たまたまそこにいただけなのに赤の他人の告白を成功させることになった or ALL DEAD END
嵯峨野広秋
第1話
そんな予感はした。
つきあっているというには、どこかよそよそしさがあったからだ。
だまったままで見つめ合っている男女の、男のほうが口をひらく。
「あ! あのっ、もしよかったらぼくと……」
ふたりの間隔は約一メートル。
両方とも高校生。同じデザインの紺のブレザー。下がズボンかスカートのちがいがあるだけ。
けっこう身長差があって、男のほうが10センチばかり低い。
「――――つ……つきあってくれませんかっ!!」
返事ははやかった。
相手は無言で首をふった。きれいな長い黒髪も、いやいやをするように左右にゆれた。
そして重たい沈黙。
どっちも視線を下げ、その場からうごかない。
おれも、彼らから目をはなせなかった。
(足がふるえてる。あいつ、がんばったんだな)
結果はともかく、おれはうらやましかった。
告白をやりきったことが。
自分はできなかった。おれの幼なじみは、気持ちを伝える前に死んでしまったんだ。
(……)
告白が終わり、ぱーっと視野が広がった感覚があった。
ここは夕暮れの駅のホーム。乗り換えができる大きな駅で、ホームは線路にはさまれている。そこの一番はしっこの部分。
(気まずいな。かといって、さっさとはなれるのも……)
とおくで鳴っている踏み切りのカンカン。
白線の内側にお下がりくださいのアナウンス。
こっちにやってくるのは、この駅を通過予定の特急電車だ。
いかにも特急という猛烈なスピード。だが、
(ちょっとはやすぎ、ないか?)
おかしい。
いつもはあんな感じじゃないのに。駅の手前にカーブがあるから、もっと速度を落としてるんだ。
(え……えーーーっ!?)
いま、少しななめに
そこにいる〈おれたち〉に向かって――
※
「もーイヤっ!!!! 私、何回死ねばいいのよっ!!!!」
ムッ、と近くを歩いていたおまわりさんがケゲンな顔でこっちをみた。
おれは「なんでもないですよ」という愛想笑いを浮かべる。
が、
「おい。そこのおまえ、
「あ?」
ムダな努力だった。
それもそうだ。
おれたちの中に、不良の総大将みたいなヤツがいるんだから。
「おまわりさ~ん。私、なんにもされてないですよぉ。ただゲームの
ササッと彼に近づき、警察の制服のソデを指でひっぱって言う。
ゲーム? とつぶやき、なおもいぶかしげな目つきでジロジロみていたが、
「お仕事ご苦労さまです」
集まりの輪の中心にいる男――おれたちのリーダー――のおちついた一言に背を押されたように、この場から立ち去った。
全員にきこえるようにため息をついて、
「と・に・か・く」
一文字ごとに、人差し指で〈おれたち〉を一人ずつ指さす。
「と」おれ。名前は
「に」おとなしい雰囲気の無口な女子。
「か」180ごえのガタイのいいヤンキー。嵐山。
「く」容姿端麗で黒ぶちメガネをかけた男。
「次こそ、ぜっっったいなんとかしなさいよっ!!!! いいわね!!?」
返事がわりに、舌打ちする嵐山。
深森は無言で、敬礼するようにメガネの横にそろえた指先をあてた。
足元に赤いじゅうたんがしかれているみたいに優雅に歩いていくのは
スーパーお嬢様の大金持ち。
彼女の行く先に、黒い高級外車がとまっていて、運転手らしき人がドアの横で立ってまっている。
「てめーはなーんもしねークセに。あのアマぁ、おれらのことを奴隷だと思ってやがるんだぜ!」
「そんなことはないだろ」
「シラ。実際問題、役に立っちゃいねーよ、あいつは」
くりかえす同じ時間で同じ目的に向かってがんばっているうちに、嵐山はいつしかおれのことをあだ名で呼ぶようになった。正直、はじめのうちはビビっていたが、ウワサと見た目ほどではなく、こいつは意外とつきあいやすいタイプだった。
「客観的なことを言わせてくれ」
深森が腕を組む。
おれたちは全員高校生だが、彼だけが私服。
この駅にちかい、全国的に有名な超難関校も私服……まあ、つまりそういうことだ。
「休日、彼女を乗せた車が、パトロールのように繁華街を走っているのを見かけたことがある。おそらく彼女なりに、どこかに手がかりはないかと探す努力をしていることが、ここから推測される」
「……」
「ターゲットの行動パターンを把握できれば、それは大きな前進だ。つまりは―――」
「わかったよっ!」
嵐山が大きな手を広げて、自分の茶色い髪をおさえる。
しずかなトーンで深森は話をつづけた。
「あらためて確認したが、やはりあの事故で死んでいるのはおれたちとあの二人だけのようだ」
「確認だとぉ~?」嵐山がつめ寄った。「どうやるんだよンなもん」
「一言でいえば気合。意識をギリギリまで失わないように……」
「やっぱアンタ、とんでもねーな」
「ホームに特急電車がつっこんで、そのあと電車は斜めに横倒しになる。だからホームの中央付近にいる人は無事なんだ。犠牲者は、
あはは、と笑いながら近くを通りすぎる女子生徒のグループ。
駅前広場にある大きな噴水。
そこに〈おれたち〉は集まっていた。ループ後、まずはここでミーティングをするのが決まりごとだから。
コンクリートでできた噴水のふちに深森が足を組んですわっていて、ほかは立っている。
「彼女の希望に
だな、と嵐山が言い、おれと谷川も無言でうなずいた。
駅のデジタル時計は「17:00」ちょうど。
「あ……あの、ミーティングはもう終わり……でしょうか?」
じっと見返す深森の目。
「?」と小首をかしげる谷川。
そしておもむろに、わきに置いた紙袋を彼女に手わたして―――――
「どっ、どうしてこんなことに……なってるんでしょうか!?」
―――その翌日の朝。
おれと彼女はちがう学校の制服を着て、ちがう学校の校門をくぐった。
堂々たる、不法侵入だ。
「し、しかもなぜにカップルのフリ……なのでしょう?」
深森からの指示は明確だった。
潜入してターゲット――男子のほう――に接触し、仲良くなる。これだけだ。
二人一組なのは男女のカップルのほうがよりアヤしまれないってことと、何かあったときにどちらかがフォローにまわれるから、と深森は説明していた。
あいつはフシギな男だ。
そしてネジがぶっとんでる。
告白に成功したら暴走する電車がとまる――――なんて、
いわく、受精した瞬間に卵子はポッと光るらしい。
ならば、
そしてその光は、人の無意識にうったえかける。たとえ
ゆえに、おれたちは告白の成功を目指す……いや、何度きいてもキツネにつままれたような気になる。
「あっ! いましたよ、ほら! あの彼です!」
だがやるしかない。
くりかえす時の中で、しだいに〈それしかないんじゃないか〉と、おれも含めてみんな納得したんだ。
「まちがいないね。うん、じゃあちょっと、声をかけてくるよ」
がんばってください、と両手をグーににぎって谷川はささやいた。
「きみ」
近づいている途中、急にうしろから肩に手をかけられる。
ふりかえると、
「みかけたことがない気がするんだが、学年とクラスは?」
口ひげを生やした先生がそこにいた。
おれは反射的に校門をみた。
とおい。しかも一気にダッシュで逃げるには、生徒の数が多すぎる。
ごくり、とツバをのんだ。
「……まさかとは思うが、部外者じゃないだろうね?」
たまたまそこにいただけなのに赤の他人の告白を成功させることになった or ALL DEAD END 嵯峨野広秋 @sagano_hiroaki
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