰って……自分でも合間を見つけては歌もダンスも練習してきた。
その成果を、今!見せる時!
覚悟を決めると同時にスピーカーから音楽が鳴り響き、ライトが会場を照らす。その熱を感じながら私は目を開けた。
「最初は『スタート/ダッシュ』って曲だよ!文字通り、初めから飛ばしてくぞー!着いてきて!」
「「おおおおおおお!」」
みんなの返事を聞き届け、リズムに合わせてステップを踏み、拳を突き上げる。
「はい!はい!はい!はい!」
「「はい!はい!はい!はい!」」
私の声に合わせみんなも声を張り上げる。それが私の心を高揚させていく。その勢いを乗せて歌詞を歌っていく。
1つ1つ、歌詞に心を込めて。その間も体に染み付いたダンスを繰り出す。そして勿論、みんなに笑顔。これは絶対忘れない。
この曲……『スタート/ダッシュ』は新学期を意識した曲だ。期待と不安に胸をドキドキさせた少女。まるで今日の大舞台を迎えた私のようだ。
だから自然と心がリンクしていく。練習以上に上手く歌えている気がするのも……きっとそれが理由だろう。
只管、夢中で、歌とダンスにのめり込む。
その間もみんなは青も黄色……私のイメージカラーのペンライトを振ってくれている。その目はどこまでもキラキラと輝いていて、表情も笑顔そのもの。
関係者席の方に黒崎さんもいる。同じように笑顔で見守ってくれていた。
視界の端では配信のコメントもコールやペンライトのスタンプを打ってくれているのが伺える。
みんなが一体となっている。そうさせているのが私だと思うと……どうしようもなく胸は弾み、充足感に満たされていく。
間奏に入る。
「みんな!私、輝いてるぅー!?」
「「おおおおおお!」」
〈勿論!〉
〈輝いてるよー!〉
返事は思い思いの言葉が重なり、大歓声で返ってくる。配信のコメントも辛うじて読めるくらい速い。
「嬉しい!ありがとーっ!」
飛びっきりの本音。感謝の言葉を返す。そして最後までその勢いで駆け抜けた。
1曲歌い終わり、拍手が鳴り響く。私の息は荒くなるが、深呼吸してそれを整える。何故なら、ノンストップで次の曲が来るから。
「2曲目!『ホワイト・シグナル』続けていくよー!」
気持ちを直ぐに次の曲に切り替え、また私は踊り出すのだった。
そうして3曲通しで歌い、5分間のMCパートに移る。その頃にはもう息も絶え絶えだ。
「はぁっ!はぁっ!『リンク・コード』でした……!ありがとう!ここからはMCパート!の前にお水飲むね……」
スタッフさんに用意された水を受け取り、喉の乾きを潤す。照明の熱や動いて火照った体にその冷たさが染み渡る。
生き返る……!よし、チャージ完了!
まだ息は荒かったが、みんなを待たせまいと気丈に振る舞う。
「ここまで聴いてくれてありがとう!どの曲も私が好きな曲だよ!歌もダンスも難しかったけど、沢山練習したんだ。その成果、出てたかな?」
「〈出てたよー!〉」
現地のみんなと配信のみんなの声が一致する。それに胸を撫で下ろす。
「ホント?すっごく嬉しい!頑張って良かった……♪本家も沢山聞いてね!それじゃあ次はいよいよゲストパート!それはこの人!」
私の振りで舞台袖からヒナちゃんが駆け寄ってくる。
「はーい!みんな!こんヒーナ〜!」
「「こんヒーナ〜!」」
ヒナちゃんの挨拶を私も混じって叫び返す。ヒナとも(ファンネーム)なら当然だからね!
「ありがと〜!ゆいちゃんもみんなもいい返事だね!配信のみんなも見えてるよ〜!」
忘れずに画面のみんなへのアピールも忘れない!流石ヒナちゃん!
