第19話 セオとオーバーワークと鬼ごっこと
「ローズくん、少しお時間よろしいですかな」
「? はい、勿論ですわ」
放課後。
教頭のユージン先生に声をかけられた。
「実は、学園長のことで相談がありまして。まずはなにも言わず、学園長の様子を見ていただきたいのです」
ユージン先生の後について、学園内を歩く。
「それは……私のようないち生徒に、解決できることなのでしょうか?」
「ローズくんのような、セオ学園長を恐れない生徒にしか頼めないんです」
「恐れる、ですか」
「人は異物を恐れるものでしょう?」
「学園長のことは怖くありませんが、私は具体的になにをすればいいのですか?」
「学園長を、遊びに誘ってあげてほしいのです」
ユージン先生は、髭を撫でながらそう言った。
「遊び――ですか」
「まあ、見ればわかります。こちらへ」
私は学園の奥まったところにある、大きな扉の前に立つ。
ユージンが扉を開けて、促されるままに真っ暗な部屋に足を踏み入れた。
暗い部屋の天井まで、本が積み上がっている。
魔法で灯りをつけて、私は奥へ歩んでいく。
壁は全て本棚で、図書館よりも本が多い。
本棚の壁で、迷路ができている。
これら全てが学園長の蔵書なのだろうか。
「……誰。ユージンには、誰も入れるなと言ったはずだけど」
部屋の奥から、声が聞こえた。
「ユージン先生に頼まれてきました、ローズです」
「――ローズかい。……ユージンめ、余計なことを……」
「学園長、どちらにいらっしゃいますの?」
「……道を開けるからちょっと待ってて」
ごごご、と本棚が動いた。
道が開けて、まっすぐに進んでいく。
辿り着いたのは――大きな机の前だった。
「先に言っておくけど」
書類の山から顔も上げずに、セオが喋る。
「ボクに遊ぶ時間なんかない。さっさと帰ってくれないかな」
――かなりピリピリしている。
普段なら、こんな言動はしないはずなのに。
書類の山を凄まじい速度で崩しながら、さらに飛んでくる書類に判を捺し、常にペンを走らせている。
その目の下には、濃い隈があった。
――学園長とはいえ、仕事しすぎじゃない!
私はセオの手をぐっと掴んだ。
「何日くらい、寝てませんか?」
「……寝たよ、三日前くらいに」
「よし学園長、外に出ますわよ」
「そんな場合じゃないんだ」
「いいから! こんな生活してたら身体壊しますわよ!?」
「はーなーせー」
「離しません!」
腕の中でじたじた暴れるセオを、私は部屋から無理矢理連れ出したのだった。
★
「そんなわけで、魔法鬼ごっこをしますわよ!」
私、セオ、アンソニー、ジャレッド、エルム先生、リリーの六人は、校庭に来ていた。
魔法鬼ごっこ。
それは、原作乙女ゲームであったミニゲームである。
攻略対象キャラクターたちと鬼ごっこをして、素材や魔石などを獲得するゲームだ。
「しかたないな……。ルールは簡単。ボクに一つでも魔法か素手の攻撃を当てたらキミたちの勝ち。ボクにタッチされたらアウト、退場だ」
「あ、危なくないんですか……?」
溜息をつくセオに、リリーが恐る恐るといった調子で訊ねる。
「……ボクは学園長だよ。これでもハンデは少なめにしたけれど」
リリーがかあっと赤面する。
そう、セオは飛び級でフロリアン魔法学園に入学し、入学直後に学園長を任された神童である。
彼にできないことは理論上なにもないと言われるほどの実力の持ち主だ。
私は、メインストーリーのシナリオを思い出す。
セオ・タイム・フロリアン。
セオの置かれた環境は、この乙女ゲームの世界で一番といっていいほど特殊だ。
彼の姓はフロリアン。
つまり彼は、フロリアン王国の王族だ。
ただの王族ではない。先代の聖属性の魔法の使い手――つまり、先代聖女と王族の間の子供である。
世界最強と言われる「七色の魔法使い」に最年少で抜擢され、その頭脳と戦闘能力は国家規模とも言われている。
そんな彼には、姉がいた。
セオの姉は、聖女と王族の婚姻により強い魔力を期待されて生まれた。
しかし、彼女には魔力がなかった。
そして、ある日失踪した。
姉がいなくなってしまった、その寂しさを埋められず、学園の業務の忙しさに溺れて――セオ・タイム・フロリアンは闇堕ちする。
今のセオは、おそらく魔物に取り憑かれる寸前の状態だ。
メインストーリーを進める上では魔物に取り憑かれたほうがいいのかもしれない。
けれど、取り憑かれるのは命の危険が伴う。
できれば、そんな危険な目には遭ってほしくなかった。
そのためのガス抜き――魔法鬼ごっこだ。
「いきますわよ! よーい、スタート!」
晴れた空のした、私たちは一斉に駆け出す。
魔法鬼ごっこは、鬼を変えルールを変え、何回も行われた。
「はー……疲れた」
肩で息をするセオに、私は手を差し伸べる。
「今日はよく眠れそうですか?」
「……疲れたからね」
「学園長がよければ、またいつでも遊びましょう」
「……いいの?」
セオが赤い瞳をまたたかせる。
「僕らでよければ、いつでも」とアンソニー。
「息抜きになるなら、付き合おう」とジャレッド。
「学園長が元気じゃないと、全体の業務に師匠が出ますからね」とエルム先生。
「わ、わたしが力になれるなら! いつでもお声がけください!」とリリー。
「ね? ――周りに頼るのも、そんなに難しいことではないでしょう?」
私はそっと微笑む。
「……そうだね。じゃあ、またお願いしようかな」
セオが私の手を取り、立ち上がった。
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