陰キャダンジョン配信者の私でも恋していいですか?〜黒衣の剣士に助けられてバズっちゃった件〜
竜田揚げゆたか
第1話 ダンジョン配信者『ゆい』
燃えるような恋をしてみたい。
とまでは言わない。けど囁かでも恋をしてみたいとは思う。そんな事を思いながらなんて事ない日々を過ごす私。
でもそんな日常はふとした事から変わる。それが……私の恋の物語。
西暦2150年。
1000年前、世界各地にダンジョンと呼ばれる100層ある未知なる迷宮が発生するようになった。その中は魔力でできたモンスターが存在する非常に危険な場所だ。
だが人々はまだ見ぬ叡智やお宝を求め幾度もダンジョンへと挑んだ。持ち帰ったお宝たちは強大なエネルギーを生み出し文明を急速に発展させる事となる。
現在、ダンジョンに潜り叡智やお宝を手にし国に高値で取引するハンターが職業として根付いた。
そして今日もまた勇敢なるハンター達がお宝目指してダンジョンへと潜るのだった。
その内の1人がこの私。
渋谷ダンジョン。文字通り東京渋谷に発生しているダンジョンだ。現在50層まで踏破した者がおり、日本で最も踏破が進んだダンジョンであった。
私は軽やかな足取りで街の一角にある古い洋風の建物に入る。所謂ダンジョンを管理する公営ギルドだ。ここでは必要なアイテムを買ったり換金したり冒険の準備ができる。
でも昨日の内に準備は整えているのでスルー。
そして私は青い水晶で飾られた指輪を人差し指につける。それはマナシフトアイテムと呼ばれる、ダンジョンの講習を受けたハンターに配布される特別なアイテム。それに意思を込め、ダンジョン専用の肉体に換装する。
腰までの長い茶髪は金に、瞳は紺碧に変わる。そして洋服はその形すら変化する。
体が軽い……やっぱり魔力体は動きやすくていい。
魔力体はダンジョンの中でのみ使用可能な戦闘用の肉体。どんな傷を受けても軽く爪で引っかかれる痛みだけで済み、しかも血も出ない。出るのは青い魔力の粒子だけだ。そして限界が来るとダンジョンの入口まで緊急転移される。
この特殊技術によりダンジョンは誰でも安全にダンジョンに挑めるようになった。偉大な発明だ。
これもダンジョン由来の技術らしい。
──そうだ、そろそろ時間だ。
私は急いでカメラを起動する。カメラと言っても、青いラインが入った掌大の箱だ。電源を押し、起動する意思を込めるとラインに光を灯る。
そして視界の端にウインドウが浮かび、私の姿が映り込む。
あ、前髪乱れてる。可愛くない。
そう思って私はカメラを鏡代わりにしながらサッと右に寄せた。
これでよし。始めよう。
カメラの配信モードを起動する。
5分後。12人程集まったのを確認し、私は虚空に浮く画面に触れて待機画面を開ける操作をする。そして声を出す。
「あ、あー……みんな、聞こえてる?こんゆいゆい〜」
〈聞こえてるよー〉
〈こんゆいゆい〜〉
〈ゆいちゃんいた〉
新たに出た画面が文字を写す。配信のコメントだ。
「良かった。じゃあ今日は昨日撤退した第1層ダンジョンに行くから。よろしく」
〈はーい!〉
〈楽しみ〉
〈応援してるよ〉
私は淡白に呟き、みんなの返事を一瞥してダンジョンへと向かった。
暫くダンジョン内を散策する。石造りの廊下を行くと、正面からゴブリンが現れた。所謂ダンジョンモンスター……ここにのみ現れる怪物だ。数は5匹。どれもボロっちい剣や斧、棍棒を持っている。
汚いヨダレを垂らして迫る姿は醜く見えた。
それを注視すると、魔力体に宿るライブラリーアイ……情報を見抜く目が発動する。
ゴブリンLv9
ゴブリンLv5
ゴブリンLv4
ゴブリンLv7
ゴブリンLv4
このように名前とある程度の強さの指標であるレベルを見る事ができる。
〈ゴブリンきた!〉
〈ゆいちゃんファイト!〉
「うん、頑張る」
私は杖を取り出す。そして使用の意思を込めると周囲に魔力の塊が現れる。次にそれらを5つの球に分割した。杖の先端を向けて狙いを定める。
「『マナバレット』」
放たれた魔力の弾丸達。それらは真っ直ぐにゴブリンの群れに向かい着弾する。
「ゴギャアッ!」
獣のような声を発しながら倒れるゴブリン達。
〈さすがゆいちゃん!〉
〈ま、余裕だね〉
〈一発外れなかった?〉
だが1つ外したようだ。それはコメントを見るよりも前に気がついていた。仲間の体を踏み締めてゴブリンは迫る。
だが私はマナ・バレットを撃てない。魔法にはリキャストタイム……再使用不可時間があるから。
〈ゆいちゃん危ない!〉
〈逃げて!〉
私は立ち止まる。
ゴブリンは斧を振りかぶり、縦に振り下ろす。だがそれは右にステップを踏んだ私には当たらない。ゴブリンの動きは単調。それ故にしっかり見ておけば回避できる。
そしてリキャストタイムは終わる。杖を構え、その先に魔力を生み出す。弾丸の分割をしないならその分比較的早く撃てる。そしてゴブリンの機動力では……。
「詰み」
放たれた弾丸は脳天を撃ち抜き、血の代わりに青い粒子を散らせる。
〈ナイスぅ!〉
〈セーフ!〉
〈ゆいちゃんなら当然だね〉
「うん、当然」
私は一言そう呟き、消えてゆくゴブリンを眺める。すると幾つかの青い水晶を落とした。所謂ドロップアイテムだ。
「『アイテムボックス』ON」
そう言うと箱が宙に浮き、ゲートのような丸い光を生み出す。するとその中にドロップアイテムが吸い込まれていく。
「収集完了。新規アイテムは……無いよね。『アイテムボックス』OFF」
〈ゴブリンだしね〉
〈よくてお金ぐらいよ〉
「うん、そうだね。先に行こう」
無愛想に呟き私は進んだ。その間もコメントはゆっくりと流れ、質問などをしていく。私は相変わらず口数少なく返す。
毎度疑問に思うけどこの人達はなんで私なんか見てるんだろう?
ダンジョン配信は義務では無いが推奨されている。ダンジョンの記録を取るのが理由の1つ。そして広告収入が生まれるので私達ダンジョン配信者にはメリットがあるのだ。
もちろん視聴者の数とアーカイブの再生数による。
私は同時接続数……同接の平均は10人。アーカイブも良くて20いくかどうかの底辺だ。だが大手は何万人と視聴者を抱える程人気を誇る。それはもう全世界で楽しまれているコンテンツなのだ。
昔は記録を取る事はあってもここまで一般化していなかった。理由は簡単。ダンジョンは危険がいっぱいだから。
罠もあるが、寧ろ敵としてあっちからやって来る事が多い。そして昔は魔力体が無く、高確率でスプラッタな映像が流れる為規制されていたのだ。
研究とか仕事とかの理由なく、好き好んでそんな映像を見る人は殆ど居ないから当然だろう。居たら趣味が悪いとしか言えない。実在の人が傷つき、最悪死ぬ様子を楽しむなんて。
ダンジョン配信は魔力体という安全性と絵面の優しさが可能とした娯楽でもあるのだ。
〈¥500ゴブリン代を捧げる〉
〈ナイスト〉
〈ナイスト〜〉
「あっ、ワシワシさんストチャありがと。ゴブリン代て、それならもうドロップしてるよ」
〈草〉
〈確かに〉
〈安くて草〉
そんなやり取りに少し微笑みが漏れる。
ストリームマネーチャット……略してストチャ。所謂投げ銭だ。ナイストはナイスストチャの略ね。大手ならば数万が飛び交うが、私はたまに1万あればいい方だ。
まあDtubeを経由してるから実際入るのは3分の2だけど。
だから私の収入はお小遣いのようなもの。でもこんな無愛想な私を応援してくれるのは嬉しくある。
「あ、初見さんいらっしゃい。えと……youは何しにダンジョンへ?そうだな……」
少し思い悩み、答えを出す。
「レアアイテム集めたり、お金欲しい……かな?」
ダンジョンの通過がそのまま外でも使えるので金稼ぎに来るハンターは多い。
〈いいね〉
〈レアアイテム強いの多いしね〉
「強いのあるね。でも集めるなら宝石とか綺麗なのがいい。飾りたい」
〈分かる〉
〈青い宝石似合いそうだね〉
「似合う?そう……ありがとう」
俗っぽい私の望みを共感してくれて嬉しい。そんな事を話しながらダンジョンを進み、何度か戦闘をしては休憩しながら奥へと歩んでいくのだった。
そうこうしている間に大広間に出た。
「如何にもって雰囲気だね」
そう呟くと、暗い広間に青い炎が灯り照らされていく。そしてその中心に居る大柄のダンジョン生物。トロールが目を覚ましたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます