双六転生〜ふりだしに戻ると、そこは異世界でした〜

平井 海人

1マス目:ニートになる

 「逃げて!!」

目の前で最愛の彼女が警察に手錠をかけられた状態で叫んだ。

「えっ!?でも…」

七見航太しちみこうたは彼女を置いていけない。あたふたしていると、警察官と目があった。

「いいから!逃げて!!」


 僕はスマホとカバンを持ってとっさに走り出した。玄関で靴を中途半端に履いて階段を駆け下り、アパートを出て走っていく。頭よりも先に体が動いた。警察は当然僕を追いかけてくる。追いかける警察官は1人しかいなかったので、曲がり道をうまく使って警察を巻いた。


 僕は身を潜める事のできる場所を探し、狭い路地を歩いた。


 息が整わないまま、路地を抜ける。

 

 たどり着いた場所は僕の実家だった。もう無いはずの家。どうやら人生はふりだしに戻ったようだ。




 僕はニートになった。パチンコとタバコの依存で今日のご飯もないほど金欠だった俺は、会社の金庫からお金を100万円ほど盗んだ。僕は会社の同僚で付き合っている指山花音さしやまかのんに頼んで金を盗み、何事もなかったかのように一緒に退勤した。指山は鍵や金庫を管理する管轄だったので怪しまれなかったようだ。そして、僕はその指山と朝の6時まで酒を飲んだ。


 なんだこの慣れた柔らかい布の感触。さっきまで飲んでいた記憶しかない。あとから聞くと、僕は酔いすぎて指山にタクシーで家まで送って貰ったらしい。

 気づいたらベッドに居た。酔いつぶれて寝ていると、会社の上司から電話がかかってきた。

 僕は半目になりながらスマホを見て、着信拒否して2度寝した。


 2時間後、指山から心配のLINEが雪崩ように僕のスマホに送られてきた。だがそれを、既読スルーしてさらに2時間程寝た。目を開けると指山が目の前に座っていた。

「あ、起きたんだ」

心配のLINEを送ったくせに、そっけない態度の指山に僕は言った。

「んあ?なんでいるんだ?」

どうやら僕は寝ぼけているようだ。頭がボーっとする。

「合鍵持ってるからね」

「あ〜そうだった、そうだった。わりい」


そんな世界一つまらない会話を交わしていると、インターホンが鳴った。


 「出てよ指山」

僕は玄関を指差して言った。

「嫌だし!自分で出てよ」

指山は笑った。

「わかったよ!」

僕はそう言って、気だるそうに立ちあがると、もう一度インターホンが鳴った。

「せっかちじゃん!誰だよ全く〜」

両手を広げてタコのような変な踊りを繰り出した僕を見て、指山は爆笑した。そんな楽しい空気は外から聞こえてきた声で消滅した。


「大阪府警です。七見様のお宅でしょうか?」

「ええ!?なんですか?」

 僕は一瞬で目が冷めた。驚いている後ろで、指山の顔が真っ青になる。僕が気づく前に指山が気づいたようだ。

「昨日のお金のやつじゃない?もうバレたんだ…」

「はっ!」

指山にこそっと伝えられた言葉に対し、息を吸い込んだように驚いた。


 「令状あるんで、上がりますね」

令状を見せた警察官2人が僕の家に上がってきた。

「君たち、自分の会社のお金を盗んだようだね」

そう言いながら、指山に手錠をかけようとしている。


 「逃げて!!」

目の前で指山が警察官に手錠をかけられた状態で叫んだ。

「えっ!?でも…」

僕は指山を置いていけない。あたふたしているともう一度指山が叫んだ。

「いいから!逃げて!!」


 僕はスマホを持ってとっさに走り出した。玄関で靴を中途半端に履いて階段を駆け下り、アパートを出て走っていく。頭よりも先に体が動いた。警察は当然僕を追いかけてくる。追いかける警察官は1人しかいなかったので、曲がり道をうまく使って警察を巻いた。


 僕は身を潜める事のできる場所を探し、狭い路地を歩いた。


 息が整わないまま、路地を抜ける。


 「え?」


 たどり着いた場所は僕の実家だった。思い入れのある家。もうないはずの家。どうやら人生はふりだしに戻ったようだ。

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双六転生〜ふりだしに戻ると、そこは異世界でした〜 平井 海人 @kaito022349

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