「今日はゆいちゃんのライブに来てくれてありがとね!ヒナちゃんもいっぱい監修したから盛り上がっくれて嬉しかったよー!」
「ヒナちゃんホントにありがとう!練習も沢山付き合ってくれたもんね。頭上がらないよ……」
「いいのいいの♪ゆいちゃんが初めて立つステージなんだから、素敵にしたいと思うのは当然じゃん!」
ああもう眩しい!照明に負けないくらい輝いてるよヒナちゃん!
「優しすぎるよヒナちゃん……!」
「あはは!そうかな?でもここに大勢の人が集まってくれたのも、ゆいちゃんの頑張りあってのものだからね!」
そう、ここにいる人達はみんな私のファン。私がライブの準備で配信頻度が少し落ちても優しく待っていてくれた優しい子達。
私の頑張りが、みんなをここまで連れて来たのだ。
勿論、黒崎さんやヒナちゃんの存在が合ったからこそ。だけど、ヒナちゃんが言いたいのは……初めにダンジョンへ行こうと行動した私が居たからこそ実現したって事。そう言っているんだと思う。
それを私もいい加減受け止めなければ……応援してくれるヒナちゃんや黒崎さんに失礼だ。
「ありがとうヒナちゃん。それじゃ、次の曲行こっか?
「そうだね!次はなんと!ゆいヒナ初めてのデュエットだよ!みんなも盛り上がってねー!」
歓声を聞き終え、私達は静かに並び立つ。
「行っくよー!」
「それでは聞いてください!」
「「『比翼のレゾナンス』」」
同時に曲名を呟き、激しいメロディが流れる。
これはヒナちゃんが投影技術を駆使して収録済みの自分とデュエットした曲だ。その片割れを今回は私が担う。
それぞれのパートでは片方にスポットライトが当たり、暗闇の中で片方は止まる。交互にそれを終えると対照となるダンス、一体となるダンスを織り交ぜて行う。
今までの中でもぶっちぎりで難易度の高い振り付けだ。練習でも何度も失敗した。
けどその度にヒナちゃんは根気よく付き合ってくれた。そのお陰で……何とかついていけている。
歌詞やダンスに込められているのは、バラバラの2人、過去と現在の己がどれだけ対照的でも、どちらも繋がっているという事を訴えかけている。
その2つが未来へ羽ばたく翼となる事を示している。
私だってそうだ。アイドルの夢を諦め、私がしたかったのはこれじゃないという想いを胸に働く鬱屈とした日々。
性格もお世辞にも褒められたものでは無い。ぼっちで無口で無愛想な私だった。
だけど、ヒナちゃんの配信を見て感動した。そして勇気を振り絞ってダンジョンへと飛び込んだ。その中で貴方に……黒崎さんに出会えたのだ。
そして世界は変わった。ダンジョン攻略は大変だけど、その日々はキラキラと輝いて見えた。それも全て、辛かった過去があったからこそ。
過去の私が居たから
そしてそれは未来の私に繋がっているんだ。
そう私は気づけた。
だから今日、その想いをみんなへ伝えようとこの曲を選んだ。だから、歌詞の一言一言にそれを乗せて……最後の歌詞をハモるのだった。
拍手の中、ヒナちゃんは笑顔で手を振って舞台袖に消えていった。
「ヒナちゃんありがとう!そしてみんなも聴いてくれてありがとう!いよいよ次で最後の曲です!」
「「ええええええ!」」
〈もう!?〉
〈体感5分〉
〈今来たばっかりー!〉
「ごめんね?でもそう言ってくれて嬉しい。最後の曲は私が1番好きなヒナちゃんの曲です。全力で歌うので、みんなも最後まで着いてきてね!」
返事は聞くまでもなかった。
「それじゃ聞いてください!『プリンセス☆ナイト☆フィーバー』!」
最後の最後までみんなと楽しむ。その想いでこの曲を歌いきった。
そうして私は最高の1日を終えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます