第1章ーー1【 自由奔放なパートナー/吸血鬼との旅 】
第1話 暁 千里
僕。
年齢は17
運動は好きだけど得意というわけでもなく、今年の冬に学校で開催されたマラソンでは下から数えた方が早い順位でゴールした。
特技は家事全般。これは僕が何の取柄もない中で唯一誇れるものだ。そして最近は
その中でも特に好きなジャンルは異世界やファンタジー要素の強い作品だ。最近はのんびり異世界系やネット配信者が異世界転生する話が
とまぁ、ここまでが僕のプロフィールだ。そしてこれだけで暁千里という人間のほとんどは把握できたと思う。
学校では数少ない友人とお喋りして、放課後はバイトして、休日は新しい料理に挑戦してみたり部屋を
そこに非日常めいたものはなく、きっと世界中でありふれている普通の人間の日常。退屈で飽きもするけど、けれど僕はこの生活を気に入っている。
たまに刺激は欲しいけれど、やっぱり人生は穏やかな波の立たない平凡が一番だと、僕は
「千里ぃー。今日放課後遊びに行かね?」
「ごめん。僕、今日はこれからバイトなんだ」
いそいそと帰り支度を
ぱちん、と顔の前に両手を合わせて
「そっか。それなら仕方ないな。バイト、頑張れよ」
「あまり無理すんなよ。千里はたまに見てるこっちが心配になるくらい頑張るから、バイトなんてほどほどにやれよ?」
「うん。忠告受け取っておきます。ありがとね、二人とも」
ありのままに感謝の気持ちを伝えると二人は「お、おう」と
ぽりぽりと頬を
「じゃあ、俺たちは先帰るわ。また明日な」
「うん。また明日ね」
ひらひらと手を振って背を向ける二人に僕も手を振り返す。
「……やっぱアイツ。男とは思えねぇよなぁ」
「しゃーねぇ。俺たちみたいなザ・男みたいな顔じゃなくて童顔なんだから。それと
「色白で
「それな! おかげで性癖が狂いそうになる」
二人が何か話しているけど、それはクラスの喧噪に混じって上手く
修練くんと一真くんの姿が教室から出て行くのを見届けたあと、僕は正面に向き直ると止めていた作業を再開させた。机の中に入っている教科書を手際よく鞄に仕舞っていく。
「明日までの課題は入ってる。ふぅ、バイトから帰ってできる余裕あるかなぁ」
鞄の中に荷物をまとめ終えて、席を立ちあがる。それから鞄を肩に掛けると、一度小さく息を吐いてから歩き出した。
教室を出て
歩道をしばらく歩いてたまに信号に捕まって、信号が赤から青へ変われば横断歩道の白線をステップを刻みながら越える。
既に太陽は西に沈みかけ、周囲を茜色に染め始めていた。
立ち並ぶ高層ビルから覗く茜色の空。僕にとっては見慣れた景色で、それと同時にすこしだけ嫌と思えてしまう光景。
胸裏に湧くわずかな
「――――」
ふと、歩く足が止まった。
理由は分からない。
ただ、なんとなく胸がざわついて、何かに違和感を覚えた。
奇妙な感覚だった。
まるで誰かに呼ばれているような、助けを求めているような、そんな感覚。
「……猫、かな」
奇妙な感覚を覚えた方に振り向いてみる。視線の先は裏路地だった。外が既に薄暗くなっているせいか奥まで見えない。
だが、奥だ。奇妙な感覚がするのは。それを理解した瞬間、危険な香りが濃くなった気がした。
ドクドクと心臓の鼓動が速まっていく。
じり、と足が一歩踏み出そうとした、その時だった。
「にゃー」
「うわっ‼」
高鳴っていく緊張に視野が狭まっていく中、突然鼓膜に届いた鳴き声に不意打ちを食らってビクッと肩を震わせた。
それからハッと我に返って声がした方へ視線を下げると、薄暗い空間から一匹の猫がのそのそと歩きながら現れた。
「なんだぁ。猫かぁ」
どうやら奇妙な気配の招待は猫だったみたいで、僕はほっと胸を
毛並みが黒いせいで余計に裏路地の薄暗さに溶け込んでいたのか。だからこうして足元に寄って来るまで気付けなかった。
気付けなくてごめんね、と黒猫に謝ろうと腰を
「にゃ」
「え?」
僕の元までやって来た黒猫が急に
僕にはその鳴き声が、なんだか「ついて来い」と聞こえて。
「えっと、ついて来いってこと?」
「にゃ」
すごい⁉ 猫と話しが通じた!
どういう理屈かは分からないけど、とにかく猫と会話した。あまりの感動に思わず打ち震えていると、そんな僕を見て猫が呆れたように尻尾を落とした。
「にゃー!」
「は、はい! すぐ行きます!」
今度は怒っているように鳴いて、僕は猫相手に
そんな僕を見て猫はまた何か言いたげに嘆息を落とした。……猫も溜め息吐くんだ。
「にゃ」
「う、うん。とにかく、着いてくればいいんだね」
「にゃー」
さっさと来い、そう捉えられる鳴き声にこくりと頷いて、僕は裏路地に入っていく。
「……猫と話したこと、明日絶対に修練くんたちに自慢しよ」
けれど、そんな日が二度と訪れないということを、この時の僕はまだ知る
【あとがき】
センリくんは高校二年生の男の子ですが、男らしくない中性的な顔立ちをしています。つまり何が言いたいか分かりますね。彼はカッコいいよりも可愛い系男子なんです。男で可愛いは反則なんだよぉぉぉぉ!
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